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月下無限天~最強の在り方~  作者:
蒼氷の朱雀編
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努力する者とそうでない者

「Dランクが120人、Cランクが65人、Bランクが15人程に……派遣された魔導騎士団が100人程か」


「対して魔物側は、下級3000に中級1500、上級が500に『キングドラゴン』含む未確認の魔物が10体近くと目測されてるんだよな?」


「あぁ、それに情報が正しければ『魔人』が一人混じっていると言う」


刀聖がギルド員から受け取った資料に目を通し、ケヴィンは彼と共に情報の確認を行っていた。


「ま、普通に考えたら圧倒的不利と言うか、戦いにすらなんねぇな」


「タイミングが悪い事に、炎帝達は皆それぞれ別の任務に出払っている」


「例の氷帝達もか?」


「あいつらは……依頼料を与えなければ動かないだろう。そしてそれを用意している時間は恐らく無い」


情けねぇ奴等だ、とケヴィンは率直な感想を漏らす。


しかしその直後、昔の自分なら人の事言えないかと肩をすくめた。


以前の自分なら、例えこの様な状況となっても知らん顔だっただろう。


町が一つ潰れようと、気にも留めなかっただろう。


しかし、ここロレンシアの街中にはギルド支部DOLLSが存在している。


いつも世話になっている場所を、むざむざ魔物の奴等に与えてやるつもりなどない。


ロレンシアの町民達は皆、先程まで二人で模擬戦をしていた闘技場を避難場所としそちらへ避難している。


こんな時は一般人でもギルド支部に設置されている転移魔法陣の利用が許可される為、別地方へ避難可能な者はそうしている。


緊急時だから当たり前だろう。


一番の目標は勿論町への被害がゼロであること。


最初から英雄が参戦する討伐戦である事から、ほぼその目標は完遂される事になるだろうが、念の為の避難をして貰っている状況だ。


「手っ取り早く事態を収拾するには、俺とお前が上級以上の魔物を瞬時に屠る事が重要だが……」


「さすがに数が多いからな。下級や中級を無視するってなると、それに対処するこいつらの負担がデカすぎる。こんだけの人数じゃ間違い無く防衛線を突破されるだろうな」


「せめてAランクのメンバーが数人居てくれたらな」


「期待するだけ無駄だろ」


派遣された魔導騎士団の団員の中にも、当たり前に腕は立つ者はいるだろう。


しかし主力となる魔導騎士の本体は、殆どが炎帝達と共に異常発生した魔物達の対処で各地に散ってしまっている。


偶発的に起こったこのスタンピードに対応する為の十分な兵力は、現在アトランティス王国には残って居なかったのだ。


その為いくら腕が経つと言っても、魔導騎士の面々も結局はギルドランクに反映するとBランクに匹敵するレベルの者しかこの場には居ない。


Bランク以下のギルドメンバーに4500体もの中級以下の魔物を押し付けるのは聊か無謀過ぎた。


「やはりある程度近場で殲滅しながら、様子を見る他無いか」


魔導騎士団は国からの派遣でこの場に出張っているが、ギルドメンバーはその殆どが慈善活動に近い形で参戦している。


この討伐戦で名を上げてやろうと、野心が有る者達も居るだろう。


正義の為に力を振るおうとしている者も居るだろう。


では何故、この場にAランカー以上のギルドメンバーが居ないのか。


その状況は単純な心理である。


『怠慢』だ。


二つ名を持つAランク以上のギルドメンバーは、ほぼ何もしなくても一定の給与が支払われる。


主に英雄では無い一般の者がこの位までたどり着く事が出来たら、それ以降ほぼ確実に食いはぐれる事は無い。


それどころか毎日遊び惚けて居ても破産する事など有り得ない。


そこまでたどり着いた一般人が、その後どういった行動を取るだろうか。


命の危険を顧みず、己の鍛錬を欠かさず、更に上を目指すだろうか?


答えは『否』である。


その殆どの者が前線から後退し、ランクを落とさない様定期的に楽な依頼を受けるだけと言う工程を繰り返すだけの存在となる。


命を賭けなくても、生涯遊んで暮らせる様になるのだ。


そんな状況になった時、誰が好き好んで危険な依頼を受け続けるだろうか。


今現在、スタンピードの情報は全国各地に伝わっている事だろう。


勿論、魔物の勢力の情報も同時に出回っている筈だ。


未だかつて類似情報が無い程の大きな規模、上級モンスターが500体近くに、未知なる魔物が10体近く。


更には魔人の姿さえ目撃されている状況で、殆どの者が参戦は危険だと思って居る。


Aランクを目指そうと志しているBランク以下のギルドメンバー達も、実際にはほぼ確実に『英雄』が参戦するだろう事を期待して、この場に集っている。


あわよくば英雄のお零れを頂戴し手柄を立てようと思って居るのだ。


英雄が居るからこそ、危険だと分かっている状況でも参戦したと言う事だ。


これが英雄が居ないとなれば、それを理解した瞬間誰もがこの場を去るだろう。


所詮その程度なのだ。


英雄の参戦で安全が保障されているからと言うのが大前提である。


何故人々がここまで向上心を失ってしまったのか。


元々英雄が居なければ、当たり前に自分達で対処しなければならないのに、何故人々はここまで無頓着なのか。


それこそが『英雄の影響』なのだ。


英雄に任せておけば大丈夫。


自分達は何もしなくても大丈夫。


そう思わせる程に強すぎる英雄達のせいで、現代の人々の向上心は徐々に徐々に失われていった。


AランクメンバーがAランク止まりで満足するのも、いくら上を目指しても英雄には勝てないと言う決定事項が有る為に、誰もが最初っから強く成る事を諦めてしまっているのだった。


「決定打に成りうる者が数人居るだけで状況は変わる……俺とお前どちらかがこの場を守り、どちらかが攻め入る作戦が一番理想か?」


刀聖は現状で出来うる作戦を考え出す。


ケヴィンとしては折角集まったギルドメンバーの居るのだから、少しぐらいぶつけてやれば良いと正直思っているところがある。


しかし二人の思考は、『とある人物達』の参戦により、無駄な徒労に終わる事となる。


ケヴィンはちらりと討伐隊へ視線を向ける。


『三人』の人物がその場に現れ、人々から歓声を受けている。


その者達は、自分達程では無いがアトランティスに住む者達からすれば相応に信頼と実績に有る者達だ。


ケヴィンですらその人物達を視界に収めた時は、軽く口角を上げた程である。


「どうやら、その『決定打に成りうる者』が来たみたいだぜ?」


ケヴィンの目線を追う様に、刀聖はロレンシア南門で勢揃いしている討伐隊へと視線を向ける。


彼等は一定の間隔を囲う様に列を乱し始め、その中心に居る人物達へ称賛の言葉を届けている。


「『白牙の老神』様!! 前線復帰したのですね!!?」


「『鬼才の雷神』殿! なんと心強いお方がやってこられた事か……」


「『エドワード殿下』!! 共に戦えて、これほど光栄な事はありません!!」


ケヴィンと同じ様に、刀聖の表情にも笑みが零れたのが分かった。


英雄の存在が人々の向上心を失わせたのは事実だ。


だがしかしそんな一般人の中にも、まだまだ向上心を失くしていない者が存在するのも確かなのだ。


様々な英雄が誕生し、自分よりも年若い存在が次々と自分の力量を超えていく中、一切心折れる事無く生涯現役と言われ、『英雄を除けば世界最強』とまで言わしめた存在、元Sランカー、白牙の老神、アルベルト・ワイズマン。


そして一流の長老家系の元へ生まれ、『正真正銘の英雄を弟に持っている』にも関わらず、嫉妬に塗れずただ只管に努力をし続け、一般人の枠では『史上最年少』のSランク保持者、ケヴィン達の担任であり『鬼才の雷神』の二つ名を持つ人物……その名を、ルイス・ジュディーツィオ。


最後に、白牙の老神の再来、神童と呼ばれ、次期国王への期待をその小さな体に一身に受け、アルベルトに勝るとも劣らない類い稀なる才能を保持する、ケヴィンのクラスメイトであり、この国の王太子である存在、エドワード・カルミン・アトランティス。


堂々の凱旋である。


アルベルトは普段学園で見る格好と殆ど変わらない身だしなみだが、ルイスは黒ローブに身を包み、エドワードは学園でも着用している戦闘服を身に纏っている。


ふと、人々の群れから離れたケヴィン達の方へ、アルベルトが視線を寄越した。


こちらの正体を知るアルベルトが、親しみのある笑顔を浮かべながら片手を上げてくる。


ケヴィンと刀聖はほぼ同時に返事をする様に手を振り上げた。


不思議そうに此方に視線を向けたエドワードに対し、アルベルトはこっそりと耳打ちをした。


『蒼氷の朱雀と、刀聖じゃよ』


と、その声を拾うケヴィン。


驚いた表情を見せたエドワードは、姿勢を正しその場で腰を折り曲げる。


流石に蒼氷の朱雀が自分であるとまでは彼は気づいていないだろうと予想するが、果たしてどうなのだろうか。

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