スタンピード
兎にも角にも、強力な援軍がやってきた事で、南門はほぼ彼らに任せて問題無いレベルまで来た。
ある程度の数を減らしつつ、様子を見て本体を叩く作戦に切り替えた刀聖の指示により、ケヴィンと刀聖は同時突撃を行う事となった。
大抵、スタンピードの特徴としては、やはり弱い魔物から順々に進軍を行ってくる。
下級の中でも下層のモンスターから、ゆっくりと上層モンスターへ、その後中級の下層から上層へ。
恐らく今回もその流れでほぼ変わりは無いだろう。
その為に下級の魔物を一定以上殲滅した後、ケヴィンと刀聖はその場を討伐隊へ任して一気に中級の本体へ突撃し、そのまま流れる様に上級の魔物を屠る作戦へ出る事となる。
報告が正しければ、そろそろが頃合いの筈だ。
そう時間も立たない内に、第一波がやってくるだろう。
それを肌で感じているのかエドワード達の参戦で盛り上がっていた一同の空気、次第に緊張が支配する様になった。
討伐隊は、アルベルト達を先頭に臨戦態勢。
その更に前線。
凡そ200メートル程先の位置で、ケヴィンと刀聖は魔物を待ち構える。
刀聖は腰を低くし、絶対切断を放つ為の構えを取る。
ケヴィンは相変わらず両腕を組み、気だるそうに立っていた。
嵐の前の静けさとはよく言った物、静寂が辺りを支配し皆が今か今かと待ち構える中……遠くの方で砂煙が上がるのが見えた。
ケヴィンが視線を凝らすと、地平線の一面を覆う様に猛進する多くの魔物達が見えた。
「おいおい、報告より少しばかり多いんじゃないか?」
視線の先には、先鋒にしてはやけに数が多い魔物の群れが映る。
刀聖はケヴィンの言葉に苦笑いを見せる。
「2、3倍が少しばかりと言うかどうかは置いといて、ここで人々の脅威が纏めて屠れるなら良しとしようじゃないか」
「はっ」
英雄らしい発言じゃねぇか、と刀聖を称賛しながらケヴィンは自然魔法を構築し始める。
正直な所、このまま自然破壊を考えなければ5000だろうと10000だろうと、全て殲滅する事はケヴィンには出来る。
だがその方法を使えば、当たり前にロレンシア大平原は、ロレンシア大荒野にその名を変えてしまう。
それを避ける為に、ケヴィンは一定範囲に魔法を抑える必要がある。
ケヴィンは魔法エリアを選定し、周辺の木々や川への被害が最小限に抑えられる範囲を構築し、その場に見合った魔法の準備を瞬時に終了させる。
「刀聖、タイミングは任せるぞ」
今回の討伐戦の全権は、刀聖にある。
彼が立てた作戦は討伐隊の者達に全て伝わっており、二人が突撃するタイミングも追って指示をだす事となっている。
極力討伐隊への負担を減らす為、最も数が多いだろうスタンピードの第一陣を、一瞬で屠る。
「今だ蒼氷!! とびっきりを喰らわせてやれ!!」
「はいよ」
その言葉と共に、ケヴィンは形成した魔力を一気に開放する。
瞬間、進軍する魔物の僅かに前方の上空へ幾つもの魔法陣が浮かび上がる。
魔法陣から出現するは、光り輝く巨大な剣。
それも一つでは無く無数である。
全てを燃やしつくす炎や、全てを飲み込む水、地盤を変えてしまう地や雷でも無く、辺りへの被害の大きい風も避ける。
その結果選んだ属性魔法は光。
幾つもある魔法の中で最速を誇る光魔法。
その中でも上級に位置するヘブンズソードを数えきれない程展開し、猪突猛進と進軍する魔物の群れへとケヴィンは叩き込んだ。
貫かれる多くの魔物達。
瞬きする間も無く、魔物達はその生涯を終わらせる。
巨大な剣はその一本で何体もの魔物を同時に屠る。
上空から縦に、横に、斜めに。
四足歩行の魔物は前後に体が分かれ、二足歩行の魔物は上段から真っ二つにされて居る事だろう。
翼を持つ魔物は地面に叩きつけられる事なく空中で体を切り裂かれる。
地面に深々と刺さる光の剣は、まるでつい先ほどからそこにあったかと錯覚する程の神速で、一瞬でその場に突き刺さった。
光の速さ等、人々の動体視力で追える筈が無いのだから、そう言った錯覚が起こるのも当たり前の事だった。
遠目から見れば光り輝く巨大な剣の数々は、まるで剣の墓場かの如く無数の剣山を作り上げる。
ケヴィンはそれらの魔力を一斉に雲散させ、全てを消し去る。
鋭利な刃物でずたずたに切り裂かれた様に傷口を開ける地面へ、小さな魔物達の一部はずるずると落下していく。
ケヴィンは瞬時に大地魔法を操り、ヘブンズソードの影響で抉れた地面を一瞬で元通りにした。
光魔法は土を焼き付けたり濡らしたり等しない。
勿論光源は熱を持っている為に長時間そのままにしていれば大地を焼いてしまうだろう。
それを回避する為にケヴィンはさっさと魔力を雲散させたのだ。
掘り起こされた土を元の位置に戻せば、無数の魔物死骸だけが頃がる平地が蘇る。
そしてその直ぐ後。
1000体の消失等、何事も無かったかの様に現れる魔物の群れ。
切り口だらけの地面を残しておけば、魔物達の足止めに成っただろう。
迂回しなければならない程の幅に、統率されている魔物の足並みを崩すことが出来ただろう。
しかしそれをせずにわざわざ地面を修正したのは、何も自然破壊を懸念した訳ではない。
敢えて魔物達に綺麗に立ち並んで貰っておく必要が有ったのだ。
その方が、『狩りやすい』からである。
「先頭との距離、約一キロ」
ケヴィンが敵と自分達の距離を刀聖へと告げる。
刀聖は鞘を強く握りしめ、足腰に力を入れる。
「残り700メートル」
僅か数秒の間に距離を詰める魔物達に、ケヴィンは距離を測るだけで何も行動を見せない。
「500メートル」
魔物達が駆け巡る事で起こる振動が、ケヴィンの足から伝わってくる程の距離だ。
「300メートル」
目前と言っても良い。
もう10も数えない内に、魔物はケヴィン達の元へたどり着くだろう。
「100メートル、やっちまえ、刀聖」
魔物の波にケヴィン達が飲み込まれようとする、その瞬間。
刀聖は、間合いに入ったフォレストウルフを切り裂いた。
その瞬間である。
横一線に、紫色の剣線が目の前の魔物達を襲う。
まるでバターでも切るかの様に。
まるで空気でも切り裂く様に。
手ごたえも何も感じさせない程、物理法則を無視した斬撃は、二人の視界を覆う魔物達を全て真っ二つに両断した。
地面を綺麗に整地した理由。
敢えて魔物の群れを直前まで追い詰めた理由。
一定範囲に纏まって、対象の範囲を狭めさせる事で一網打尽にする算段。
刀聖の異能力による一掃。
リスクが大きく、当たらなければ意味が無いと揶揄されがちな刀聖の異能力ではあるが……当たらなければ意味が無いのではない、当たれば『終わり』なのだ。
それを証明するかの如く、大進軍した魔物達は辺り一面に死骸を転がす事となった。
本来、人間はその能力上、多対一を得意としない。
どれだけ身体能力を極めようと、どれだけ高い魔力を得ようと、討伐出来る『範囲』と言うのはその者が持つ武器が『届く範囲』が限定とされる。
一対一では無類の強さを発揮する人間でも、やはり数の暴力に圧される事は当たり前にある。
どれだけ敵が居ても、何れは勝つ事が出来る。
一体一体確実に仕留めていき、最後には必ず勝つ。
力有る者ならばそれは確かに可能な事だろう。
時間を掛ければ勝つ事は出来るだろう。
だがそれが許されない状況なら?
守るべき物が有り、そこを迫りくる無数の魔物からの猛攻を耐えながらの攻防なら?
手数不足で、必ず防衛は失敗するだろう。
しかし、それを可能にするのが英雄達の持つ異能力である。
炎帝の自然魔法や、刀聖の絶対切断。
ひいては槍聖の龍魂の様な、人間としての弱点を補う様な異能力は数多く存在する。
人間の英雄がその身体能力に加え、一定の範囲に攻撃を行う事を可能にする技術や遠距離魔法の類を備えていたとすれば、正に無敵の存在である。
その代表格が刀聖と言えるだろう。
ちょっとチート過ぎますね




