竜騎士の行方
だとすればケヴィンと言う名を知っていてもおかしくはない。
しかし、何故それが蒼氷と結び付くのだろうか。
「お前がエリルの弟子だったとして、それで俺の名前を知っていたのは良いとしよう。だがエリルが居なくなってから10年以上経っている現状で、今の俺がそのケヴィンだって事や、蒼氷が俺だって言う事を何故知っている?」
ケヴィンはありのままの疑問を彼へと問いかける。
「まず一つめ、何故お前がケヴィンだと分かったか。これはただの勘だな」
「あ? そんな論理性に欠ける物で納得が出来るかよ」
「俺はエリルからお前が混血種だと言う事も、小さな頃に力が無かった事も聞いていた。だがそれと同時にエリルはお前が必ず強く成る事を見抜いていたんだ。彼の目利きは相当なものだ。Xランカーの選別は失敗してるが、先見の明と言うものにはとことん秀でている」
エリルの先見が優れているかどうか、それは今更確認しようが無いが、彼が強くなると豪語した結果が今のケヴィンだと言うのなら、確かに優れているのだと言えよう。
「俺はその話を信じ、あの人が居なくなった後もお前が世界に名を轟かせるように成るまで待っていた。本来なら、あの人が居なくなった後直ぐにお前を槍聖宅に迎えに行くべきだったのだが、色々事情が有り手が届かなかったんだ。すまない」
ケヴィンは首を横に振る。
無理も無い、あの時自分の年齢は5歳だった。
そこから計算すればシアンは9歳。
例え英雄としての力を持っていたとしても、例え異世界転生組の存在だとしても、一人の子供に出来る事等そうそう無いのだから。
シアンは続ける。
「アルベルトが槍聖卓へケヴィンの捜索へ行ったが、お前はその後行方不明となった事を聞いた。俺も権力を持つ頃になった時、色々な捜索網を敷いてみたのだが、一向にお前は見つからなかった。そしてエリルが居なくなってから10年が経過しようとした時だ……巷でこんな噂が広まる様になった」
シアンは口にした。
『謎の氷山』出現、と。
ケヴィンが魔物を氷漬けにして放置した結果起こった現象の事だ。
確かに時期はその頃で間違いが無いだろう。
「俺は当時、存在が明らかになっている英雄を片っ端から調べあげ、その結果その様な氷山は現氷帝でも実現不可能だと言う事が分かり、これはもしやケヴィンの仕業では無いかと俺は思い始めた」
「無理矢理だな」
「俺にとっては一種の希望だったからな、強引にお前とそれをこじつけていた事は認める。その頃には既にXランカーの英雄達も総替わりし終えた後だったから、レオン達やギルドマスターにも協力して貰って、件の氷山を作り出している人物の捜査を任務の片手間でやってもらう様に頼んだ」
しかし、とシアンは言う。
「それでもお前の存在は定かには成らなかった。実に二年も刀聖一派の捜査をお前は掻い潜ってた事になる」
そりゃぁ誰も居ない事を確認してから魔物を討伐してたからなとケヴィン。
気を抜き過ぎて、メイファに見られてしまっていた事は有ったため、100%隠蔽出来ていたとは言わないが。
「もうその頃になれば俺はただの予想が半分意地に変わり、蒼氷の朱雀と呼ばれている存在が確実にお前だろうと思う様になった。そうなった頃、俺達の間にとても奇妙な話が届いた。アトランティス国第一王子が、謎の混血種に『氷漬け』にされて敗れる……とな」
他国に伝わるまで大ごとになってたか、とケヴィンは鼻で笑う。
「ミリアルド王子はBランカー。それを打ち砕く程の混血種だ、噂にならない方が可笑しい。だが俺達としてはもっと別の要素が重要だった。ミリアルドが食らった氷魔法はしばらく経っても全く溶ける素振りが見えず、急遽Xランク会議に集っていた炎帝に解凍の依頼が来た事だ。そしてその連絡を受けた時に会場には俺達刀聖一派が全員そろっており、全員がそれを耳にした」
「成程な。あんたらが少し前から『蒼氷の朱雀』を探し始めていて、その人物の可能性である人物の話が突如潜り込んできた。そして蓋を開けてみたらその溶けない氷魔法を使っている人物の名が『ケヴィン・ベンティスカ』となっていたと……情報の秘匿は何処にいったんだか」
「その通りだな。あの時期にお前はギルドに登録していなかったんだから、お前の情報が洩れるのはある意味仕方のない事だっただろう。あくまでギルドの氷漬けの件に関しては俺達の様な上の存在しか知らされていないがな」
「だからお前達刀聖一派とやらは俺が蒼氷だと考えて初めてた訳だ」
学園でのレオンとの模擬戦の際、エマが警戒を促そうとレオンに向けて言葉を掛けていたのは、彼女の中でもケヴィンが蒼氷と思っていたからなのだろう。
「勿論ケヴィンが蒼氷の可能性がある事も俺達の中でしか共通認識にはなっていない。それ以外の者へはしっかりと秘匿されている。後の答え合わせは簡単だ。お前はその後、アトランティス魔導騎士育成学園へ通う事となった話を聞き、あの親善試合前日に通路でお前と出会った時に、アトランティス学園の男性生徒で混血種と言う情報だけでも、直ぐにお前がケヴィンだと言う事は分かる筈だ」
ケヴィンはあの時に自分に向けれらた優しい笑みを思い出す。
やっと見つけた、確かにそんな感情が出ていたと言われれば納得出来るかもしれない。
「そして極めつけは、正真正銘の正式なAランカーとして蒼氷の朱雀が誕生した事だ。それまでずっと謎の存在とされていたお前がやっと表舞台に出てきた。しかも英雄がビックリするほどに強くなってな。俺は自分の事の様に嬉しかった」
成程……色んな予想と事実が重なって、ケヴィンが蒼氷である事を見抜いた訳だ。
ケヴィンと言う存在を元から知ってたシアンだからこそ、たどり着く答えなのかもしれない。
「と、なんとも色んな事象の結果みたいに理由づけてお前がケヴィンで蒼氷だと言う事を結論づいた道のりを語った訳だが……実際にはもっとシンプルなんだ」
「どう言う事だ?」
シアンの言っている意味が分からなく、ケヴィンは首を傾げる。
「アルベルトに全部聞いたんだ」
「……くっそ」
ケヴィンは頭を抱えた。
そう言えばアルベルトは自分の素性を知っているじゃないかと言う事に、今更気づいた自分を腹立たしく感じた。
そもそもデュランには此方の素性を明かさなかった事から、アルベルトから情報が洩れる事を懸念していたと言う部分もある。
「レオンやデュランから洩れた訳じゃねぇと思って考えを辞めてたが……あの狸ジジィが居たじゃねぇかよ……」
「アルベルトと俺はずっとエリルの失踪事件とお前の捜索を続けていたからな、情報を共有していた事を許してくれ」
「なんだよ、やたら長ったらしく説明してた今までの時間はなんだったんだ?」
「一言アルベルトから聞いたで終わったら、なんも面白くないだろ?」
「そこに面白さなんか求めてねぇよ……」
全く何なのだこいつはと、失礼ながらに思ってしまう。
もし目の前にいる人物がシアンじゃなくレオンならば、ストーンバレットを食らわしていた所だろう。
「兎に角、エリルの元で学んだ者同士、仲良くやっていこうと思って今日はこの場を設けさせて貰ったんだ」
「ったく、遠まわし過ぎんだろ。それならもっと早い段階でコンタクト取ってきても良かったんじゃねぇのか?」
「ドラマチックなシチュエーションを考えていたら意外と時間が掛かってしまっただけだ」
「頭良さそうに見えて馬鹿なのか?」
「違う、頭も良いけど馬鹿でもあるだけだ」
「自分で言うのかよ」
ケヴィンは一度深いため息を吐く。
「まぁどっちみち本気でお前の生存状況や蒼氷の朱雀との関わりについて調べていた事だけは事実だがな」
「もうそんな事どうでも良い……。それで、エリルの捜索の方は上手く行ってんのかよ」
「正直、そっちに関してはお手上げ状態だな」
「そうだろうな」
アルベルトからエリルの情報が全く流れて来ない事を考えれば、情報を共有しているシアンから新しい情報が得られるとは思えない。
「全くこの馬鹿弟子を放っておいて何処で何やってんだか」
「お前の予想としては、エリルはどうなってると思う? 色んな噂を聞いているだろう?」
馬鹿弟子と言う部分に反応しないのは、本当に自分の事を馬鹿だと思っていると言う事なのだろうか。
「さぁな、適当な事を言うつもりはねぇが、あんだけつえぇ奴が死ぬってのはまずねぇと思っている」
「それは賛成だな。あの人がくたばるなんて想像出来ない」
槍聖は史上最強の英雄である。
どうやらこの認識は、二人の弟子同士の間では共通認識の様だった。




