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第21話 異界での本部は意外とのんびり

 自分らにとっては『孫』だと認識させられている彼ら。


 しかしながら、こちらでの年齢は老婆に行くほども衰えていないはず。であれば、『外見詐欺』と疑われるくらいに実年齢との差はかなりかけ離されたのだろう。


 女は、景色の違う前と後ろを比較しながら……立っていた場所に腰掛ける。ここを離れるのはまだまだ早いと嘆息していると、背後にふわっとした『何か』が背もたれ代わりになってくれた。その正体を知ると、嬉しいはずなのに苦笑いが口から出てしまう。



「……その姿なのかい?」



 ライオンや虎よりも巨体な『オオカミ』。架空の生き物にしか見えないそれを、自分は『誰か』なのを知ってはいる。知ってはいるが、わざわざその姿でいることへは可笑しさしか込み上がってこなかった。



『次代の編集長が決まったのだろう? その王とっては『叔父』だからな……譲るまでの間はどちらでもない姿でいるしかあるまい』

「違いないが。私の旦那でもあるだろうに?」

『……だからこそ、だ』

「頑固だねぇ?」



 姿への配慮をするのなら、それはそれで好きにさせておくしかない。それよりも、前方の空の色の怪しさが気になってしまう。左右を見ても『血のような紅』に空は染まってしまっている。


 見える景色は現実ではなく『未来の現実』なのをどれほどの存在が認識しているだろうか。己らは『当代の編集長』として、現実側と異界側の間でその編集を見守らなくてはならない。


 一方が偏ってはいけない。


 等しく、均一になるように。どちらの世界を自分たちで『再生』させなくてはいけないのは『孫たち』でなくてはいけない。


 災害が起きようが、地球が壊れようが。その再生への道筋までの『門番』でなくてはいけない。ふたりのさらに後ろにあるのは国境にあるような建設物と同じ『門』。


 反対側は決して見えず、向こう側にどのような光景が広がっているかわからないようにされているのだ。自分たちでさえも。



『皆々、形ある姿が溶けようが構わない。本質の『己』が残っていれば……如何様にも変わるのが常。それでも、お前はその姿を選ぶのか?』

「おや? そんなつれない事を言うのかい? 先代の時に、君が私にいて欲しいと『選んだ』じゃないか?」

『……カッコつけているのに、蒸し返さないでくれ』

「ふふ。それは無理さ」



 金の髪は綿毛のように柔らかく、触り心地が良さそうにふわっとしている。襟足から伸びる長い髪だけはストレートに。その差はとても気に入っているが、似せたあちらの孫には継がせていない。あの外側も本人の意思次第では幾らでも変わってしまう。


 死と再生を編集していくのは、もう己らではなく小さな小さな彼ら。一度目の編集をこなすのは相当大変だったと朧げに記憶がある。



(さてさて、こっちはこっちで補佐しなくちゃなんないけど)



 旦那だと認識しているオオカミにもたれかかっていれば、とん、と小さな影が上から降りて来た。こちらは白い装束に対し、あちらは基本的に黒い。服は紫ではあるが、全体的に黒く見えてしまうのは被っている帽子も黒過ぎるせいだろう。



「や、先代」



 こちらを知っている様子だが、仕草と声で相手の素性がわかってきた。随分と『小さく』まとまったなと苦笑いしか浮かんでこない。



「向こうの『AKIRA』の身体は預けたのかい?」

「ええ。私よりも、クーの方が望月として動いてくれると思うもの」

「愛、かい?」

「愛だと思うわ。女が男の仕事を代わりにするのは、夫婦になるためには厭わないと思っているもの!」



 幼女くらいの肉体に似合わない、長い袖を広げれば。門から飛び出たが先が見えない。このための『楔』として現実側からこちらへ移動してきたつもりなのか、文句ひとつ言わないとは。



「そんなに、成側で見たのかな? クーのこれまでを」



 問い掛ければ、袖の先が何かに到達したのか、きゅっと腕の拘束は強くなっていく。しかし、痛がる素振りはまったく見せていない。むしろ、くすくすと笑っていた。



「ええ。だって……メメといっしょにあそこまで頑張ってくれたんだもの。『お兄ちゃん』になってくれるのなら、あたしだってそっちのお姉ちゃんのために頑張るわ」

「と言うことは、マチャの姉として?」

「そうよ? 当代の編集長でも柱はあたしが請け負うの。向こうの再生への手助け……させてもらうわ!」



 袖を引っ張れば、ぎっ、と重い壁を引きずる音が聞こえてきた。


 その細腕で、奥の奥を動かせるとは。と、先代の編集長だった身としては嬉しい限りだ。



『……愛が怖いくらいだな』

「成だけでなく、政の方も見てきたのなら仕方がないさ」



 異界での生活保障があれ、肉体の方の『破壊』があることに変わりない。その恐怖は、何も知らないと通常は狂ってしまうのは先代としても知っていたから。

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