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改訂 彼女は勉強する

作者: 朱

むかーし。

《学ぶ事》に貪欲であった、彼女の話。


休日。

溜めてた録画番組を消化しようと、テレビ台の前に積み上げたVHSテープの黒山の中から、背面に《◯◯講座》と書いた一本を引き抜く。

カバーを外し銀色のビデオデッキの挿入口に押し当てる。テープはゆっくりと中へ消えていく。

次にテレビ用リモコンのビデオ切換ボタンを押し、画面をビデオ用に替えたらデッキ用のリモコンに持ち替える。

すると、彼女が音も立てずに近付いて来た。

おや?

と思いつつ、巻き戻しボタンを押す。

三十分程度の録画分は、あっという間に巻き戻った。その間に、彼女はテレビの真ん前を陣取る。

床にちょこんと座り、背筋をぴんと伸ばす。準備万端だ。


再生ボタンを押す。テーマ音楽が流れて番組名が表示される。

飾りっけのないスタジオに単色の背景と大机が一つ。そこに座る初老の男性は机の上で両手を組み、ゆっくり頭を下げる。

顔を上げたのは某大学の数学者だった。

「こんばんは」

放送は深夜前だったので仕方がない。

五回目の講義の内容は数学史。数学者の人生を織り交ぜつつ、数学の歴史を解りやすく紹介してくれる。時には数学者の『ちょっと残念な話』も紹介されたり。

面白かったから、テキストも買った。

だが。

三十分間ただひたすらに講師が喋り続けるのを観るのは大変だ。

眠気が襲ってくる。

首がガクンッとなったら巻き戻しだ。

十二分程経ったか。

ふわぁ…。眠いなあ。

ふいに視線を覚える。

彼女がこちらを振り返り、金色の両瞳で訴えて来る。

《寝るなー。起きろー》

と。

更に、じーっ。

《さっきの所はメモしなさい》

と。

慌てて余白に講師の話を書き留めた。

顔を上げたら、彼女の視線は画面に戻っていた。

私が録画した番組を食い入るように観てる。

その学習意欲に、私は感動すら抱いた。

(でも、何でだろうなあ…)


その後も彼女に起こして貰い、何とか無事に三十分を乗り切った。

「では今夜はここまで。また来週お会いしましょう」

数学者は指し棒を仕舞い、大机の上で両手を組んでから頭を下げた。その姿がズームアウトして番組は終わった。

再生を止めて来週の録画用に、テープを再び巻き戻す。

今度はアニメでも観ようかな。

私がテープの黒山に近寄ると、彼女は立ち上がり部屋を出ていく。

―あれ?次、アニメやけど一緒に観んの?

すらりとした後ろ姿に声を掛ける。

だが彼女は私に振り返る事なく、尻尾をゆっくり揺らして


―にゃあ~。


回答としては充分であった。

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