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方言だけ最強。機人×魔法の学園で逆転  作者: 黒鍵


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105 鉄錆のインク、乙女の報復

 競技場を出て、魔導車に乗り込んだ私とソウガは座席に腰を下ろして向かい合う。そっと彼の様子を窺う。顔色は悪いままだ。


 そんなソウガを見て、素直にハンナから魔力ポーションをもらえばよかったのに――と言いかけて、口を閉ざした。


 ソウガは魔力の超回復で上限を伸ばしたいと告げていた。その言葉を思い出し、背中に冷たい汗が伝った。


 彼の魔力量は、入試のときで『108000』だった。あれから三カ月が経った。今は余裕でその数値を超えているだろう。


 国内最上位の宮廷魔導士の平均魔力量が『10000』前後。それを考えると、ソウガの魔力量がいかに凄まじいか分かる。


 ちなみに私の魔力量は『54000』で、ハンナは『41000』だ。このことを知るのは父と私、そしてキクーチェ公爵家の当主であるタケミツ様だけだ。


 ピクセル家の情報操作で、王家にも秘匿されている。


 もし王家が暴走し、国が乱れたとき、その抑止力になるのが、筆頭公爵家であるキクーチェ家と、王家に次ぐ最古の貴族――私の実家であるピクセル家だ。


 今の不安定な情勢下では、王家にも反王族派にも、力を隠しておく必要がある。


 思考の海に沈みかけた私は軽く頭を振り、ソウガに魔法剣について尋ねた。まさか剣とは名ばかりで、飛ばすことができるとは思ってもいなかった。


 だが、彼は自分も知らなかった――と素っ気なく答えるだけだった。


 私はソウガを見て、すぐに嘘だと気づく。説明にも不可解な点があり、問い詰めていくと、次第に顔色が悪くなっていった。


 そして、もはや言い逃れできなくなった彼は真剣な表情を浮かべ、すっと近づいてきた。眼前に迫るソウガの金色の瞳に私の顔が映り、息を呑む。


 運転席に視線を向けると、後部座席を仕切るスモークガラスが濃くなり、真っ黒になる。こちらの雰囲気を察し、執事のテイオが気を利かせたらしい。


 余計なお世話だと思いつつも、鼓動が早くなる。さらに近づくソウガの顔から、目が離せない。


(まさか口では負けると思って、強引にキ、キスで塞ぎにきた!?)


 目を閉じて受け入れるべきか、頬を叩いて拒否すべきか――逡巡する。だが、ソウガは私の焦りなど気にした様子もなく、顔を寄せる。


 心臓は激しく音を立て、何も考えられない。鼻先と鼻先が触れそうになり、きゅっと目を瞑った。その瞬間、ふわりと何かが頬を掠めた。


 ゆっくりと目を開けると、目の前にソウガの顔はなかった。あるのは、運転席を仕切る漆黒のスモークガラスだけだ。


 ――ふと足元から気配を感じて視線を落とす。


 そこには土下座をして、魔法剣について嘘をついていたことを謝罪するソウガの姿があった。私が呆然と見下ろしていると、ちらりと彼がこちらを見上げた。


 その瞬間、怒りと恥ずかしさ――二つの感情が振り切れ、口角が上がった。


 私の笑顔に笑みを返すソウガを見ながら、乙女の純情を弄んだ報いを、必ず夏休み期間中に受けさせてやると固く決意した。



――――――――――――



 何とか怒りを抑え、魔法剣についての情報を聞き出した私は、ソウガを家まで送り届けた。


 彼の家の前に魔導車を止め、私も一緒に降りる。大型の高級車が珍しいのか、すぐに野次馬が集まり出した。


 そんな住民たちを見渡して困惑の表情を浮かべるソウガに、肩をすくめる。今にも家に入ってしまいそうな彼を呼び止めると、テイオから大きなバスケットを受け取った。


「今日は魔力枯渇で料理を作るのは大変でしょ? 外食も無理そうだし、これでも食べて早く寝なよ。膨大な魔力量を回復させるんだ、これぐらいは必要だよ」


 私は、食料が山盛りに入ったバスケットを差し出した。


 私では両手で抱えないと持てないほど大きく重かったが、ソウガは片手でひょいと持ち上げ、笑みを浮かべた。


「助かったよ、本当にありがとう。この恩はきっと返す」

「本当に! 約束だよ♪」


 ソウガの言葉に笑顔で喜ぶ。これで言質は取れた。テイオに視線を向けると、小さく頷いた。ちゃんと録音できたようだ。


 私は心の中でほくそ笑む。そして、ソウガに別れを告げ、魔導車に乗り込んだ。



――――――――――――



 ソウガと別れた私は、すぐに屋敷へ戻った。父に魔法剣について報告したかったが、内乱を防ぐため、王宮に詰めっきりだった。


 仕方なく玄関を入り、テイオに父の書斎を使うことを告げ、食事もそちらに運ばせるよう頼む。


 書斎へ続く廊下を歩きながら、これからのことを考える。


 まず魔法剣だが、競技場で見せたのは一度だけだ。多くの者は、その威力も効果も理解できていない。


 目の前で風魔法を掻き消したが、遠く離れた観客席からは見えないし、モニターに映った映像を見ても、透明な風が消えたことなど分かりようがない。


 もし火や水の魔法なら危なかった。首の皮一枚で最悪は免れた。とりあえず、魔法剣は物理特化の魔力で構成された剣――そういうことにする。


 父へ渡す「魔法剣の本来の機能」をまとめた報告書と、大会本部や学園、王家に提出する嘘の報告書。私は二つを作成することを決めた。


 ――魔法剣に関しては、これでいい。


 問題の一つは対応方針が決まり、安堵の息を吐く。だが、もう一つの問題――炎翼のアスカ様の顔がよぎり、眉を曇らせた。


 ソウガとは少なからず因縁がある相手だ。だが、ただの学生のために、光武七翼の一翼が学園総体に介入する意味が分からない。


 こちらの問題はすぐには解決できそうにない――そう察し、深いため息をつく。視線を上げると、父の書斎に着いていた。


 ドアノブに手をかける。いつもより少し重く感じ、中に入るのを躊躇いそうになる。私は苦笑して頬を軽く叩くと、手に力を込め、勢いよく扉を開けた。


 その瞬間、閉じ込められていた冷たい紙の気配と、鉄錆に似たインクの匂いが這い出し、鼻をついた。それは私の不安をなぞり、嫌な予感を確信へと変えた。

読んでくださり感謝です<(_ _)>

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