026 パーティーへの誘い
ショウさんはソウガ君の様子を見に来たらしく、そのついでに朝食を持ってきたとのことだった。
私への対応と違って、笑顔で頭を下げる彼を見て、「約束」のことを思い出す。これだけ元気なら大丈夫だと確信すると、自然と口元が綻ぶ。
そんな彼を見て安心したショウさんは、朝食だけ渡して帰っていった。
ショウさんを見送り、家に戻ろうとするソウガ君。彼に続き、私も中へ入ろうとする。
だが、やはり入れさせまいと立ちはだかった。そんな彼に笑顔で告げる。
「ねえ、なんでも言うことを聞くんだよね。入れてくれないかな?」
「この家は『女人禁制(独身のみ)』だ。お前を入れると俺によくないことが起きる。無理な相談だ」
彼の目の前で、ひとつ肩をすくめる。
「その『(独身のみ)』はね――この家に残った怪談の名残。家主が所帯持ちのときに、独身の女を上げると祟るって話。あなたは独身。関係ない。……開けて?」
その言葉にソウガ君は目を見開く。ショウさんには後日、口裏を合わせておかなければならない。
思わず考え込んでしまい、ふと顔を上げる。項垂れるソウガに笑顔を向けると、しぶしぶ中に入れてくれた。
家の中は男の一人暮らしのわりには、きれいに片付けられていた。あんなぼさぼさに髪を伸ばしていた無精者だが、家事はそれなりにできるようだ。
私があちこち見回していると、ソウガ君が声をかける。
「それで何しに来たんだ。学校はどうした?」
彼は不機嫌さを隠すことなく、こちらを見る。正直に心配になってきたと伝えても、信じてもらえそうにない。
――まあ、そんなことはどうでもいい。これからずっと一緒にいるのだから。
仏頂面の彼に薄く笑みを浮かべながら答える。
「学校は休んだよ。大事な用事があるからね。だって、今から一緒に冒険者ギルドに行ってパーティー登録するんだから!」
その言葉にソウガ君は、パンを取ろうと伸ばしかけた手を止め、目を大きく見開いた。
何か言おうと口を開くが、すぐに閉じる。金魚のように口をぱくぱくさせる彼が可愛く、笑みを深める。
この姿を見れただけでも、学校を休んだ甲斐があった。
私は固まったままのソウガ君の手を取り、立ち上がらせると、朝食の入った籠を手に取った。
そして、満面の笑みで腕を引き、玄関を飛び出した。
◆
気がつけば、冒険者ギルドにいた。目の前では、ナツメとカナさんが楽しそうに会話をしている。知り合いなのだろうか。
ふと併設の酒場に視線を向ける。客はまだまばらだ。さすがにこんな朝から酒を飲む冒険者はいない。
あるいはハッピーアワーの時間帯ではないからか――今の俺にはどうでもいい。
目の前で談笑する二人をぼうっと眺めていると、カナさんと目が合った。
笑顔で小さく手を振られ、俺も返そうとしたが、ナツメがこちらを見たのでやめた。
ナツメが半目で睨む。けれど、すぐ笑顔に戻って手招きする。ものすごく行きたくなかった。
――約束の言葉が胸をよぎる。
気づかれないようにため息をつき、俺は覚悟を決めて歩き出した。
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