英雄達の過去
「やけに親身になってるが、『あっちの世界』とやらでもお前らは一緒だったのか?」
ケヴィンは己で見た事しか信じない為、『異世界』と言う話に少し抵抗はあるが、しかしこうやってレオンやデュラン、あの竜騎士さえも口を揃えて昔の世界の話をするのだから、その世界は恐らく有る物なのだろうと無理矢理納得している。
デュラン達の言う異世界の人が住む星、『地球』と呼ばれる星には、『人間』しか住んで居ないと言う。
しかし異世界転生組、召喚組、そのどちらもその地球といった異世界の星から、この世界の星オールガイアへとやってくる。
その際何かしらの遺伝子変化が作用するのか、元々人間だった者が此方ではエルフとなって召喚されると言う事態も起こっている。
エマも英雄なのであればこちらの世界でも仲良くやっている二人と、過去の世界でも一緒だったのではないかと当たりを付ける。
「いや……エマとはこっちの世界で出会った人物だ。元の世界では俺はレオンと一緒だった。……それにもう一人……な。正直、エマに対して過保護の様な態度を取っている事は認める。……元の世界で、俺とレオンにはとある『トラウマ』が出来てしまってな……」
当たり障りのない答えだ。
この答え方ならエマが英雄であると認めた事にはならない。
「あの時……」
デュランは突然拳を握りしめた。
表情こそ変化はしていないが、何か悔しそうな……そんな雰囲気が見え隠れする。
「この世界に来るきっかけは突然だった……あの日も、いつもと同じ様に『高校』と言われる15歳から18歳までの学生達が通う学校からの帰りだった……。俺はその時レオンと、そしてもう一人の親友と居た……」
「……『アインス』って奴か?」
レオンが口にした一人の名前。
ジパングの大森林の中で、己を奮い立たせる時に口走った名前。
もう取り戻せないかの様に告げたその名を、ケヴィンはしっかりと覚えていた。
デュランは一瞬こちらへ視線を向けた後、ゆっくりと目を閉じた。
「……レオンから聞いたか……。そうだ、もう一人の親友の名を『アインス・ラースタチカ』と言った。俺達は地球では三人組だった。……幼馴染であり、何処へ行くのも三人一緒だった。だが……あの時程一緒に居た事を後悔する事は無かった……」
腕を組むデュラン、その右手は、左の二の腕を握りしめている。
「アインスは体が弱くてな、その上……俺達と一緒に居ない時は何故か虐めを受ける事が多々あった。それが何故かは分からない……だがあいつを守る為に、俺達は常に一緒に居る様になった。元々体の弱さも相まって学校を休む事が多かったが……あの日も……この世界に来た日もアインスは一緒だった」
デュランのこの仕草、そしてレオンのあの言葉、それだけでそのアインスがどうなったかは少し予想が出来る。
「学校帰りに俺達はいつもの通学路を通っていた。……大通りで信号待ちをし、歩行者信号が青になった時だった。……俺達に信号無視をしたトラックが突っ込んできた。酔っ払い運転なのか、居眠り運転なのか事実は分からない。俺達がそれに気づいた時……俺達は突然後ろから強く押されたんだ」
デュランは顔を上げる。
開けた瞳が、若干潤んでいる様にも見える。
「俺とレオンは地面に倒れ込み、急いで後ろを振り返った。そこには……両手を突き出して、安心した様に笑うアインスの姿が映った。その瞬間……俺達の足元に魔法陣が浮かび上がった。後になって気づいたが、その魔法陣こそが……異世界召喚の魔法陣だったんだ……」
つまりそのアインスと言う人物は、トラックに引かれかけた二人を助けた……と言う事だろう。
そして偶然にもその瞬間、二人はオールガイアへと導かれる召喚魔法陣に巻き込まれたと予想が出来る。
「……俺達の視界が真っ白に染まりあがり、その異常事態の影響か俺達の体はあの時指一つ動かせなくなった。……あちらの世界で俺が最後に見聞きした光景は……大型トラックに飲み込まれるアインスの姿と……あいつの名を呼ぶレオンの叫び声だった……」
「お前も、お前らもでっけぇもん抱えて……英雄やってんだな」
彼等と出会って、既にケヴィンの中では堕落した英雄達ばかりでない事を認識している。
こう言った者達こそだからオールガイアランキングでも上位に君臨し、Xランカーに席を置いているのだ。
「あぁ……すまない、突然俺達の過去をぶちまけてしまって。……お前に言っても何にも変わらないんだがな」
「いーや、知れて良かったと思ってるぜ」
打ち明けて貰えて、嬉しかった。
きっと今のこの感情が、嬉しいと言う事なのだろう。
ケヴィンの自分の心に芽生えたその気持ちを確かに認識していた。
レオンがあの時……目の色を変えて何かを守ろうとしていた様子も、彼等が経験した過去が有るのなら確かにそうなってもおかしく無いだろう。
「話が脱線してしまったが……俺達がこの世界に来てすぐにお世話になったのがあのアルベルトだ……」
ケヴィンは、酒瓶を片手にしたルイスのマシンガントークを適当に流している様に見えるアルベルトの姿を見る。
「彼の紹介でエマと出会い……似たような傷を持つ俺達はすぐに打ち解けた……」
「似たような? どういう事だ?」
デュランはエマの方に一瞬視線を向けたかと思うと、ポツリと呟く。
「俺から言うべき事じゃないかもしれないが……彼女も……『家族が居ない』んだ」
その瞬間、ケヴィンは胸の奥でズシリと痛みを感じた。
「……俺達は痛みを共有する様に……そしてアインスを救えなかった俺とレオンは、まるでその穴埋めを彼女で誤魔化す様に……親睦を重ねて行ったんだ……。だから彼女に対して過保護な態度を取っている事は否めない……お前にそれを強要するのは間違って居ると分かっていてもな……」
デュランの言葉がゆっくりとケヴィンの心で響く。
彼女にも家族が居ない。
つまり彼女も相応の深い傷を持っている。
そんな彼女に自分は何を言っただろう。
『恵まれた環境下で生活してきた温室育ちに、俺達の事を語る資格はねぇ』
学園の中庭で出会った彼女に言い放った言葉だ。
英雄として生を受け、自分とは全く真逆の環境下で育ってきたと思っていた。
いや、勝手にそうだと決めつけていた。
差別されていた自分が、彼女を恵まれた環境だと思い込み、逆に差別をしていた。
ケヴィンは……彼女に対してとても酷い言葉を告げてしまったのだ。
「そうか……」
デュランには、ただそれしか返せなかった。
恐らく彼はケヴィンの突然の変化に気づいているだろう。
だがその態度に疑問を浮かべる訳でも無く、ただ黙って見守ってくれている。
ケヴィンはエマへと視線を向ける。
眉をハの字にし困った様な、それで居て楽しそうに笑う彼女の表情を見て、再び胸の奥が痛む。
決して自分には向けられない笑顔。
自分と対峙すれば、きっと彼女はあの笑顔をいつもの無表情へと変えるだろう。
何故かその時……ケヴィンはそれがとても寂しい事だと感じた。
彼女への謝罪の気持ちの表れなのか、どんな心情なのかこの時ケヴィンには理解出来なかった。
ただ一つだけ、彼女を深く傷つけただろう事を……ケヴィンは初めて感じる後悔の念と共に胸に刻んだ。
デュラン達も本来ならまだまだ子供の年代です。




