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方言だけ最強。機人×魔法の学園で逆転  作者: 黒鍵


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015 連休前にすることは

 一人で家に戻ると、すぐに手紙を書いた。もちろん両親に宛てたものだ。


 いつの間にかハナちゃん――ハンナと婚約することになっていた経緯を、聞かずには何も判断できない。


 その夜のうちに書き上げ、すぐに送った。三日後に届いた返事には、一言だけ。


 『ごめん、忘れてた』


 気がつくと手紙を破り捨てていた。宙に舞う紙片を呆然と見つめる。これでは何も分からない。なぜ俺がハナちゃんの婚約者に選ばれたのか。


 とにかく答えを出せない以上、婚約者のままでいいわけがない。だが、両親が決めた婚約を自分の意思で破談にしていいのだろうか。


 結局、手紙が届いても何も分からないまま、俺は答えを持たず、学校に通い続けた。


 唯一の救いは、ハナちゃんがAクラスで、滅多に顔を合わせないことだ。


 ただ、昼休みになると必ず弁当を持ってやって来て、一緒に食事をするので、あまり変わらない。


 今日も俺の机を囲み、ナツメとハナちゃんが弁当を広げている。二人とも裕福なのだから、ヤクモみたいに食堂で食べてほしい。


 そんなことは言えないと分かっていても、つい思ってしまう。


 ――ぼっちは嫌だけど、たまには一人になりたい。


 それにもうすぐ大型連休だ。金銭的に厳しい俺は、この機会に冒険者登録をして、少しでも家計の足しにしたいと思っている。


 きっと二人に知られたら、面倒なことになるのは火を見るより明らかだ。どうにかして一人になり、連休中の計画を練りたい。


 窓の外に広がる眩しいほどの緑の校庭を眺め、何かいいアイデアはないか考えていると、ナツメが声をかけてきた。


「なに黄昏れてるの、ソウガ君。五月病ってやつかな。もし悩みがあるなら相談に乗るよ」


 からかうような笑顔を向けてくるナツメを無視する。もし俺が五月病なら、その原因の一端はお前だ。


「本当に大丈夫ですか? 少しでも体調が優れないなら、言ってくださいね。私が介抱しますから」


 ハナちゃんも心配そうに見つめてくる。ここで弱音を見せたら、家にまで押しかけてきそうで怖い。


 じっと見つめる二人に、笑顔を作って嘯いた。


「別に何でもないよ。心配かけてごめんね。ハハハ」


 爽やかに言ったつもりだが、二人が怪訝そうな眼差しを向ける。少しあざとかっただろうか。だが、ここで尻尾を掴ませるわけにはいかない。


 笑顔を崩さずに二人を見返していると、ナツメが苦笑いを浮かべて言った。


「そう? ならいいよ。でも、もし何か困ったことがあれば、私を頼ってね」

「そうですよ。婚約者である私を頼ってください」


 二人は朗らかに微笑みながら告げるが、目は笑っていなかった。本当に怖い。だが気持ちはありがたいので、頭を下げてお礼を述べた。


「ありがとう、二人とも。何かあれば、必ず相談するよ」


 その言葉に満足したのか、二人とも深く頷いた。その様子に安堵して、俺は残りの弁当を食べようとしたら、ナツメにほとんど食べられていた。





 放課後になり、ソウガ君がそそくさと教室を後にした。うまくごまかしたつもりのようだが、明らかに様子がおかしい。


 今度の大型連休、ソウガ君は実家に帰らない。それは、彼が借りている家の持ち主に確認したから間違いない。


 もし長期間空けるなら、必ず一言あるはずだ。彼の両親に頼まれ、家主は毎日のように様子を見に行っている。そのことはソウガ君も知っている。


 そんな家主に何も告げず、家を留守にすることはしない。ああ見えて彼には常識がある。


 とにかく、この連休で彼が何をするのか把握する必要がある。今や彼は国内で最も注目されている人物の一人だ。


 この休みに接触を図ろうとする者は必ず出てくるだろう。とくに、きな臭い動きを見せるアクアクサ領の関係者は間違いなく動くはずだ。


 国が不安定な状況で、新たな火種を作ってしまった責任は、私にある。


 まずは連休中の予定を押さえる。そしてできれば傍で監視したい。十日という短いようで長い期間、いかにしてソウガ君を守るか考えると、頭が痛くなる。


 今はまだ問題を起こしていない彼が、このまま大人しく休暇を過ごしてくれることを、切に願った。


 視線を落とすと、校庭の砂埃が太陽の光を浴びて、無数の金の粒となってきらめく中を、颯爽と走り抜けるソウガ君の姿が目に映った。





 校庭を元気よく走るソウガお兄ちゃんを見つめる。さっきは心配をかけまいと気丈に振る舞っていたが、どう見ても何かを隠していた。


 そして、私はそれが何か知っている――経済的なことだ。


 今度の連休、お兄ちゃんは実家に戻らないと父から聞いた。どうやら、お金を稼ぐために冒険者活動をするらしい。


 お兄ちゃんの実家――シースイは酪農が盛んだが、とくに目立った特産品があるわけではない。


 それでも、お父上であるライガ様の実直な経営によって、少しずつではあるが着実に豊かになってきている。


 ――それに王都へ続く街道も整備され始めた。


 街道が通り流通が良くなれば、経済もさらに潤うだろう。ひいき目ではなく、シースイにはその力がある。


 牛や豚などの畜産に加え、最近発見された温泉は泉質がかなり良いと評判だ。ヤマシカ領ほどではないが、保養地として発展するかもしれない。


 もうしばらくすれば、実家は裕福になるはずだ。だが、それは弟のイルガ君の代になってからだろう。


 だからこそ、お兄ちゃんは家計を助けるために冒険者をすると決めた。もちろん、私の実家に頼めば、学費と寮費の三年分などすぐに用意できる。


 けれど、お兄ちゃんは決して受け取らない。だから、申し出なかった。


 学園での生活を見ていれば分かる。どんなに周囲から距離を置かれようと、媚びることなく己の信じる道を歩んでいる。


 あのヤクモ殿下にすら、自ら話しかけることはしない。


 そんな誇り高いお兄ちゃんが、たとえ婚約者の実家であっても、お金を借りるなど到底できるはずがない。


 ならば、私にできることは一つだ。


 この休みの間、冒険者活動に励むお兄ちゃんを支える。そして、少しでも等級を上げて、多くのお金を稼ぐことだ。


 それが、婚約者としての私にできる最初の務めだ――。休みに入ったら、すぐにお兄ちゃんの家に向かおう。そう固く心に誓った。





 ナツメに捕まる前に教室を出て、急いで家に帰った。途中、家主のショウさんに会い、困っていることはないかと尋ねられる。


 未成年の俺に安い家賃で部屋を貸してくれるだけでもありがたいのに、いつも気にかけて助けてくれる。


 本当に感謝しかない。


 改めてその気持ちを伝え、ついでに連休は実家に帰らず王都で過ごすつもりだと告げた。


 ショウさんと別れて家に入ると、すぐに図書館から借りてきた冒険者活動をまとめた本を開いた。


 読み進めると、おおよそ親父から聞いていた内容と同じだった。依頼を受けて解決するたびに評価され、等級が上がっていく。


 だが一つだけ知らなかった。ベアモンド学園の生徒はD級から始められるということだ。


 これならすぐに金が稼げる。自然と口元が綻ぶ。G級だと側溝の掃除や盗品・落とし物の捜索など、手間のわりに報酬が安い。


 もちろん命の危険はないが、冒険者っぽくない。俺は嫌だ。なにより稼げない。


 その点、D級なら基本は魔物の討伐だ。危険ではあるが、そのぶん報酬もいい。しかも俺には上位魔物ワイバーンを倒した実績もある。


 はっきり言って、楽勝で稼げる。そう確信し、連休を待たずに明日の放課後、冒険者登録に行くと決めた。


 ――この考えが甘かったことを、このときの俺はまだ知らなかった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。<(_ _)>

本作は原則、毎日1話更新です。

続きが気になったらブクマが作者の燃料になります。

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