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第16話 本性を知るのが怖い 壱

 黒百合姫の『準備』がある程度整ったのは、その相対である『成』にも伝わってしまうのは仕方がない。


 異界からの帰還を終えたばかりの『成』。現実側の固定名は五条悠馬とされている中年の男性体。彼が『狭間』への派遣期間を終えてから、『現実の表』に帰還してからわずか十時間程度。


 甲斐甲斐しい、若手の部下らにも労わってもらっている真っ最中に……軽い幻想時間が脳裏に届く。


 何が。


 何処で。


 どうすれば。


 どうして欲しい。


 などなど、ざっくり五条の脳裏に流れていくそれは。夢まぼろしでもなんでもない、『夢見の予知』の本当の使い方。


 これまでの『夢見の予知』は肉体を媒介に、異界との狭間に魂を派遣して『現実側の災害』位置を報せるための作業。


 本来は、その現実側の作業を『実際するための司令塔』に任命されている選ばれた存在。当然ひとりでは無理なので、調査員であり『褒美の女』が逢瀬を迎えるまで作業を引き継いでくれている。その『情報』がとうとう現実側でも届くようになったのだ。


 五条は仕方ない、と大きくため息を吐く。いち早く気づいたのは、長年バックヤード側で付き合ってくれた同僚の篠崎だった。



「……黒百合姫様が?」

「……ああ。とーとー、この俺に直接報せてきた」

「……政、様は」

「送り出したんだろ。場だけ、いっしょに整えただろうが。もういないんだろうな」

「であれば。こちらのおふたりも」

「……タイミングを見計らって言ってくれ。『メメ』と『クー』には似合いの連中だ」

「…………始まる、のですね」

「お前さんもだろ? 『フェイ』」

「! ……今はまだそれには」

「そうだな。なら、俺もこっちの名前で出来る仕事しますか!」



 あと、どのくらい期限が残されているかはわからない。それでも、兵部と峯岸が『小さく』とも。警視庁で、若手ながら選ばれた理由があるのならきちんと指導していこう。


 事務作業なんて、もう終いだと見切りをつけるのにちょうどいい。篠崎と確認を取り、下の階の『強化防音室』に移動させることにした。



「……なんで、今更訓練を?」

「あたしたち、一定の訓練受けてますよ?」



 服装を訓練用のジャージにさせたら、肉体年齢が二十代後半にしても幼いなと思ったが。


 今からふたりに見せる、五条の本性を見せれば。どこまで小さくなるかが楽しみだと思うのも仕方がない。


 五条自身も、伸縮性のある同じジャージを着ているが。まあいいだろうと苦笑いした。



「そろそろ。雑な仕事は別の連中に引き継いでいいと思ってな? お前さんらを『選んだ』、上お偉いさんらが鍛えてくれって言ってきてな?」



 何も載せていない台に、小型のレコーダーを置く。電源を入れれば、心が震えそうなバラードが流れていく。兵部の赤面を見て笑いが込み上がるけれど、ここは気にしない。



「……兵部、の声?」

「拓也の趣味を、ちょいと拝借したが。いいんだよ、この歌い方」



 五条がそう言い切れば、体のあちこちに衝撃音が。兵部らがまた驚くのを見ているのも楽しいが、音の衝撃と共に目線が低くなり、手足も胴体も短くなっていくのがわかる。


 まだ流れている曲に合わせ、準備体操のように『型』を披露し……関節痛を少し耐えながらも肉体を整えていく。目線が兵部の腰辺りで落ち着くと、想像以上に小さいままだったなとまた苦笑いが込み上がるしかない。



「「えぇええ!?」」



 縮んだ『五条悠馬だった少年』を見て、映画の演出とかにも見えただろうが。


 このふたりは『能力者』だから、忌避感はそこまでないのだろう。ただし、おっさんが少年に切り替わったのには普通に驚いているようだ。



「ははは! 俺は『(シゲ)』って役割だからな? 固定した姿は、基本的にねぇんだよ」



 鏡を見ていないので、今の『少年体』も何に似せているのかもわからない。知っているのは、自分の最愛の女となる少女自身。先程、夢想を伝えてきた張本人だ。このふたりにも『天啓』を伝えたが、あの姿はもう何処にもないはず。



「え? あの?? 五条、さんじゃ??」

「俺の趣味を理解したりしてくれたり、能力者として引き入れてくれたのは??」

「それも俺だけど。『五条悠馬』の中身はただの『人形の魂』だけだ」

「「え??」」

「あの木乃伊に見せたのは、『栄養欠如』になっただけで血肉はねぇの。俺の本体はまだ何処にもないように『設定』されている。お前さんら、次世代の最初への指導期間が来たから! 今度は姿を合わせたんだよ」

「「いやいやいや!?」」



 能力者だからこそ、だいたい掻い摘んで説明はしてみたが。それでも異界の編集部に所属している身ではないからか、理解は全然追いついていなかった。


 流石に、成ももう少し講義程度はするかとレコーダーは止めておくことにした。



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