引っ越しのお祝い
暫く日常回が続きます
「えーっと、なんだ? 今日はお集まり頂き……あー……」
その日は以前から予定したケヴィンの新居祝いの日であった。
皆それぞれパーティ向けの礼装に着替え、そうでない者もお洒落な服や学生服に身を包み、ケヴィン宅の開けた地下に集まっていた。
集まった人々はケヴィンが予想してたよりも遥かに多く、全員で500名近くの大人数が集まった。
勿論その大半はアトランティス学園の同級生であるが、Aクラスの生徒はまさかの全員参加である。
しかしAクラス以外のある程度の階級を持つ生徒達は、やはりと言うべきか参加はしていない。
それでも同級生の半数近くが参加するとは、ケヴィン自身驚きが隠せなかった。
ケヴィンも新品の礼服に身を包み、今まさに乾杯の音頭を取らされている。
そんな挨拶等した事が無い為に、珍しくあたふたするケヴィンを見てレオンは爆笑していた。
ケヴィンは彼の額にストーンバレットをぶつけ、派手にずっこけた所を確認した後に再び口を開く。
「いや、こう言う畏まった挨拶は全部エドワードの野郎に任せて、お前らはお前らで好きに飲んで食って楽しんでくれ。以上だ」
ついに面倒臭くなったケヴィンは早々と挨拶を切り上げ、自分の持つグラスを高く上げ「乾杯」と一言発し、皆それに習い乾杯のコールを掛けフロアに用意された豪華な食事の数々に手を付け始めた。
先日のジパングとの親善試合は、上級モンスターの異常発生により事実上の中止と言う形に終わった。
何かしらの形でまた交流戦を設ける事が示唆されているが、それがいつになるかは分からない様子。
数えきれない程の凶悪な魔物が、ジパング学園の大森林に放たれたにも関わらず魔物による被害者の数は0であった。
これはひとえに、両学園の戦闘に特化した教員と、その場に『偶然』居合わせた紅蓮の翼及び蒼氷の朱雀の活躍によるものだ。
ケヴィン達はあの後『何故か』光帝と弓聖に遭遇したのだが、『彼女達』がその場に居合わせた理由も、事実も表沙汰にならなかった為、ケヴィン達もその事について進言する事は無かった。
レオンが守っていた生徒もあまりの事態にパニックを起こしていた事から、あの時のレオンの異常な強さを目の当たりにした事をすっかり忘れてしまっている。
ケヴィンは己の正体はバレたとしてもレオンの正体は隠し通すつもりだったが、無駄な気遣いだった様だ。
ポッと出の蒼氷の朱雀とオールガイア一位の紅蓮の翼とでは、その価値観も多いに違うだろう。
そう考える程に、ケヴィンはレオンを気に入ったのだ。
問題は上級モンスターの発生事件が、近年蔓延っている異常行動の一部なのかどうかと言う事。
ケヴィンが感じた通り、明らかにあの事態は『人』の手により故意に起こされたものだ。
今回のケースが異常行動との関係性が有ると判断される事となれば、巷で起こっている幾多の事件も何者かによって引き起こされていると言う事になる。
ケヴィンはその事実をアルベルト、そしてXランカーもといギルド本部に口が利くであろうレオンとデュランへ報告した。
後の対処は各々が行動してくれる事だろう。
今回の事件と従来の事件の関連性が証明されれば、ケヴィン自身も何かしらの形で動ける事も有るかもしれない。
とりあえずは続報を待つと言った形で、親善試合中の騒動は幕を閉じた。
その後は残ってしまった一日分の予定を使い、再びジパング学園主催の宴が開催された。
そしてその週末にはこのケヴィン宅でのパーティだ。
貴族階級でもない限り、これ程連日で宴やパーティに参加すると言った事は無いだろう。
しかし参加者は皆疲れ等一切無いかの様に、ケヴィンが手配したレストラン『ダ・カーポ』のシェフによる料理に舌鼓を打っている。
明らかに集まった人数では処分出来ない程の量だが、レオンとデュランに残飯処理させればいいとケヴィンは軽く構えていた。
「見てぇケヴィンちゃん、どぉ? 似合う~?」
エドワードがチョイスしたこのパーティに合う心地よいBGMが流れる中、いつもの三人衆が綺麗なドレスを身に纏いケヴィンの前へと現れる。
「あぁアドレット、気に入って貰えてよかった」
「あの……ケヴィン様? このドレス本当に頂いて宜しかったのですか?」
アドレットは白を基準とした記事に金色の刺繍が施された細身のドレス。
彼女の細身の体格にピッタリ似合う様な、動きやすそうなドレス。
続くマリアは黒を基準とし、所々に赤い薔薇の刺繍が目立つドレスだ。
「あぁ、俺の衣装を見繕ってくれたお礼だ。遠慮なく受け取れ」
「返せって言われても返さないもんね!!」
そう言うフロールは、彼女の桃色の髪に見合う白とピンクのゴシックなドレスだ。
ケヴィンの言う通り、こう言った畏まった席での衣装を所持していなかった彼は、隣人のアドレットに頼み礼服を見繕って貰った。
その時に彼女らがそれぞれ着てくるドレスが古い物だったり、急成長によってきつくなっていたり、そもそも所持していなかった事で、ケヴィンなりのお礼と言う形でドレスをプレゼントしていた。
彼女達は嬉しそうにそれを着込んで、今ケヴィンにお披露目会をした所だった。
「そんなケチ臭い事言わねぇから、お前らも折角の料理楽しめよ」
はーいと返事をしたアドレットが、二人と手を繋ぎながら会場へと戻っていく。
入れ替わりで現れたのは学園長のアルベルトと、担任のルイスだ。
「ふぉっふぉっふぉ、豪華なぱーちーになったのぅ」
「なんだそのジジィくせぇ台詞は」
二人以外にも学園の教師陣は何人かこのパーティに参加している。
自分達のそれよりも豪華な家を持つケヴィンに嘆いている者も居た程である。
「私の好みのお酒まで用意するとは、流石ケヴィン氏だな」
「なんだ、もう酔ってるのか?」
ルイスはエルフ独特の肌の白さが微妙に赤く染まっている。
右手には一人で飲むには聊か多いであろう一升瓶が握りしめられていた。
「どうじゃ、学園での生活は気に入ったかの?」
「ふん……まぁ、悪くはねぇって事にしといてやるよ」
「そうかそうか」
ケヴィンの返事を聞くと、アルベルトは表情を緩めながら笑顔を向ける。
彼の反応に少し照れながらもケヴィンはグラスを彼らと重ね、彼等の背を見送った。
「さぁ学園長!! まだまだ始まったばかりです! この家の酒樽を空にしましょう!!」
ルイスはすぐに撃沈するだろうな等と笑い飛ばしながら、ケヴィンは次の来客へと視線を向ける。
「これはこれはベンティスカ殿、この度はこの様な豪華な場にお招き頂きまして――」
「あーあーあー! なんだお前はいきなり! 体が痒くなるから王族ぶった話し方はやめろ!!」
「君が畏まった挨拶は僕に任せるって言ったんじゃないですかケヴィン」
エドワードである。
「あんなの冗談に決まってんだろ」
「ふ……分かってますよ、これも王族なりのジョークです」
エドワードの服装は、やはり王族と言うべきか豪華で全身白づくめの衣装だ。
パリッとしたパンツに白色のインナーシャツ。
黄金の豪華な刺繍を施された白いベストを着こなす彼の姿は、やはり王子なのだなと言う事が証明される。
「お前もしっかり楽しんでくれよ。今大会のMVPなんだからな」
ジパングとの交流戦の個人結果として、予定よりも遥かに早く切り上げた結果になった物の、エドワードの討伐記録はアトランティス学園史上最高記録をたたき出していた。
竜騎士が若い頃に在籍していた事もあり彼が当時手加減していたかどうかは定かでは無いが、英雄出身校での最高討伐数を上書きする結果となったエドワードの戦績は、彼の武勇伝の一つとして民の中で話題となっている。
またもや弟のエドワードが手柄を立てた。
未来の王はエドワードで決まり。
もはやミリアルドは必要無い。
等と実しやかに噂が流れている。
一般人の枠としては確かな実力を見せている彼に対し、ケヴィンは彼の成長を密かに見守っている節がある。
「いえいえ、僕の活躍なんて結局は縁の下で貴方やデュランの活躍が有ってこその物。僕一人じゃ到底為しえなかったですよ」
「そうか? 言う程俺達は何もしてねぇぞ?」
「ご謙遜を。デュランさんはまだしも、いとも簡単に『転移魔法』を使う貴方が何者なのか、個人的にも興味があるんですけどね」
「は、何のことだか」
流石にエドワードにバレるか、とケヴィンは反省する。
交流戦の時、デュランと共に全メンバーの動向把握の為に転移魔法で森の中を駆け巡っていたあの時、殆どのクラスメイト達は二人が偶然近くにいるものだと勝手な認識をしてくれてはいた。
しかしエドワードはあの日単独でかなりジパング陣営側へと潜り込んで居た。
そんな所にひょっこりと二人が現れたのだ、ただ走っただけでは無く何かしらの技術が関与している事を疑う事は当たり前の筈だ。
大抵の生徒が、『まぁケヴィンだから』等と言うご都合的な解釈をしているが、やはり彼の眼だけは誤魔化せないらしい。
「ふ、まぁ良いですよ。言いたくない事を無理に聞き出すつもりも有りませんし、ただ貴方に力を借りる時が来るかもしれないと思った僕の目は……やはり間違いでは無かったと思っておく事にします」
「好きにしろよ」
手をひらひらとさせ、エドワードともグラスを交わし彼を見送ったケヴィン。
再びすれ違い様に二人の来客があった。
「やぁケヴィン。久しぶりだね、三年ぶりぐらいかな?」
「あ? 俺はお前に心当たりがねぇんだが。フィーネ、このチビは誰だ?」
「えっと……その……」
「人が気にしてる事あっさりと言わないでくれないかなケヴィン」
相変わらず眠そうな目をしている童顔の女性と、彼女の後ろでおどおどしている女性。
ジパング学園生徒のルーチェとフィーネである。
「何だ? 結構図太い神経してると感じたんだが、思ったよりも純情か? んな訳ねぇよな」
「相変わらず君はつれないねぇ、でも君のそう言う所も大好きだよ」
「それは光栄なこった」
この二人は間違いなく実力者であり、大森林での上級モンスター討伐時に『何故か』現れた光帝と弓聖の関連性を敢えて聞く事は無いが、その強さをケヴィンは気に入った。
宴の最中にこのパーティの事について招待してみれば、すんなりと参加する旨を二人は出した。
まぁフィーネに関しては、冷やかしついでにレオンに誘わせた事も理由の一つだろうが。
「あの! 今日はご招待頂いて有難うございます!!」
腰を90度直角に曲げる様に頭をさげるフィーネ。
同年代なのだからそんなに畏まらんでもと、ケヴィンは口を開く。
「あぁ、あんたらとは何かしら縁が有ると思ってるからな。今日はそう言った交流も兼ねて楽しんで行ってくれ」
皆と同じ様にグラスを交わし、二人は会場へと戻っていく。
一通りのめぼしいメンバーとの挨拶を終え、ケヴィンは会場を見渡す。
皆それぞれ仲の良い者達と談笑しながらも、食事を楽しんでいる様子。
相変わらずレオンが馬鹿食いしているのも面白いが、年の離れた親子に見える材木屋と装飾屋の店主同士の飲み比べも見ていて中々面白い。
自分も軽く食事に手を伸ばしながら、ゆったりと流れる時間を満喫した。
ぱーちー




