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第2話 もふもふはなんのために

 雨を演出して颯爽と退場したように見せたが。


 実際のところ、雨がないと『移動』出来ない理由があって降らせただけなのは、彼らの事情でもあった。黒尽くめの彼か彼女かわからない存在は、もふもふのぬいぐるみを抱えた少女らしき子どもが濡れないように……マントのような黒い布で傘がわりに広げていた。



「もうちょいや、朱里(じゅり)



 声をかけてかけても朱里と呼ばれた子どもは、特に返事をしない。それをわかってか黒尽くめの方はそのまま進む。有料道路の高架下のあたりまで来れば、二人は雨宿り代わりに止まった。


 かと思えば、コンクリで固められているはずの鉄骨部分から。


 黒尽くめのとこからは、緑尽くめの布がにゅるりと。朱里の横からは紫の布の塊が。気色が悪いと見られがちだろうが、黒尽くめは特に気にしていない。むしろ、朱里の方が積極的に近づき……なんと素手でそれぞれ撫でていく。



「いい子、いい子」



 まるで犬か猫をあやすかの言葉に、布はトロンと溶けていく。それぞれの布だけが溶け、出てきたのは朱里が抱えていたぬいぐるみと同じ毛並みを持つ獣人らしき者が跪いていた。


 感情が出ているように見えはしないが、朱里のあやし方は嫌がっているようにも見えない。そのやり取りに、黒尽くめは自分の着ていたマントらしき布を剥いでいく。べちゃっと落ちたそれは、溶けて雨の降っている外側へと流れていった。



「『羽虫』を従えるんは上手いなあ? 俺には無理や」



 関西弁に近い方言。小さめのグラサン。安物に近い天の川のプリントがある衣服。髪色は銀髪のブリーチで襟足を少し長めに伸ばしている……いかにもペテン師に近い風貌の男。だが、ニシシとした笑い方と朱里を気遣う言葉遣いは、面倒見の良さが滲み出ていた。



「……いい子、なの。ぬいの代償はおっきいけど。出てきてくれる」

「俺のように使い捨てに近いおもちゃのカードちゃうしな? ま、対価(タイカ)はでかいわ。俺らの仕事は単なる占いやニュース報道とちゃうしな」

「……会う、ため」

「くくく。……せやなあ? 対価を支払い。先々の世のために動くもん。俺らの部類は、『陰陽師』やけどな?」



 手を軽く振ればカードが一枚。息を軽く吹けば、光ったと同時に絵柄と同じ風貌の男が横に立っていた。魔法のようで違う、対価を支払って顕現する呪法がこれだったのだ。



「綿も、紙も貴重。でも、『向こうの世界』のために対価は必要。……この子たちが、生きるための世界を紡ぐには」



 朱里の言葉に、男も黙る。黙る代わりに、顕現させたそれには指の指示だけで場から離れさせた。意味を受け取った『式神化』の男は光の筋に変わって雨の中を縫うように飛んでいく。



「……朱里は幼い。彼らの子のひとりだから幼い。知り得る言ノ葉はまだ知らない。導くの。受けるの。放つの。ただただ、それだけ」



 朱里が撫でていたものは、手が離れれば霧散するように消えた。代わりに蛍のような緑の光となって。朱里と男を囲んだかと思えば、ネオンの光に紛れ込むように……登っては雪のように儚く消えていく。



「こちらと向こう。離れて入れ替わる。混ざって戻る……(まさ)の元の家族に繋がるためにも」



 光たちが消えていくのを見届けた朱里に、政と呼ばれた男はぽんぽんと髪を撫でてやった。適当に見える男のはずが、朱里だけは労わる心が見えた気がした。



「……そやな。対価の支払いに必要なんは俺ら陰陽師だけちゃう。

『異界の編集』の中では『必要な情報』なんや。無駄にはさせん」



 そう言い切ったあと、次に行くべき場所のために。また別のカードと朱里のぬいぐるみを使い。高架下の壁に鋼鉄の扉を顕現させたのだった。

また明日〜

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