032 騒動の始まり
パワードスーツを見つけた翌日。ナツメのせいで五月病は悪化していた。だが、リュウゾウ先生に相談したかった俺は、嫌々ながら登校した。
教室に入ると一斉に視線を集める。髪型が変わったからだろうか。つい短くなった髪を触る。
たった一日しか休んでおらず、他に理由が思いつかない。その割には注目されているような気がする。首を傾げながら席に着くと、ヤクモが振り向いた。
「昨日は休みだったみたいだが、何かあったのか?」
珍しく声をかけられ目を丸くする。クラスメイトの様子といい、こいつの態度といい。何かがおかしかった。
訝しげな表情を浮かべて答える。
「……ああ、少し体調を崩してな。それよりお前が俺に声をかけるなんて、どういうことだ? 何かあるなら教えてくれ」
「お前、知らないのか? ナツメの実家から……。いや何でもない」
そこで口を閉じ、ヤクモは眉を曇らせた。言いたいことがあればはっきり述べるヤクモが口ごもるとは、怪しすぎる。
嫌な予感が胸をかすめる。これ以上聞くと後戻りできなくなる。そう思った俺が前言を撤回しようとしたとき、ナツメが入ってきた。
一気に教室が騒然となる。思わずヤクモに目を向けると、さっと顔を背けられた。頭の中に警報が鳴り響き、冷たい汗が背中を細く伝う。
俺とは違い、多くの視線など意に介さず、ナツメは堂々と歩き隣の席に腰を下ろした。その瞬間、ざわめきは最高潮となり、教室は混乱した。
ふとヤクモを見ると、前を向き一切こちらを見ようとしない。理由を考える前に本能が告げた。今すぐ逃げろ、と。
急いで席を立ち、体調不良を理由に保健室へ向かおうとしたが、ナツメが手を掴み引き留める。指を絡めるように握り、わざとらしく目を潤ませる。
「どうしたんだい、ソウガ。顔色が悪いよ。私が保健室まで連れて行ってあげようか?」
女子生徒から小さな悲鳴が上がった。知らないうちに敬称が外れたことも気になったが、なぜ熱い視線を向けられるのか――そちらの方に恐怖を感じる。
ナツメからの視線を避け、ひそひそと話す生徒たちに耳を傾けた。
「ねえ、二人は付き合っているらしいわよ。昨日も禁望山でデートしたって、冒険者ギルドに勤めているお姉ちゃんが言ってたわ」
「私も聞いた。わざわざ学校を休んで会ってたんだって。だけど、ハンナさんとは婚約しているけど、大丈夫なのかしら?」
言葉を失う。昨日のことが、なぜかもう広まっている。しかも、学園外のことだ。
身内がギルド関係者という生徒はいるが、そう多くはない。加えて、情報は間違っている。デートなんかしていないし、付き合ってもいない。
呆然とする俺に、不敵な笑みを零すナツメ。計略が成功したことを喜んでいる。間違いなく、噂を流した張本人はこいつだ。
受付のカナさんと親しく談笑する姿を思い出す。さっきの生徒の姉に伝えたのは、彼女だろう。
怒りよりも悲しさが勝る。好奇の視線が痛い。ぼっちなのに目立つなんて、酷すぎる。思わずナツメを怒鳴ろうとした、そのとき――。
授業開始を告げる鐘が鳴り響き、皆の意識が授業へ向かう。助かった――そう思えるはずなのに、胸の不安はまだ燻っていた。
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