刀聖の過去
「つうかこのギルド支部貸し切りがあんたの言うドラマティックなシチュエーションなのか?」
「だとしたらどうする?」
「ドン引きだ」
「成程」
成程じゃねぇよ……とケヴィンは突っ込むが、構わずシアンは再び口を開いてきた。
「安心しろ、要件は後二つある」
「全然安心出来ねぇけどな。色々と手遅れだけどな」
「まず片方の要件だが」
「人の話を聞けよな」
どうやらこのシアンと言う人物、単なるマイペースで話を進めているのかと思えば、意地悪そうな笑みを浮かべている。
ワザとやってる事に気づいたケヴィンは、なんて性格の悪い奴だとボヤいた。
「『メーゼ』の奴がお前に礼を言ってくれと言っていた。一儲けさせてもらったとな」
「あぁ、あんたからその名が出てくるって事は、メーゼを巻き込んでしまった英雄っつーのは」
「そう、俺の事だ」
半英雄と自称する細工師のメーゼ。
彼の元の世界での親友がこのシアンと言う事か。
世間は狭いと言うが、こうも自分の周りで点が繋がっていくと面白いとも思える様になる。
「俺達は所謂異世界転生組だ、もう過去の世界では死んだ事になっている。不幸にも元の世界で俺とあいつは大震災に見舞われてしまってな、あの時はこの世の終わりかと思ったな」
シアンは、思い出す様にポツポツと過去の出来事を語る。
「不幸中の幸いと言うべきか、俺とメーゼは倒壊に巻き込まれずに生き残る事が出来た。だけど辺りは正に地獄絵図、恐らく被害者も相当な数だっただろう。俺とメーゼは安全な場所へ移動する最中に、倒壊した家屋の下敷きになっている子供を発見した。泣き叫んで助けを求めているのに、あろう事か周りの大人達は誰一人その子を助けようとしていなかった」
冷めたコーヒーを流し込み、シアンはもう一度口を開く。
「正直子供を助けようとすれば、再び倒壊を始める家屋に巻き込まれるのは見て分かった。だから誰もが助けようとしないんだ。救助を待つのが一番安全と分かっているからだ。だけど俺はそれがどうしても許せなかった。救助が間に合うか分からない、その間ずっと子供は苦しんでいる事になる。気が付けば俺は身を乗り出して、子供を救出しようとしていた。周りは俺を止めた。やれ危ないぞと、やれ余計な事はするなと。俺はそれを無視して作業を続けた」
真剣な話をしているにも拘わらず、シアンはこのコーヒー苦いな等と呟く。
雰囲気を台無しにしたが、それでもシアンは話を続ける。
「そんな時だ、俺を馬鹿にする様な声が響く中、メーゼが叫んだ。『お前らは黙れ、人の命を救おうとして居る者を馬鹿にする権利はお前らには無い』と。そしてメーゼは俺の隣に立ち、俺に力を貸してくれた。俺は危険だから離れてろと言ったが、あいつは俺に『目の前で消えようとしている小さな命を、自分の身が危険だからと助けようともせずただ見てるなんて人間のする事じゃない。俺はまだ人間で居たい』と笑いのけた」
その後、くせぇよな。
と一言付け足す。
だから台無しにするな。
「あいつの言葉を聞いて居た堪れなくなったのか、辺りに居た大人達は逃げる様に散っていった」
「情けねぇ奴等だな」
「自分が可愛いと言う奴だ。結果として俺達は子供を助ける事が出来た。だが、やはりと言うべきか、無理矢理に持ち上げた家屋は再び倒壊し、俺達は見事に下敷きになってしまった。逃げた大人達の言う通りの結果になってしまった訳だ。泣き叫ぶ子供をなんとか説得し安全な場所へ向かわせたが、やはりその後俺達を助ける人は現れなかった。居たとしても無理だっただろうな。表面上取り繕って居たが、倒壊した家屋は俺とメーゼの内臓を貫いていたからな」
あの時は痛かったぞと呟く。
ケヴィンは無視した。
「正直死を確信した、だが不思議と怖くは無かった。一つ心残りなのは、メーゼを俺のせいで巻き込んでしまった事だな。だがそんな俺にあいつは、『最後に子供一人助けられて良かったじゃないか』と大笑いしてみせた。それだけで救われた気がした。意識が薄れていく中、あいつとの思い出話に花を咲かせたのを今でも覚えて居る」
一呼吸置いたシアンに、次は何を挟むつもりだと身構えるケヴィンだが、シアンは何も言わなかった。
「次に俺達が目覚めたのは、この世界と俺達の世界の中間地点と言われている場所だった。そこで俺達は『神』と名乗る人物に出会ったんだ。確か名前はフ……忘れた」
「忘れたのかよ」
「神は俺達に告げた。あの子供は本来、救助隊に助けられて無事に生還する運命だったと。それを聞いても俺達は一ミリも後悔はしなかったがな。だが神はこうも言った、しかしその場合あの子供は半身不随と成り、恵まれない環境で早死にしてしまう運命だったと。それを俺達が変えた、そう告げられた時は飛び跳ねる程喜んだな」
聊か神と言う存在を信じる事は出来ないが、シアンが嘘を付いている様に見えなかった。
「まぁ結果的に言えば俺達は死ななくて良い存在だった、だけど助けた事に強い意味があった。そんな俺達を見ていた神が、異世界で新たに人生をやり直すチャンスを与えてくれたんだ。その異世界がこのオールガイアだった。ただ、残念な事に英雄として能力を付与し、新たな人生を与えられるのは一人だけだと言われた」
「本当に神かそいつは? 神つったら全知全能だろうが」
「詳しい事は教えてもらえなかったが、確かに神としてはなんでも出来るには出来るが、その力にも限りが有り、定期的に力を蓄えなければ英雄を生み出す行為は出来ないらしい。どちらかが次に力が溜まった時に転生させて貰えばと案も出したが、力が溜まる時間まで魂をこの世に繋ぎとめる事が出来ないと来た」
「なんかうさんくせぇなぁ」
神の存在への信憑性が薄くなるケヴィン。
「神は自分の力が及ばない事を心底謝罪していたが、一つだけ解決策が有ると言う。片方を英雄として転生させ、もう片方を普通の一般人として転生させる事。今の蓄積されたエネルギーならば、それがギリギリ可能だそうだ。だったら何の問題も無いし、迷う必要がない。俺はメーゼを英雄にしてくれと頼んだ。が、あいつはそれを拒否した。自分は英雄なんて柄じゃない、英雄になるべきはシアンだ、とな。あの時は神の前で喧嘩したが、最終的にはシンプルな解決方法を取った」
「お前が言うシンプルはなんとなく想像付くな」
「あぁ、誰もが思いつくだろう単純な解決方法」
シアンはドヤ顔をこっちに向ける。
「ジャンケンだ」
「で、お前が勝ったんだな?」
「いや、あいつが勝った。勝ったんだからこっちの言う事を聞けと、あいつは無理矢理俺を英雄にした。その後はご都合主義かなんか分からないが、俺の潜在能力が思ったよりも飛び抜けていたとかなんとかで、エネルギーが少し余ったとか言って棚から牡丹餅式に、メーゼにも有る程度の力が与えられる事になったんだ」
それが半英雄の原因かと、ケヴィンは納得した。
「まぁそんなこんなで俺とメーゼはこっちの世界にやってきた」
「良かったじゃねぇか、チャンスを与えられて。それにどっちが英雄になってもこの世界には価値ある英雄になっただろうな」
過去の世界で人の為に命を懸けた。
誰もが見て見ぬふりする様な事を、二人は無視しなかった。
そんな存在が英雄として力を与えられる事が、世の摂理としては正しい形だとケヴィンは思う。
正しい事をした人が恵まれない世の中なんて間違っている。
それこそがケヴィンが嫌う理不尽そのものだからだ。
「そういやぁ」
ケヴィンは事の序でと、思い出したかの様にシアンへ質問を投げかける。
「あんたとエマに関係性は有るのか? 同じローゼンクランツを名乗ってるが、兄妹にしては似て無さ過ぎだろう」
「似てないとはなんだ、美男美女と言う括りではそっくりだろ」
「だから自分で言うなよ」
「俺はこの世界に来て、ある程度権力が付いてから孤児の為に施設を作ったんだ。勿論メーゼも協力してくれた上でな。孤児院ローゼンと言う名で通っているから、調べてみれば分かる。そこの孤児院に来るものは、当たり前に色んな問題を抱えている子供達が多かった。勿論混血種も沢山居たな。その中で都合上苗字を消さなければ成らない者、つまり身分を明かせない者や、苗字が分からない子供達には皆ローゼンクランツの苗字を与える事にしてたんだ」
自分も孤児という扱いになっているから、ローゼンクランツを名乗っていると付け加えるシアン。
と言う事は、エマもその施設出身者と言う事だろうか。
確かにあの時デスマウンテンで彼女と出会った時には、高貴な服を身に纏って居た。
ある程度有名な家系で育っていた事は間違い無いが、だからこそ苗字を変えなければいけない何かがあったのだろう。
「エマは10歳の頃にその施設にやってきた。詳しくはあいつの口から直接聞いて欲しいから省くが、都合上苗字を変える必要があった。だから彼女は今でもローゼンクランツを名乗っているんだ」
「英雄だと言う事を隠す為か?」
「さぁ? どうだろうな?」
シアンならポロっと零しそうなもんだと思ったが、おちゃらけた態度自体ワザとなのだろう。
中々にずる賢い奴である。
「と言う訳で一応俺はあいつの兄と言う事になってるが、父親と言える立場でも有る。だから敢えて言おう、貴様に娘はやらん!!」
「敢えて言わんでも俺にその気はねぇよ」
「どうだかな、お前が気づいてないだけだと俺は思うが」
不敵な笑みを浮かべるシアンだが、何を勘ぐっているのやら、とケヴィンは思った。
「大分話が長引いたが、もう一つの要件は何だ?」
「あぁ、正直に言うとそっちが今日出向いてもらった目的の大本命だ」
シアンは突然起立し、ケヴィンへと体を向ける。
「ケヴィン、俺と手合わせをしてくれ」
と、頭を下げたのだった。
――――……。
破天荒な奴です




