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第31話 分裂した意思

 倶利伽羅江という『著名な武器』の外側を持つ男性体そのものに、概念はない。蜜を流し尽くした朱里から、記憶を引き継いだ魂の欠片でしかない。


 朱里を迎えにいく、成がある程度準備が整うまでの『繋ぎ』でしかないのだ。


 それを当人も自覚しているし、成と意識を同調するまで……日本だけでなく、地球の表面をある程度修復しなくてはいけないとされている。地表のひとつに降り立ったが、想像以上に悲惨と言える光景ばかりが広がっていた。



「徹底的に壊さないより、マシか」



 倶利伽羅江には、成以外にも幾つかの記憶が組み込まれていた。


 四方を司る竜王の一角に準ずる記憶もそのひとつだ。最終的には、成に吸収されはするが。それまで、意識を別個体にしておくための『処置』に過ぎない。


 メメやクーとは違い、倶利伽羅江と後家兼光はあくまで『座標扱い』に等しいのだ。


 成と朱里が『こちら側』で最初の朝を迎えるまでの、応急処置。


 つまり、住人がこちら側へ戻れるようにするための掃除をしておかなくてはいけないのだ。


 人類最初の朝のために。


 一定の後始末がつければ、あとはお互いよろしく。そのために組み込まれた清掃措置がこれからしなくてはいけない処置なのだ。



「……叔父(・・)としては、ある程度整えてやりたいが」



 地割れくらい普通。


 濁流もあって当たり前。


 氷河の如く、凍らないだけマシ。


 どれだけ、今日からの仕事を『楽に終わらせる』ために、尽力してきたかよくわかる。倶利伽羅江の中に、表面的にと組み込まれた竜王としての勤めをする必要があるのはたしか。


 しかしながら、彼らの『祖母』の手腕により、最終段階に取り掛かっているのだから……彼らも決して楽ではないだろう。


 同じ武器であり、彼らの末弟の表面記憶を引き継いだ後家兼光は朱里の周りを整えをいるだろうが。こちらも出来得る限り、成のために引き継いでやりたい。


 天からの啓示と称して、実は四方の境を無くして『過ごしやすく』するための整備活動にすぎない。


 神と称される存在が決めたのは間違いないのだが。


 その神らとて『存在』でしかないのだ。現実側か『異界』側に所在地を置くだけの。


 いい様によっては、倶利伽羅江たちも『神々の代理』に見えなくもない。あくまで、人間にとっては。



「……えーっと。まず、手を広げて開いて?」



 政側ではないので、瞬時に使いこなせない術のマニュアルをひと通りやってみれば。一度は溶けたはずの、竜王の剣が瞬時に登場。掴んでも、手にちょうど馴染む。


 帯の方は出し入れがコンパクトなのか、必要時以外は起動しないのか。手の内に消えてしまい、あるのは武器だけ。これは非常に楽だと柄をにぎりながら頷く。



「とくれば! 西方のその先を見たければ、俺を通れってことか!」



 剣を振り下ろせば、濁流がみるみるうちに凍りつき。


 空から雪が降ってきたかと思えば、凍えるくらいの吹雪が荒れ狂っていく。


 正直言って、やり過ぎたと自覚をせざるを得ない。



「……考えろ。上は冷やしたから、次は下……中の水流だろ?? 地底火山はこれくらいの寒さ、なんてことない!」



 西の先でを目指す意味はあっても、ここは日本でいう東北地方程度。アジア大陸の境にある地底火山を冷やすには、このくらいの冷気では弱くてすぐに溶けてしまうだろう。


 そう決断し、倶利伽羅江は地をいくつか蹴って、上空へと飛んだ。



「……日本海手前しか凍ってはないが」



 本体の成の方面か、政が頑張り過ぎたのか。


 日本を取り囲む地底のプレートを境に、日本自体が海から切り離されていた。海水が逆にプレートの下にある地底を冷やしているのか、穴が空いたように空洞化している。


 日本をぐるっと取り囲むように、空洞が滝壺の底と化しているのは彼らの予想通りだったのか。倶利伽羅江の中にいる『叔父』にとっては苦笑いでしかなかった。






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