第30話 メメの役割
邪魔な人間たちを、できるだけ退却させたメメだったが。あとは知ったものかと思うしかない。
自分たちは、人間に近い外側をしているだけは異界の存在。人間のようでいて、人間ではない。意識の集合体でしかいないので、定まった外見と中身でしかないとされていた。
今日までは。
「……これが、現実とやらなのね」
実体化出来るまで、どれほどの時間を必要としたかまでは追求する暇はなかった。外側の肉体がいくら壊れようとも、メメの俗称はそんな程度で恐れを抱くわけがない。
コンクリの地面が割れ、噴き出してくる大量の泥水の中に。どれだけの死者が居ようともメメには関係がなかった。
「……どれだけ。地球サイドの崩壊が起きようとも。兄貴らは、異界のために再生の下準備をしている。それは、任せて大丈夫ね!」
手を広げ、光の帯を伸ばし。その中から選んだのか、取り出したのは二本の鋭い大鎌だった。
「あたしたちのことを勘違いしても、今更ね? 避けても、どこに行っても。ただただ行き着くのは『肉体の死』のみ。アフターフォローもせずに、あたしたちがこの崩壊を黙認していたわけがないでしょう?」
水を覗き込んでも。見えるのはただただ濁流のはず。しかしながら、鎌を手ににしメメの隻眼にはどうしたって溶け込んでしまった『肉片』が見えてしまうのだ。人間たちを見殺しにしたことに変わり無いなら、その対価を披露するのはこれから。
大鎌を構え、天を仰ぐようにして唱えていく。これからが、『編集の始まり』と言わんばかりに。
「……どこまで続けてよいか。溶かして良いか。拾ってよいか」
メメの周りに、蛍火のような小さい光が舞っていく。いくつどころか、幾千、幾万も。ふよふよと漂うかと思えば、メメの頭上よりもずっと上に昇っていく。
「肉体の外側なんて、あたしたちがいくらでも変えてあげる! 異界に行くか、それ以外の『異世界』の住人になるか。『異界の編纂部』舐めんな!? 魂の預かり処をどうするかだなんて。何万年も、この崩壊を読み解いてきた長が対処してきたんだよ!!」
生きていても。
死んでいても。
魂が残っていればいい。
骨は骨で、有効に使わせてもらおうか。
魂の器を編纂し直すために。
骨髄の中にある、組み込んだIDを取り出すのが我らの仕事。
メメの、今からの仕事は、そのIDを取り出すのに『混ぜて』いくのだ。
多くの屍肉を。
嗅ぎ慣れてきた、最悪の解釈人として。
屍肉の焼き場どころの話ではない。
女が男の『タネ』を受け取る、最悪の花街の解釈人としての記憶を。
二度と、次のタネのために利用させるなんてあり得ない。
怒りの『百目鬼』の目の集合体となった、目そのものとして。
溶けてもいい役目を請け負った、最悪の編集者。
そのために、濁流に飛び込んで水を鎌で斬る。ドロっと溶けた異臭の中にある、小さな小さなタネが浮かび上がるのに、嬉しさが混み上がってきたのだった。




