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紫陽花の咲く頃に

作者: 蠱姫 夢希

3作品目となります。数年前からあっためていたものです。ただ正直まだ満足していないので、編集するつもりです。

 中学3年の時、君に出会った。梅雨時の激しい雨の日に捨て猫のようにびちょびちょに濡れて紫陽花を見つめていた。俺はどうにも放っておくことはできなかった。自分が濡れることも気に留めず、無意識に傘を差しだしていた。どう声を掛けていいものか、迷いながら目を泳がせていると彼女は突然に雨が止んだことに気付いたのか顔を上げてこちらに向いた。

「君はこんなところで何をしてるのかな~?もしかして私に用かな?でも、君はどうやらお隣の学校のようだけれど。」

 もたもたしているうちに相手の方から声を掛けてきた。どう答えればいいのか分かるはずもない。初対面、ましてや他校なのだからいつもよりたじろいでいでしまう。咄嗟に出てきたのは

「いや、だって濡れてるじゃん君。風邪ひくと思って、、」

 じつに弱弱しい声で、しかしながら彼女の眼に吸い込まれるように真っ直ぐ返した。すると、彼女は傘を持つ俺の手に両手をそっと添えてググっと俺の体の方へ押し返してきた。丁度相合傘のようになったところで俺の顔をのぞき込んで少し恥ずかしそうな震えた声で言った。

「君はさ多分、優しすぎるから少しだけお願い、私ともう少しだけいてほしいの」

 ここまで言われてしまっては引くに引けない。それに別に嫌だとは微塵も思わなかった。不思議と安心できるような、それでいて暖簾のようにつかみどころのない、しかしながら庇護欲を掻き立てられるような人間の姿をした猫にがっつり心を掴まれてしまった。


 気が付けば空が鮮やかな紫陽花のようなグラデーションに染まる頃になっていた。影になっていてどんな顔で言ったかは分からないが、「もう、そろそろ帰らなきゃだよね。ゴメンね。」と力なく言った。それで何となく察してしまった。察したというよりかはうまく誘導されたというほうが正しいかもしれない。それからずるずるとその関係は続いていった。半年ほど経ったころ、その関係を絶たざるを得ない状況になった。でも、嫌いになったわけではない。目まぐるしく回る季節の中にその一言を言った。「二月になるまで会えなくなる」と。すぐに終わらせるつもりだったから。

 彼女は眼を丸くして少し驚いたように見えた。言葉を詰まらせながら彼女は「そっか、寂しくなるけど待ってるからね」という自分を心配させないための強気な言葉を選んだ。その日の別れはなんだか本当にもう会えなくなるようなそんな気がした。若干の違和感はその時には気づくことはなかった。


 あれから、一か月とちょっと、本当に俺は高校受験を終わらせて二月の頭、いつも彼女と会っていた土手の近くに来ていた。その日会うことはなかった。忘れているのかと思った。そういうことがあっても一日くらいなら仕方はない。だが、何日も何日も来てはそこに姿を確認することはできないまま一か月が過ぎた。結局、卒業式の日にも姿を現すことはなかった。積もる話が無いといえばうそになる。何か大切なことを忘れているかのようなそんな寂しさだけが乾いた冷たい風と共に吹き抜けていた。


 高校の入学式も終わり、落ち着く暇は一学期の松になるまで結局なかった。ただ、ずっと何かを忘れているような違和感、別に楽しくないわけでもないのに何か物足りなさを感じる。生暖かい風が頬をなですっかり夏の入りを感じる。紫陽花もすっかり咲く頃になった。ああ、紫陽花か、気が付けばあの土手に来ていた。去年ほぼ一年飽きることなく通ったこの土手、鮮やかな紫陽花が今年も咲いていた。ぼーぉと見ていると、もう空が紫陽花色になっていることに気づいた。そろそろ帰るかと腰を上げると土手の向こうに蛍が見えた。


「蛍、、ああ、、そういえばあの子の名前は、、、」


 蛍、彼女が去年蛍が見える頃に同じ名前なんだと無邪気に笑っていたのを思い出した。ありふれた光景どうして忘れていたんだろ。元気にしてるのかとかいろいろ思ったけど、やっぱり寂しいよ。


「□□、君のことずっと待ってたんだ、会いたかったよ」


暗がりに人の影すらわからなくなるような道に耳なじみのある声が響いた。


更新頻度を頑張ってあげていきたいと思っている所存であります。

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