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1.

窓の外からは元気な子供たちの声。

通り過ぎるバイクの音。

チュンチュンと騒がしいスズメの鳴き声。

そして部屋の中ではけたたましく鳴り響く目覚ましの音・・・。


「っあー、、もうこんな時間かぁ、、、。」


目覚まし代わりの携帯アラームを止めて欠伸をしながら伸びをするボクは影山有希かげやま ゆき。一人称がボク呼びなことと他の人より生きづらさを感じているところ以外は、どこにでもいる33歳の社会人女性だ。


いつものルーティーンでカーテンを開けテレビをつける。いつものキャスターが今のトレンドやら流行りやらを紹介しているのを横目に、コーヒーをいれ焼いた食パンにかぶりつく。世間では流行り廃りが目まぐるしいな・・、先月紹介していたお菓子はもう下火らしいのに。”今キてるのはコレ!”なーんて言ってるけど、そもそもどの層にハマってたら”今キてる”になるんだか。


もそもそと朝食を済ませささっと身支度を済ませる。とは言っても職場はデイサービスだから、メイクもほぼしないし髪も一つにまとめるだけ。33の女がほぼスッピンで職場に行くってどうなの?なーんて思われでしょう、皆様!でもね、現場はいつでもバタバタ、入浴介助で流れる滝のような汗、一日通して座ってる時間なんて昼食の休憩時間くらい。午前も午後も水分補給はいつでも行えるけど、飲んだ分はすべて汗として出てるんじゃないかってくらい汗だくになるお仕事なのですよ!それに加えて感染症対策の為汗だくになろうがマスク着用!つまり、メイク?するだけ無駄無駄無駄ァ!なお仕事だから基本的には日焼け止め程度でささっと終わらせてしまうのだ。


それに加えて、華々しい都会と違ってここは車必須の土地。故に車通勤な為予定でもない限り家から職場まで直行直帰!誰にも会わない、見られない!なんて楽な生活スタイルなんでしょう!


いつも通りの支度を整えてパッとテレビを消し家を出る。車に乗って通勤時間約20分。好きな音楽を流し大声で歌いながら一日分のエネルギーをチャージするのがボクの日課だ。一般的に介護職は大変だって言われているし、ボクもそう思う。でもお年寄りと話したり関わったり触れ合う時間は大好きだ。

ボクのいるデイサービスはそこまで規模も大きくないけれど、住宅とくっついているタイプのデイサービスだから他のデイサービスとは少し変わっている。住宅というのはサービス付き高齢者住宅のことで、施設内に居室がありそこに住んでいる方たちが主に利用しているのだ。もちろん外部からの利用者さんもいるけれど9割が住宅の利用者さんだから、外への送迎もほぼないのである。故に、一度職場に着いたら帰るまで外に出ることはないのだ!


「マザー!おはようです!」


大体いつも通りの曲が終わるころ職場に着き、先に来ている看護師さんに絡みに行く。マザーというのはこの施設のおばあちゃん看護師さんで、職員みんなから親しみを込めてマザーと呼ばれている。


「有希おはようさん、アンタほんといつも元気だね~」

「ボクから元気を取ったら何も残らないですよ!」


なーんて、元気な体育会系演じているけど、いつだって元気な訳じゃないしボクだって不調な時もある。ただ”職場”という”仕事をしに行く場”で自分の機嫌の良し悪しを出すのは違うってボクは思うから職場では職場の”顔”をしているだけ。


「あ、裕子さん、おはようです!」

「・・・・おはよう」


・・・お年寄りと触れ合うのは好きだ。入浴介助もトイレ介助もおむつ交換だって何一つ苦じゃない。レクも体操も利用者さんの為になることは進んでやりたい。認知が進んで暴言を吐かれたりなんてこともあるけれど、そういう時もあるよねーってやり過ごせる。天職なんじゃないかと思うくらいこの仕事が好き。

ただ、毎日ボクが気合を入れてくるのはこの”裕子さん”の存在のせいだったりする。裕子さんは社長の奥さんで介護歴も長いしスキルもすごい。この職場に入った時は純粋に尊敬していたのだが、なにぶん機嫌の良し悪しがめちゃくちゃ出る。ここ職場ですよね?アナタの家ですか?ってくらい出す。朝に弱いんだか知らないけど午前中は基本テンションが低くて挨拶をしても返ってこないこともある。・・・え?シカトされた?って最初はすごい凹んだけど、そういう人なんだなって理解してからはなるべく気にしないようにしている。

って言ってもこっちも人間な訳で、会話も弾まないし裕子さんのご機嫌伺いに精神すり減らされる毎日な訳でして。お昼辺りから調子が上がってくるみたいだけど、たまに一日通して機嫌悪い時なんて本当に地獄!そして極めつけは社長の奥さんだから誰も逆らえないこと。明らか黒でも裕子さんが「白」と言えば白になるし皆がおかしいと思いながらも異を唱えないことが地味ーにストレスな訳ですよ。ただでさえ少ない職員の中揉めたくないしでも仕事はやりづらい・・・。そんな負の感情に引き込まれないためにも毎日車の中で気合を入れてくる訳です、はい。


そして少ない職員の中の最年少がこのボク。一番直近で入社したのもボク。・・当然人一倍動くよねー!他の人の二倍も三倍も動いている自負はあるし、他の職員さんからも「有希よく動くから助かる」って言ってもらえるけど、動くことは全然苦じゃない。むしろやることない時間がある方が苦痛に感じるボクにとっては多忙な方が性に合っているのだ。


だから家でも休日でも忙しい。とにかく何かしていないとって常に追われている気持ち。アニオタであるボクは推し活も忙しいし、それを職場で隠すこともしない。常にどこでもオープンで他者との距離感の詰め方も早くて黒か白だけでグレーは存在しない価値観の持ち主であるボクは、発達障害や精神疾患持ちでもある。それは職場にも言ってあることだけど、裕子さんはあまりそういう”特性”に理解がないらしい・・。そこの兼ね合いも関係あるのかボクと裕子さんは根本的に性格が合わない気がするのだ。しかし前述した通り、裕子さんには誰も逆らえない職場環境でして・・。ボクにとって裕子さんの顔色を窺いながら仕事をするっていうことが、ここ最近ほんっとーに精神衛生上よろしくないってことだけは声を大にして言いたい!

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