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月下無限天~最強の在り方~  作者:
蒼氷の朱雀編
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謝罪

「むぅ……ケヴィン今日はずーっとエマの事ばっか見てるぅ……」


突然と腰回りに誰かからの接触を感じる。


目線を落とすと、こちらの腰に手を回し胸に顔を埋めてくるフロールの姿が有った。


「別にずっと見てる訳じゃねぇよ」


何故か動揺する様に答えてしまったケヴィン。


その仕草が、いっそうフロールを不機嫌な表情にする。


「もう!! 今日は僕頑張って目一杯お洒落してきたんだよ! それなのにさ! ケヴィンはエマちゃんばっか見て全然僕の事見てくれない!! もう少しで良いから僕の事見てよ!! もっと反応してよ!!」


意味不明な事を捲し立てるフロール。


再び胸に顔を埋める彼女の頭に、ケヴィンは手を乗せる。


「ねぇケヴィン~、ケヴィンってばぁ……」


「なんだよ」


言いながら、突然フロールは力が抜けた様にケヴィンを手放す。


倒れ込む様なその仕草に反応したケヴィンは、彼女が地面へと激突しない様に支える。


軽く心配するケヴィンだが、どう考えても彼女はこの一瞬で眠りに着いたのだと理解する。


器用な奴だと思いながら、どうしたものかとデュランへと視線を向ける。


「……ふ、エマばかり見ていたからだ」


「だから見てねぇって!!」


助けを求めた視線だったにも関わらず、デュランは茶々を入れてきた。


さっきまでのしんみりした空気は崩れ、ケヴィンはフロールを抱き上げる。


所謂、『お姫様抱っこ』と呼ばれる抱え方だ。


「わりぃなデュラン、ちょっとこいつを空き部屋に放り投げてくるわ」


「あぁ……またゆっくり話をしよう」


デュランの返事を聞いたケヴィンは、一階にある客室へと向かう。


元槍聖宅は来客を意識していたのか、はたまた使用人でも雇うつもりだったのか、寝室に使える客室が何部屋もある。


その中の何れかへ適当にフロールを寝かしつけるつもりだった。


フロールを抱えて歩くその姿に、周囲の一同は強く反応していた。


ひゅーひゅーと茶化す様に口笛を吹く男性生徒や、憧れの眼差しを送って来る女性生徒。


恨む様な視線を向ける者も居れば、何故かハンカチを噛んでいる生徒まで居る始末。


多様な反応を見ながらもケヴィンはパーティ会場を後にし、空いている客室のベッドにフロールを下した。


暖かい季節に差し迫っている事も有る為、薄い毛布を彼女に掛け乱れた髪を軽く手で解いてあげた。


「うへへぇ、ケヴィン~大好きだよぉ……」


完全な寝言である。


「はいはい、俺も好きだぞ」


ケヴィンの返答は、友達としてと言う意味だ。


深い意味は全く無い。


部屋から出ると扉を閉め、風魔法を操り内側のカギを閉めたケヴィン。


同じ様な事を出来る者以外、この部屋には出入りする事は出来ないだろう。


後は目が覚めた時にフロールが騒がなければ良いがとケヴィンは念じた。


パーティ会場に戻ったケヴィン。


皆満足行くほど食事を進めたのか、箸を止め談笑に入っている様子だった。


相変わらず馬鹿食いしているレオンの隣では、あのフィーネが楽しそうに彼に食事を運んでいた。


なんでも吸引する残飯処理機が彼女にとって面白いのかもしれない。


残った食事はレオンとデュランに任せて問題無いだろう。


ケヴィンはそう思いながらパーティ会場を眺めていた。


時の流れに任せ、クラスメイトや知人達がこのパーティを満喫している状況を肌で楽しむ。


そうやって過ごしながら時間も良い頃合いになった時である。


「無理……もう無理!! ちょっとケヴィン、水を……お水を頂戴!!」


そこに現れたのは、高揚したエマであった。


ケヴィンの肩に手を置き、苦しそうに息をする彼女。


普段からは想像つかない彼女の姿に笑いながらも、ケヴィンは瞬時に水を構築する。


魔力で作った水を、同じく魔力で作った氷のグラスに入れる。


それを彼女に手渡すと、一気に飲み干した。


「はぁ……ちょっと飲み過ぎて気分が悪いわね……外に連れていってくれないかしら」


一方的に捲し立てるエマ。


少し前のデュランとの会話のせいか、エマに対して甘くなっている自分を感じつつも言われるがままケヴィンは彼女の肩に手を置き、転移魔法を発動させた。


行先はケヴィン宅の庭である。


「……」


何故か恨ましい視線を向ける彼女。


「なんだよ」


「全く……フロールに対してはあんなに優しく運んだと言うのに、私が相手だったら転移魔法ではい終わりってどうなのよ」


「別にこの方が早くて面倒じゃないからいいだろ」


「何よ、私が相手だと抱きかかえる事に抵抗が有るとでも言うのかしら?」


ケヴィンは首を傾げながら少し考える。


「あぁ、確かにフロールよりはお前の方が重そうだな?」


「……デリカシーが無いわね、もういいわ。ほんと女心が分かって無いのね」


「知るつもりもねぇよ」


自分が男性なのだから、女性の気持ちが分からないのは当たり前だと言うのはケヴィンの考えである。


しかしその言葉にエマは再びしかめっ面を見せるが、それが何故なのか……やはりケヴィンには分からなかった。


「適当に涼んどけよ、俺は戻っとくから」


ケヴィン宅の庭には、腰かけるには丁度良いベンチも有る。


酔いを醒ますには心地よい環境だろう。


「あら、こんな所にか弱い女の子一人残していくつもり?」


「お前がか弱いなんて口にしてしまったらレッドドラゴンも真っ青になってしまうだろうな」


「それどう言う意味かしら?」


ケヴィンからしたら、一人にしてあげた方が良いかと思い遠まわしに気を使った発言だったのだが、まさか呼び止められるとは思って居なかった。


ベンチは二人で座るには十分なスペースが有るが、ケヴィンはそのまま家の壁へと背中を預ける。


堂々と彼女の隣に座り込める程、親密度はまだ深くは無い。


「……」


心地の良い風が二人の間を駆け巡る。


ケヴィンは先程のデュランとの会話を思い出す。


『彼女には家族が居ない』


彼が言ったその言葉が、頭の中で反復する。


彼女はまだ怒っているだろうか。


浅はかな自分の言葉のせいで傷つけた自分を、許してくれるだろうか。


ふとエマの横顔に視線を送る。


本当に気分が悪かったのか定かでは無いが、彼女は柔らかい表情で空を見上げて居た。


その横顔に再び胸の痛みを感じたケヴィンは、それを振りほどく様に彼女に習って空を見上げた。


すっかり日は落ち、雲一つ無い大きな空は幾千もの星々が光り輝いている。


太陽も月も要らない程にまばゆい光を放つその光景を、ケヴィンはこの時初めてゆっくり見上げたかもしれない。


今の力を手に入れるまで、ずっと必死に生きてきた。


余裕が無かったと言うのが正しいだろうか。


そもそも今の力を手に入れた後でも、これ程気持ちに余裕のある状況になった事が無かった。


いつからだろうか、心に『安らぎ』を感じる様になったのは。


……学園に来てからだろう。


アルベルトの口車に乗せられ通う事になった、魔導騎士育成学園。


そこでレオン達と出会い、『友人』と呼べるであろう関係性を作る事が出来た。


間違い無く今の心の余裕は、それが根本だろう。


少し前ではあり得ない事だった。


学園に来なければ、今でもデスマウンテンで人目に触れない様に暮らしていた事だろう。


こんなに知人を増やす事も無かっただろう。


ケヴィンにとって、どちらの生活が良かったのか。


はっきりと答えは出ている。


……だからこそ、この生活をより良くする為にも……自分の為、ひいては相手の為にも、彼女に言わなければならない事がある。


「すまなかった」


「……え?」


突然の吐露であった。


ケヴィンの口が発した突然の謝罪。


その謝罪の意味は、当たり前にかつての彼女に対する暴言に対してである。

言えたじゃねぇか

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