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第10話 狭間と狭間で毒を抜く

『望月』とは苗字ではなく、立ち位置の標識のようなモノ。


 男と女で、『対』となる。


『マサ』の中でも、本物の政に使われるだけの綿の種に等しい。政が大量に集めた『式神』として顕現出来る兄弟のようなものとされているが。


 結局は、異界にとっては使い捨てに変わらない。


 世界の編纂の安寧にとっては、壊れて等しいだけの駒。それは当人らも知っていて当然。なぜなら、最終的には『異界の存在』に生まれ変わる約定を交わしているからだ。


 約定抜きに、駒を扱うのはただの殺戮者。現実側は其れを多く理解せずに、『殺しの毒』を狭間に流し続けているだけ。限られた示唆を受けた存在は、だから現実側に多く存在しないのだ。


「『メメ』。切り取るの何回で済む?」

「……五回くらいでやらせて。『クー』の分析もこれじゃいっぺんには無理でしょ!」



 ざぶざぶ水を斬るかと思えば、メメと呼ばれた女は鎌の柄をペン回しのように軽々と回し、刃の方はゼリーを斬るようにザクザクと切り刻んだ。


 斬った箇所から飛沫が上がり、飛沫に混ざっている黒い粒がにゅるりと抜き取られていく。メメの背後にいるクーが、二本の警棒を持って踊るように動いている周りに、気味の悪いそれらが集まっては異臭を放って焼けさせていた。



「きっしょい臭いやけど! どや? 成」

「もう行っているわよ?」

「はや!?」



 クーが毒の操作を実行するよりも早く、あの毒の濁流の中に飛び込む。


 狭間の現象であれど、『根本の魂』に傷がつけば現実側のそれにも傷がつき……暫くは動けなくなってしまうのを知っているはずなのに。


 この濁流の毒素を見て、口では穏やかに偽っていても焦ったのだろうか。メメの刻みの隙間を縫うように潜るのも、なかなか容易ではないのに。クーも、メメも、彼の覚悟は相応だと、互いに苦笑いするしかなかった。



「政もだけど、成の方もやんちゃ! だよね!」

「……ほんま。わてらの方に『マサ』が流れてても。ほんまもんの魂魄には、敵わんわ!」


 ある程度、それぞれの役割で毒を焼いても。五条は戻って来ない。濁流も落ち着かないとすると、別の何かを探しているのだろうか。メメとクーは武器を背のホルダーに装着してから、覚悟を決めて毒の薄い濁流の中に飛び込む。



 水の中は毒は薄まったせいか、うねる水の流れは特にない。渦巻きのように見せていた流れは『表面』のみ。毒が溜まっていただけの擬似に過ぎないのだろう。


 理解したクーは、指でメメに合図する。この先で、また外側は溶けてもいいかどうかを。


 メメは合図の形を見て、隻眼の方で笑顔を見せた。いつでも同じだと理解していると。



「行くで、メメ」

「オーライ、クー」



 指で形を決めてから、ふたりは魚雷が発進したかのように奥底まで速く泳いだ。


 奥の方は、冷たく氷のように水が固まっていても。自分たちは壊れていいのだから、五条を迎えに行かなくてはいけない。人間でも死人でもないので、口を開いても水は入らないふたりは焦りながらも五条を探していく。



「どーこに、『楔の箱』があんねん!」

「政に感覚の近いあんたでもわかんないわけ!? 成があの子の好みで潜ったんなら……『印』も当然なのに!」

「わかるかっての! 蜜の残り滓程度に無理言うな!!」

「アタシだって、似たようなのだから無理!」

「「あーもー!!」」



 凍るような寒さ。


 息も止まるほどに、薄い空気。



 この感覚を一番に慣れているのは。


『政』と『成』のみ。


 政は成の最愛を。


 成は政の最愛を。


 互いの最愛を守るために、編纂される時が来たら入れ替える。


 生命を賭けて、余生を守る。


 異界の編纂者に、示唆を得た者は必ずその仕事が来るのだ。


 相応に損傷を受ける者には、相応の生き方を得られる。何遍も繰り返された神に準ずる存在の使命者なのだから。



「「居た!!」」



 メメとクーが見つけた先には、ぼろぼろの箱を必死に開けようとしていた五条の姿があった。外側はほとんど、蕩けていて形を保てるかどうかだった。

また明日〜

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