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方言だけ最強。機人×魔法の学園で逆転  作者: 黒鍵


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109/109

109 禁煙の研究室、地の鍵

 チサトさんたちへの報告を済ませると、すぐに生徒会室を出て玄関に向かった。職員室の前を足早に通り過ぎたところで、声をかけられる。


「おい、ソウガ。ちょっと待て。少し用事がある」


 振り返ると、リュウゾウ先生が職員室から出てきた。今は学園総体中で休校のはずだが、先生は出勤していたらしい。


「リュウゾウ先生も学校に来ていたんですね。休みなのにご苦労様です。それで、俺に何の用ですか?」

「ああ、悪いが少し付き合ってくれ。そんなに時間は取らせない。今から俺の研究室まで来てくれ」


 武蔵零式に関することだと察する。隣を見るとハンナと目が合い、頷き合った。ギルドの用事も大事だが、こちらも重要だ。


 リュウゾウ先生に了承を伝えると、俺たちは研究室へ向かった。


 先生の研究室は学園の一番奥――機人の特別訓練場の近くにある。いったん校舎を出て校庭を抜けると、小さな建物が見えてきた。


 以前、武蔵零式を調査した研究棟の実験室ではなく、先生個人の研究室に呼ばれたことで、重要性が分かる。用件はなにか考えている間に、建物の前に着いた。


 建物には窓がなかった。その外壁は物理的な破壊のみならず、魔法的な干渉すら遮断しているようだった。


 加えて、黒鉄とアダマンタイトの合金で設えられた堅牢な扉には、最新鋭の魔導回路が刻まれたロック機構が幾重にも張り巡らされている。


 さすが機人工学の第一人者の個人研究室だ。厳重なセキュリティに感心していると、先生が扉に備え付けられた生体認証の魔導板に手をかざした。


 扉の上に付いた防犯カメラが俺たちを捉える。レンズ横のランプが赤から青に変わり、カチリと音が鳴った。先生が扉を押すと、静かに開いた。


 研究室に入り奥へ進む。やがて様々な機材がびっしりと並ぶ部屋が見えてくる。中に入り周囲を見渡した。思いのほか広い。あの外壁からは想像できないほど室温も適度に調整され、過ごしやすかった。


 俺が物珍しく機材を見ていると、香ばしく、蜜を煮詰めたような甘みを帯びた独特の香りが鼻をかすめた。


 香りのほうへ視線を向ける。部屋の奥――机の上で頬杖をつく眼鏡をかけた紫髪の美女と目が合う。手にはパイプが握られていた。


「カジコ、ここは禁煙と言ったはずだ。何度言えば分かるんだ!」


 突然、背後から怒鳴り声が飛んできた。思わずびくっと肩が揺れる。紫髪の美女――カジコさんは悪びれた様子もなくパイプを咥え、盛大に煙を吐いた。


「リュウゾウ、毎回同じことを言うな。禁煙という言葉は知っているし、その意味も分かっている。その上で私は煙草を吸っているんだ。この建物は防火システムも完璧だ。火事になることはあるまい。相変わらず神経質なヤツだな」


 そう告げて、彼女はもう一度パイプを咥えた。そのふてぶてしい態度に唖然とする。次の瞬間、リュウゾウ先生が彼女のもとまで歩いていく。


「その防火システムがこの煙に反応したら、ここは水浸しになるんだ。火事は起きないが、ここにある資料がすべて駄目になるんだぞ!」


 先生は大声で注意し、彼女のパイプを取り上げた。いつものことなのか、カジコさんは気にした様子もなく肩をすくめるだけだった。


 突然のことで理解が追いつかない俺たち。少しだけ冷静さを取り戻した先生が、こちらを向いて口を開いた。


「すまん、驚かせてしまったな。こいつはカジコ。カジコ・ヤン・ジーマーだ。五琳書(ごりんのしょ)の解読を頼んでいる俺の知人でな。古代文字の研究では有名なヤツだ」

「初めまして、原初の機人のマスター――ソウガ・アクオス君。隣にいるのは、キクーチェ公爵家の才媛と名高いハンナさんだね。私のことはカジコと呼んでくれ」


 笑顔で告げた途端、彼女はリュウゾウ先生からパイプを奪い取り、手慣れた動作で逆さにして携帯灰皿へ灰を落とした。


 そして残った熱を逃がすように一吹きして、刺繍の施された革袋へ滑り込ませ、ポケットに仕舞う。


 天真爛漫な彼女の所作には、不思議と知性が漂っていた。その姿を見つめていると、ハンナが肘で俺の腕を突いた。俺は我に返り、慌てて礼を述べた。


「初めまして。俺はソウガです。武蔵零式の五大機能『火』の解除では、お世話になりました」


 深々と頭を下げる。視線を隣に向けると、ハンナも同じく頭を下げていた。


 そんな俺たちを見て満足そうに頷くカジコさん。その隣でリュウゾウ先生は眉間に皺を寄せ、睨んでいた。


「それで、俺に用事があるということでしたが、武蔵零式のことですよね?」


 先生には悪いが、この後も用事がある。できるだけ早く済ませたい俺は、ここに連れて来られた理由を尋ねた。


「ああ、悪い。時間を取らせないと言っておいて、すまなかった。実は――」

「実はね、原初の機人――じゃなかった。武蔵零式の五大機能の一つ『地』の解除キーが分かったんだ!」


 リュウゾウ先生が告げる前に、カジコさんがずいと前に出て俺たちに言い放った。その態度にも驚いたが、それ以上に五大機能『地』という言葉に息を呑む。


 立ち尽くす俺たち。リュウゾウ先生はカジコさんを睨み、こちらへ視線を向け、静かに語りかけた。


「明日にはトライアド・サバイバルが始まるが、それまでに機能は解除しておく。だから今日一日、武蔵零式を預けてくれ」


 その言葉に頷き、俺はすぐに武蔵零式を呼び出した。


「きなっせ」


 魔力を込めて放たれた方言が空間を捲り、亜空間から漆黒の機人を召喚する。静かに降り立った武蔵零式へ先生が近づくと、前面装甲が開いた。


 それは新たな力の解放を歓迎するように見えた。その歓喜が伝播し、俺は口角を上げる――と、半目のハンナに睨まれた。意味が分からず首を傾げる。


「はは、噂通りだね、ソウガ君は。新たな能力を得るということは、それだけリスクも大きくなるってことだよ。とくに武蔵零式の規格外の能力なら、周囲に与える影響は計り知れない。彼女はそれが心配なんだ。そして、それに気づかない君に怒ってるのさ」


 カジコさんの言葉に、ハンナとリュウゾウ先生が頷いた。だが、たった一体の機人の能力が凄まじかろうと、国を揺るがすようなことはないはずだ。


 どんなに武蔵零式の機能が強力でも、大勢の機人に囲まれれば、ひとたまりもない。


 大袈裟なのでは――と口を開きかけ、ハンナの顔を見てすぐに口を閉じた。その様子を満面の笑みで眺めていたカジコさんが、優しく語りかける。


「安心していいよ、ハンナさん。今度の機能はどうやら付与魔法(・・・・)らしいから。あまり攻撃的なものじゃないと思うよ」


『付与魔法』――その言葉に俺は反応する。だが、ハンナは意味が分からず眉を曇らせるだけだった。

読んでくださり感謝です<(_ _)>

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― 新着の感想 ―
 カジコさん、めっちゃ好きなキャラクターです。  またひとつーー武蔵零式の謎が解けつつありますね。  楽しみ〜♪( ´θ`)ノ
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