表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/35

第30話 メメの役割

 邪魔な人間たちを、できるだけ退却させたメメだったが。あとは知ったものかと思うしかない。


 自分たちは、人間に近い外側をしているだけは異界の存在。人間のようでいて、人間ではない。意識の集合体でしかいないので、定まった外見と中身でしかないとされていた。


 今日までは。



「……これが、現実とやらなのね」



 実体化出来るまで、どれほどの時間を必要としたかまでは追求する暇はなかった。外側の肉体がいくら壊れようとも、メメの俗称はそんな程度で恐れを抱くわけがない。


 コンクリの地面が割れ、噴き出してくる大量の泥水の中に。どれだけの死者が居ようともメメには関係がなかった。



「……どれだけ。地球サイドの崩壊が起きようとも。兄貴らは、異界のために再生の下準備をしている。それは、任せて大丈夫ね!」



 手を広げ、光の帯を伸ばし。その中から選んだのか、取り出したのは二本の鋭い大鎌だった。



「あたしたちのことを勘違いしても、今更ね? 避けても、どこに行っても。ただただ行き着くのは『肉体の死』のみ。アフターフォローもせずに、あたしたちがこの崩壊を黙認していたわけがないでしょう?」



 水を覗き込んでも。見えるのはただただ濁流のはず。しかしながら、鎌を手ににしメメの隻眼にはどうしたって溶け込んでしまった『肉片』が見えてしまうのだ。人間たちを見殺しにしたことに変わり無いなら、その対価を披露するのはこれから。


 大鎌を構え、天を仰ぐようにして唱えていく。これからが、『編集の始まり』と言わんばかりに。



「……どこまで続けてよいか。溶かして良いか。拾ってよいか」



 メメの周りに、蛍火のような小さい光が舞っていく。いくつどころか、幾千、幾万も。ふよふよと漂うかと思えば、メメの頭上よりもずっと上に昇っていく。



「肉体の外側なんて、あたしたちがいくらでも変えてあげる! 異界に行くか、それ以外の『異世界』の住人になるか。『異界の編纂部』舐めんな!? 魂の預かり処をどうするかだなんて。何万年も、この崩壊を読み解いてきた長が対処してきたんだよ!!」



 生きていても。


 死んでいても。


 魂が残っていればいい。


 骨は骨で、有効に使わせてもらおうか。


 魂の器を編纂し直すために。


 骨髄の中にある、組み込んだIDを取り出すのが我らの仕事。


 メメの、今からの仕事は、そのIDを取り出すのに『混ぜて』いくのだ。


 多くの屍肉を。


 嗅ぎ慣れてきた、最悪の解釈人として。


 屍肉の焼き場どころの話ではない。


 女が男の『タネ』を受け取る、最悪の花街の解釈人としての記憶を。


 二度と、次のタネのために利用させるなんてあり得ない。


 怒りの『百目鬼』の目の集合体となった、目そのものとして。


 溶けてもいい役目を請け負った、最悪の編集者。


 そのために、濁流に飛び込んで水を鎌で斬る。ドロっと溶けた異臭の中にある、小さな小さなタネが浮かび上がるのに、嬉しさが混み上がってきたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ