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第19話 小さな『編集長』の片割れ

 信じていたかった上司に、散々わけがわからない状況を突きつけられたというのに。


 それもだが、自分の身体と目の前に広がる光景にも理解が追いつかないでいた。



「……俺は、『兵部拓也』だよな?」



 外見は赤ん坊のままだが、言語を口から発するのが可能であれば。この姿はまやかしなのだろうか。慕っていた彼が離れていく時に、峯岸の方は連れて行くのは覚えていた。


『互いを離すのは必要』だと言う意味はよくわからないが、今まで聞いていた『最愛の報酬』を得る該当者は自分らも含まれると言い渡されたのを思い出す。


 身体が真っさらな状態まで縮んでいても、それは『仮初』の自分。名前も性別も喪うだけでなく、魂にそれまでの『経験』だけを残された存在となってしまう。


『天啓』を宣告されただけで、峯岸のようにほとんど素人だった人間までも巻き込まれてしまうのに。兵部のようにあらかじめ指定させられた場合もあったのだ。


 だが、起き上がれない今は術も何も扱えない。一般的にきれいな花畑という場所に『捨て子』として置かれた状況。これから何が起きても抵抗出来ないのは理解していた。



「……何をどうすればいいんだ?」



 慕っていた上司もいない。彼自身も、編纂の中では仮初の存在。それでも道順らしき指導はしてくれたのだから、ここからスタートだと思うしかない。


 自分が想う『最愛の褒美』は、自分で手に入れなくてはいけないからだ。ため息だけは吐ける、と納得していると前がいきなり暗くなってきた。



「あ〜……はいはいはい? こいつが『小熊』?」



 覗き込んできた顔に、兵部だった赤ん坊は引き攣った表情をしたと思う。目の前に大人が居るのはわかったが、驚くぐらいの男前。ただし、中性的な顔立ちで悪戯っぽい笑みを浮かべたそれは人間ではない。


 間違っていなければ、自分が最後に聞いた音源の原曲のジャケットに描かれていた『キャラクター』と酷似していたからだ。そして、目にした赤ん坊のことをきちんと認識しているらしい。



「……埋没の、鶴丸?」

「お? この表面にした俺を知ってるとは。朱里と成が指定したって逸材だな?」



 少し距離を置くのに、離れてくれた彼の服装がよく見える。黒い騎士風の軍服に、合わせたサーベルは少し厳つい剣に見えなくもない。帽子をちょいと傾け、流れた銀髪に似合う顔立ちはやはり見慣れたジャケットの彼と酷似していた。


 声だけは男性のそれだが、収録曲以外のドラマボイスで聴いた声ともよく似ていた。


 しかし、口から出た言葉は台詞ではなかった。その内容に反論しようとすると黒い布を上から被せられてしまった。



「!? 何を!!?」

「ツッコミ多いだろうけど、耐えろ〜? 成がわざわざ『俺の弟』を用意してくれたんだぜ? しかも、『曲』指定してくるんなら……兄側の俺がサポートしてやっか?」

「意味がわからん! 取れ!!」

「やめとけやめとけ。骨格さらに変わっから、防御程度に羽織ってた方がいい。あと、俺とはしばらく離れっから」

「はぁ?」



 好みのキャラクターを模した人物にも、意味不明な説明をされたかと思えば。マントで視界を覆われるだけで、勝手に展開も進めさせられてしまう。


 全くにもって意味がわからないと喚きたいところだったが、流れてきた『歌声』に自然と口を閉じてしまった。



 ♫

 鮮やかな香り揺られて 道を迷わせ

 言の葉の印 我を惑わす


 道、路、我の足を動かし

 先々の夢を掴もう


 愛を閉じて こころ広がる

 玉響への想いを ただただ流るる


 夢開ければ  明日を迎えよう




 キャラクターを模した歌声そのもの。


 なりきって、ただ録音した自分の歌ったものではなかった。途中までだったが、聞き惚れていたその歌がサビに入ろうとしている時に。


 関節が痛む、あの衝撃が自分に押しかかってきた。


 向こうもそのうめき声が聞こえたのか、歌を止めて苦笑いする声を聞かせてきた。



「はいはい、耐えろ〜? ある程度の『俺』になるから頑張れぇ。俺も変わっから、お……お互いぃ!? いで!! た、耐えろ、弟!!」

「い゛、痛い痛い痛い!?」



 伸縮する感覚から、今度は『成長』するのだとわかったが。お互いに痛い思いをしてまで、肉体を変化させる意味がわからない。痛みに耐えて、形成が終わるまでしばらくうめいたりのたうち回っているのだった。




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