Xランクへの資格
「剣聖からお前が氷帝の位置に就く事に積極的では無い事は聞いている。しかしいつまでもXランカーの派閥争いをこのまま野放しにして行く訳にも行かない。今回はその為にも最有力候補であるお前がその気になれば、いつでもXランカー出来る様に取り図ろうと俺が勝手に行動した事だ。許してくれ」
「つまり後は俺の意思次第でXランカー入りが出来る様になったって事か?」
「いや、実際には氷帝との位争奪戦を行って貰う必要は有る。今回はその条件を取得して貰う為の試験だった。つまり『Sランク』昇格試験だ」
「Sランク昇格にそんな試験なんて有ったか? 確か多大な功績が必要とかそんなのじゃなかったか?」
「はっきり言ってXランカーの俺を始めとする刀聖一派の無理矢理な権限行使だ。以前剣聖がお前のランクを一気に二段階上げた時と同じ様に、今回も俺達の推薦でお前をSランクに上げる為の作戦だ。俺が直々にSランク昇格試験を行った事にすれば、その昇格に異議を唱える者は居ないだろう」
Xランカーの職権乱用は何でも有りかと思うケヴィン。
「まぁSランク昇格云々の話はこの際どうでも良い。だがXランカーの話は少し可笑しいんじゃないか? 確か一般層からの支持も必要なんだろ? 信頼が大事だと聞いている。俺には目立った功績も無いしな」
「お前本気でそんな事を言っているのか?」
「あ? 何のことだ?」
ケヴィンはかつてメイファからのXランク昇格条件を聞いた際に、自分には関係ない事だと突っぱねた事がある。
自分が人々から信頼を得る行動なんてする日が来るとは思っていないからだ。
自分が好きな時に好きな様に依頼を熟す。
ただそれだけなのだから。
「1つ。A旧犯罪者、ゲノム・ゾンデルリンクの逮捕協力」
無機質な声でギルドマスターがケヴィンへと言葉を連ねる。
「2つ。ジパング学園大森林に出現した魔物達の殲滅」
どちらもケヴィンにとって記憶に新しいものだ。
「3つ。ギルド員メイファ・インベル遭難時の捜索、そして救出」
それは自分がやりたくてした事だ。
「4つ。小型化転移魔法陣の開発」
それも自分だけで出来た物では無い。
「5つ。デスマウンテンに潜む全ての魔物の排除」
今ではデスフォレストだけどな。
ギルドマスターの発言が終わり、続いて刀聖が口を開く。
「表沙汰に成っているお前の功績だけでこれだけの実績があるんだ。しかもこれらは全て一般公開されている」
「確かに全部蒼氷の朱雀として行動していた時の物だが、こんなもん誰でも居合わせたら当たり前にやる事ばかりだろ」
「その当たり前の事を当たり前にする事が一般層から強く評価されているんだ。先程述べた功績を、お前は全て依頼としてでなくお前個人が率先して行動した。英雄にだって簡単に出来る事じゃない」
そんなもんか?
と、ここに来ても大した事をしたつもりは無いケヴィン。
「それに実力においても、お前は史上最速でAランクにたどり着いている。あの炎帝を超える異常な速度でな。お前は、お前が思って居る以上に世界中の人々から多大な評価を得ているんだ。その結果、現在お前はオールガイアランキング『10位』にその名を刻まれている」
「……意味わかんね」
「Aランクなのにも関わらず、オールガイアランキングのトップに名を連ねる事自体が異常だが、トップ10は今までずっとXランカーが名を連ねているナンバーだったんだ。それを覆す程に、人々はお前の活躍に感謝しているんだ」
確かにオールガイアランキングは、本人達の実力よりもその実績を高く評価される。
評価している機関が、主に一般層からの評価を集計しているからこそ起こり得る事象だ。
トップ10以上となると英雄内での評価も重要視される為に、未だ氷帝が3位と言うふざけたナンバーに位置付けられているのだが。
「じゃぁ何だ? 俺は知らねぇ内に、着々とXランカーに向けての階段を上っていたって事か?」
「そういう事になるな。勿論、何度も言うが最後はお前の意思が尊重される。こればっかりは俺達が強制する事は出来ないからな」
「強制されても困るけどな」
ケヴィンは半ば混乱していた。
何故自分の様な存在が評価されるのか。
蔑まれ続けていた過去を考えれば、今の状況は想像がつく物では無い。
ただただ自分のやりたい事を愚直にやって来ただけだ。
我儘にやりたい放題してきた自負もある。
なのにも関わらず、蒼氷の朱雀は人々から求められる存在となった。
どうしてそうなったのかさっぱり分からないのだ。
「俺からも重ねてお願いする。氷帝の位置を司る事を、少しでも前向きに考えておいてくれ」
「まぁ、ここまでお前らがお膳立てしてくれたんだ。S級昇格ぐらいなら素直に受け入れてやるよ」
「よし……」
刀聖はガッツポーズを見せる。
Xランカーに成ると言った訳じゃないのに、そこまで喜ばんでもとケヴィンは思う。
「話は変わるが、別に男女差別しているつもりはねぇけど、ギルドマスターってのは『女』だったんだな?」
首を傾げながらギルドマスターへと問うケヴィン。
その言葉に、何故か『彼女』は肩をビクつかせた。
体格としてはケヴィンと同じぐらいの背丈だろうか。
転移魔法を扱って居た事からエルフだろうと当たりを付ける。
「そうなのか? 俺達Xランカーでもギルドマスターの素顔は知らないからな。確かに勝手に男性だと俺も思っては居たが」
刀聖も不思議そうにギルドマスターへと視線を向ける。
変声期で声を変えて居ても、ケヴィンには通用しない。
彼女から聞こえる地声が、女性で有る事を裏付けている。
ただ、ケヴィンはその声ですらなにやら気持ち悪い、無理やり作られた声の様な気がしていた。
声だけでは無い。
その背丈も、体格も、全てが作り物の様な、奇妙な感覚としてケヴィンは捉えている。
ギルドマスター程の超重要人物と成ると、誰の目も誤魔化す程に高度な変装技術でも掛けられているのだろうかとケヴィンは思う。
ただ、ギルドマスターは英雄の出では無く一般人だと言われている為、彼女に特別興味の無いケヴィンは彼女の素性を本気で探ろうとは思わなかった。
「S級昇格は甘んじて受けてやると言ったが、どうせならこのままもっとお前と戦いたいんだがな」
ケヴィンはにやりと笑いながら刀聖へと視線を向ける。
「はは……正直言えば少し時間を開けて欲しいとは思うが、こっちが勝手に試すような事をしたんだ、それぐらいの要望は受けなければ――――」
その時だった。
「刀聖様!! 刀聖様はこちらですか!!?」
闘技場の入り口の扉が開け放たれ、ギルド員らしき人間が息を切らしながら駆け込んでくる。
「断る!」
「いや、何をいきなり断ってんだ」
「なんとなく面倒臭い強制依頼を頼まれそうな気がしてな」
「せめて話は聞いてやれよ、Xランカーだろ」
二人のやり取りなどお構いなしに、ギルド員は肩で息をしながら大声で叫ぶ。
「ロ……ロレンシア大平原南に……『スタンピード』が起こりましたぁぁあああっ!!!」
「それを早く言え!!!」
「お前が断るって言ったんだろ」
『スタンピード』とは。
突如発生する群衆等の突発的な大進軍である。
この世界での認識としてスタンピードが指す言葉の意味は、『魔物』によるモンスター・スタンピード。
近年魔物の異常行動が注目されがちであり、こう言った魔物による大群が押し寄せると言った現象があまり人々の記憶に残らないのだが、徒党を組む筈が無いとされている魔物同士がまるで統率されているかの如く行動する事自体は多々あった。
その集大成がこのスタンピードである。
最低でも1000体以上の魔物が突如一部の地域に現れ、近隣の村や町等を壊滅するまで大進軍し続けると言った行動を起こす事がある。
大抵が英雄の手によって片づけられている上、そう言った大進軍には予兆が有る為事前に防ぐことも可能だった。
しかし、ギルド員の話ではロレンシア大平原南で起こったスタンピードは、なんの予兆も無く突然目撃例が出たと言う。
異常行動と異常発生が偶然にも重なったとしか思えない事象に、ギルドは大慌てで対策を練らなけばならない状況になったと言う。
「動けるギルドメンバーに招集を掛けている中……こちらの闘技場に刀聖様が居られると言う情報を得まして、なんとか討伐隊に参加頂ける様お願い申し上げにきました……」
「スタンピードの規模は?」
初めて見る彼の真剣な態度に、ケヴィンは刀聖への評価を改める。
やはり彼も英雄なのだなと思わせる切替の速さだ。
「報告では5000体以上は確実との事です!!」
「へぇ、想像以上に大規模だな」
ケヴィンが感想を口にすると、ギルド員はケヴィンへと視線を向ける。
「こちらの黒ローブの方は……?」
「あぁ、今日からSランクになった蒼氷の朱雀だ」
「そ!! 蒼氷様!! あぁ、何と心強い事だ……蒼氷様!! 是非とも貴方様のご助力も!!」
天の救いとはこの事かと言わんばかりの絶賛ぶりに、ケヴィンは苦笑いを見せるしか無かった。
「討伐隊はどれくらい集まっているんだ?」
再び情報収集へ移る刀聖。
「猫の手も借りたい状況の為、手の空いているDランク以上のギルドメンバーを招集しました。ですがそれでも200人弱しか集まっておらず、Aランク以上のギルドメンバーは誰一人居られません……」
「たしか今日は炎帝達も別の任務に出張っていたな……となると、俺と蒼氷で敵の主力を引き受けるしか無い様だ」
「魔物の中には上級に区分けされている個体が何体も発見されておられます……そして以前剣聖様が討伐なされたと噂されているキングドラゴンや、その他にも未だかつて見た事の無い大型の魔物が目撃されております。……その上」
ギルド員は生唾を飲み込む様に、焦った表情で言葉を続けた。
「魔物の集団の中に……『魔人』と思わしき存在が確認されております……」
「魔人だと!?」
話を黙って聞いていたギルドマスターでさえ、驚きの声を上げる。
刀聖含め緊張が辺りを支配する中、ただ一人ケヴィンだけ口角を吊り上げ、笑っていたのだった。
「魔人……ねぇ」
楽しみだ、等と不謹慎な言葉を呟きながら。
――――……。




