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第11話 抜く毒の本性

 メメとクーは、五条の有り様を見て寒気が立ちそうになった。これを見るのが初回でなくとも、外側が溶けても構わないくらいに相対の『最愛』を助けるのを厭わない覚悟は桁違いなどで語れない。


 何遍も何遍も箱に詰められ、災悪の奥底に落とされ。


 それを開けるためにと『命を犠牲』にして、表の生き筋を無駄にしてきただけの存在。


 メメとクーも同じであるはずが、毎回同じの存在ではないので五条とは違うのだ。感覚は共通するようにさせられているが、五条を補佐する存在としては『毎回初めて顕現』するように組み替えられている。


 だからこそ、この無謀にも哀しい状況には毎度過呼吸症候群になりそうなくらい、苦しくて辛いのだ。



「……なんでやろな、な」

「全然……女々しく、見えないよ。成は、いつも必死だから。あの子らのために」



 メメとクーの外側が溶けてくる段階が始まりを迎える。互いに気づけば、すぐさま五条が開けようとしている箱に手を伸ばす。



「手伝うで!」

「そのための、あたしら! ここで溶けても構わない!」



 開けるのではなく、隙間に入るように身体を蕩けて侵入していく。まずはメメが、とクーが見届けてから五条は止まった。楔の箱に押し込められている相手を察知してから、無我夢中で箱を壊してでも開けようとしていた動作を止めた。


 メメが入り込む様を見て、呼吸が笛のように音を鳴らせていたが。奏でるものはなく、乱れて息苦しいそれへと変わっていったのだ。



「な……んで、まだ! 溶けるもんじゃ!?」

「ええんや、成」



 クーはぼろぼろになっている箱の上に座り、目線が近くなった成に向かって苦笑いするだけ。箱に触れた瞬間から、自分もまた溶けていくのがわかって……この狭間での『仕事の終わり』なんだなと理解するしかなかった。



『あたしとクーは、あんたらの下でしかないの』



 箱の隙間から漏れ出るメメの声は、もう濁声に近い。形の存在すら保てずに『次』までの眠りにつこうとしているのだろうか。



「わては『マサ』の下のクーや。東へ向かわすのに、西の下がこれを維持するだけの弟。ほんまもんの兄弟になるために、動いてええやん。異父兄弟の『タネ』を使役してもらえるんやから……あんさんらの『愛』が毒の中の支柱にさせられんの。嫌や」



 とぷん、とクーの外側が蕩けて箱の隙間に入り込む。



「「編纂のために、供物になるのは異父兄弟たちでいい」」



 ふたりの声が重なった瞬間に、あれだけ割れなかった箱が木っ端微塵に破壊された。メメとクーの蕩けたモノも毒の異臭と同じようになっていたが、五条には通じないのか口を押さえたりしていない。


 そもそも、箱の中の解毒を最終的に執行するメメとクー。五条が顕現した外側だけを供物にして、自分たちはまた眠るだけ。


 蕩けたモノらから流れ落ちた『人形』が転がってくると、五条の息は乱れたものが嗚咽を混じらせた過呼吸が止まらなくなった。



「だ、だって……ここは、もう……神戸の奥底だろ? 俺の……俺らの兄弟使って! こんな……こんな、まだ……形も!?」



 蕩けたモノらは蒸発はせずに、黒と白の人形の幻影が多く散りばめられていく。五条の息が広がったことで、この狭間を整理する『部隊』が編成されていくのだ。


 魂魄のかけらを媒介に、メメとクーの外側の残り滓を土台にした……『毒処理班』を作るのが彼らの本来の役目。大雑把に抜くことは出来ても細かく処理するのは毎回同じ。


 部隊編成が終わった後に、残った『人形』を手にしても五条は喜べない。それはただの『模型人形』なのだから。



「……まだ。この形なのか?」



 色のない、鋼と木で作られたそれ。


 一見、ゆるっとした風合いのキャラクターにも見えるが。薄黒い外側が、真っ黒黒に色が変わっていく。それを五条は溶けそうな赤い髪でくるくると包む。せめてもの、色付けになって欲しい願いだ。



「届けて欲しい。政の側に、俺の最愛に」



 表の編集部の近くに来たとされている、彼らのところへ。五条は直接会えないように『編纂』されているので、今も会えない。


 だけどどうか、いつか共に居られる時まではと。


 人形のそれは箱だった存在の下に出来た『道』の中に吸い込まれていった。何処へ行くかは五条には分からずとも、この道は確実に送ってくれると理解している。


 そして呼吸を整えるのに、一度叫んだ。


 叫んで一気に、『次の仕事』をするのに切り替えなくてはいけない。メメとクーの外側で出来た『部隊』を使って、表側の災悪を最小限に抑えなくてはいけないからだ。



「……さて。ここだけは『副司令』にさせろ」


 店と同じ軍服の姿には変わったが、蕩けたモノで出来た『階級の帽子』をかぶると目の周りにメガネでないレンズが目を守った。


 縁が氷の亀裂で出来たそれの中で、はっきり目を開いた五条の瞳も冷たく見える。



「……混ざれ」



 腰に装着していた警棒を二本。手にして構えたかと思えば、部隊らがまるで複数の竜巻のように渦を巻き……細かい毒を泡で洗い続けて行った。


 これが五条が軽減を任された、ポイントの中の最後の仕事なのだ。

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