第28話 皮をさらに洗う
内側は念入りに洗った皮のようだが、まだ肝心の汚れは取れていないそうだ。
「それを?」
「ボクらが?」
「全員分の祝装のためらしいっすよ! わては内側の最終的な汚れ落とすのに打ち込みますから!!」
と言い去って、クーは繋ぎ合わせたらしい皮の内側へと飛び込むように潜っていく。外の皮の臭いも軽減したと言っていたが、何故か爽やかでさっぱりとした香りしか漂ってこない。
「ふぅむ。クーも『科学王』側の役割也に、この皮の大雑把な処理法を編み出したのだろうなあ?」
「処理法?」
成がわからないでいると、フェイは収納の帯を使用して自分の服装を変えた。真っ裸ではないがほとんど今風の水着。着込んでも汚れてもいいようにしていたが。
「せめてフレグランスを変えてでの、石けんの量産さ。こいつは術とか他の道具じゃすぐに破れると聞いている。つまり、だ」
にやっと笑いながらも、皮の表面に乗っかって手でゴシゴシと擦る。すると、マッサージした感覚を施しただけで『泡』が生じたのだ。
「こういう時に限って、原始的!?」
「まあ、繰り返ししてみろ。クーが『何もせず』に地味作業し続けるわけないだろう?」
「……たしかに」
『科学王』と分野ごとの称号を、無駄にしておくわけがない。しかも今は、編集に必要な材料の手入れだ。異界側にいる最愛のために、こちら側が動かないわけがない。成やフェイもそのために、今までの全てを犠牲にしてきたのだから。
成も帯で服装を変えれば、皮に飛び乗ってマッサージ手法で皮を手入れしていく。擦ってわかるが、男性にも好まれやすい柑橘系の香水を大量に使った石けんだ。手に馴染みやすく、むしろ楽しんで作業できそうなくらい。
とくれば、と思い当たっていると。隣に誰かが皮に乗っかってきた気配がした。フェイか、と振り返れば、全く違う人物に目を向きそうになってしまう。
茶が混じった金髪の少女。ふんわりした雰囲気の彼女には見覚えがあったが、中に入っている『核』を見て苦笑いしか出てこない。
「お前さんも見つけたか? 成」
フェイにも違う少女が来たのか、苦笑いしているような声でこちらをからかってきたようだ。それには、こちらも同意し兼ねる。
「ああ。政が集めた『好みの女』を模したカードの具現化。こいつらから、選べって??」
「違いない。とりあえず、作業効率も兼ねて寄越してきたのだろう。迂闊にハグするなよ?」
「……気をつける」
目が合えば、赤かった瞳は薄い青へと変わっていく。可愛らしいフリルの水着が揺れても、肝心の箇所は見えない。まさしく、核本体が『カード』なので……イラストの選別くらい政ならお手のものだろう。
ただ、フェイが呻くのに近い声を上げたので振り返れば。なかなかに整った顔立ちの少年たちがご登場して、それぞれの少女を護るかのように手伝いに行ってしまった。
「「真似師の家系怖い……」」
科学の不思議を研究し過ぎた、クーの概念を整えた家系の執念のようなモノを垣間見た気がした。
なので、成とフェイも皮の使用権限を確保するのに、作業を再開するしかなかった。




