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月下無限天~最強の在り方~  作者:
蒼氷の朱雀編
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紅蓮と蒼氷

「ケヴィン!!」


彼は此方を振り向き、安堵の笑みを浮かべた。


だがその瞬間にも魔物はレオンへと襲い掛かり、彼がそれを回避すると同時に剣を振るうと僅か一閃にて巨大な上級モンスターの息の根を止める。


「頼むケヴィン! そいつらを連れて校舎まで逃げ延びてくれ!!」


「なに言ってんだ、お前も一緒に逃げりゃ良いだけだろ」


「それじゃダメなんだ! 魔物をここに残しておけば……後々にこの学園付近に被害が出る! それを防げるのは今、俺達しか居ない!」


その思いは立派な物だなとケヴィンは思うが、しかしそれは彼の役目では無いとも同時に思う。


今この森に現れた大量の魔物達の討伐は、確実に『学生レベル』の範疇を超えているからだ。


既に数体の魔物の死骸が積み上げられている為に、レオンの異端な強さはこの場で震えている学生達には目撃されているのだが。


ケヴィンはちらりと学生達に視線を向ける。


半分意識を失いそうな表情をしており、恐怖に顔を歪めているのが分かる。


その恐怖心の影響で、現状何が起こっているか理解しきれていない様子にも見えた。


無理も無い……上級の魔物等、普通に生活をしていればお目にかかる事等滅多に無い。


魔導騎士育成学園の生徒で有ると言えど、まだ一年間も学生をやっていない為に一般人と大差は無いだろう。


だからこそ上級の魔物……それも一体や二体では無く数十体にも及ぶ群れに突然遭遇してしまったら、その恐怖は半端では無い筈だ。


「例えこの魔物どもをどうにかしなきゃいけなくても、それはお前がやる事じゃねぇだろ。俺達は学生だぞ?」


ただの学生では無い、それをケヴィンは当たり前に理解している。


今目の前に居るレオンは、あの炎帝なのだから。


だが、今は学生だ。


いや、学生として振舞っているレオンだ。


レオンやデュランが正体を隠している意味は、今となれば確かに理解出来る。


自分がもしその立場だったらあまり関係無い話かもしれないが、『英雄』と言うだけで当たり前に一目置かれる存在と成る。


それ自体は別に大した理由にはならないが、問題はその状況に対して巻き起こる反作用の様な物。


英雄は人々からだけでは無く、魔族からも一目置かれる存在である。


かつて二つ名を持つギルドメンバーが、次々に魔族から集中砲火を受ける事件が有った。


その為に二つ名やローブで身分を隠し、私生活を魔族に襲われない対策を取った。


英雄ともなれば、魔族からの危険視度合いは群を抜くだろう。


その状況で、英雄が『学生』だと言う事が世間に知られてしまえば、魔族からの襲撃は学園にまで及ぶ事となる。


そうなれば当たり前に英雄以外の学生達までも被害に遭うだろう。


英雄だからこそ、その様な事態は招くべきでは無いと思う人物も少なからず居る筈である。


世の中には英雄である事を鼻にかけて、人生を謳歌している下らない人物も居るのだが。


レオンに関して確実に前者である事は分かっている。


何より正体を明かす行為自体が、自分の身を危険に晒す事になるのと同意語なのだ。


「……俺にはそれが出来る力が有るんだ」


ケヴィンの問いに対し、ゆっくりと言葉を返したレオン。


「……」


ケヴィンは目を細めてレオンの背中を見つめる。


自分の位置を移動しながら、レオンと学生達の間に入り込んだ。


「俺は、俺の手の届く範囲全てを守りたい。自分にそれが出来る力が有るのなら、命懸けでそれをやりたい。皆を守るんだ……今度こそ。もう二度と……『友』を失わない為に……」


彼の表情を見なくても分かる。


きっと彼は今頃、悔しそうな表情をしている事だろう。


普段能天気で図々しいレオンが、震えながら呟いたその言葉。


ふとケヴィンは、船で彼が呟いた言葉を思い出す。


『だからアインスは……』


『アインス』と言う者が何者か知る由は無いが、レオンの口調から分かる事はそれはかつて『友』であった人物であり……恐らく『死』してしまったのだろう。


過去の事を憂い、それを払拭するかの様に正義で有り続けるレオン。


昔の弱かった自分を、その為に守れなかった命を、今ここで取り戻すかの様に必死に抗っているのだろう。


だったらこんな所で、無闇に自分の身を危険に晒す事も無い。


この先きっと、レオンの存在は必要だ……ケヴィンはそう思い、再び口を開く。


「お前がそこまでする必要はねぇ。要はこいつらをぶっ飛ばせばいいんだろ? 俺に任せておけよ。レオン、お前がこいつらを校舎まで連れて行け」


レオンはチラリとケヴィンを見ると、直ぐに正面を向く。


「ダメだ! それじゃケヴィンが危険な目に遭う!! 俺は親友を危険な場所に置き去りにして、逃げる様な事は絶対にしない!!」


いつから親友になったんだと思うと同時に、こいつにとってはこの自分でさえ守る対象なんだなと、ある意味での感心の溜息を吐く。


「俺の強さはお前が良く知ってるだろ、俺なら安全だ」


その時である。


レオンの持つ模擬剣に……真っ赤な炎が纏わり始めた。


「……」


ケヴィンは表情を顰めながらその状況を見つめる。


レオンがなにかドジを踏んでも、敢えて学生達から彼が死角に成る様に自分の位置を移動させた事が幸いであった。


「ケヴィン……ごめん、黙ってたけど俺……英雄なんだ。異世界人なんだよ。だから、俺がここに残った方が確実に安全なんだ」


「お前はその行為で自分がこれから危険な目に遭うと言う事を、覚悟した上での行動なんだよな?」


「分かってる。正体を隠さなきゃいけない理由も、その意味も分かってる。だけど、自分が危険になるなんてそんな『小さな理由』で、俺は仲間を見殺しにする真似なんて出来ない!」


レオンはそう叫びながら、燃え盛る剣を正面へと構える。


「友を失うぐらいなら、人を助ける事が出来ないなら……俺は英雄なんて辞めてやる! 自分の位に制限されて大事な物が守れないなら、英雄の立場なんて必要ない!」


そうか……こいつはどこまでも……本気で英雄なんだな。


ケヴィンはニヤリと表情を歪ませる。


本物の英雄の姿が、かつて憧れてしまった竜騎士に匹敵する正義の味方の姿が……確かにそこに存在した。


これが人々が愛してやまない真の英雄の姿。


オールガイアランキング一位、炎帝、紅蓮の翼である。


その強さに溺れず、努力し続けて掴んだその称号。


世界一位なのにも関わらず、慢心等一切ない。


心の底から正義を貫くその姿。


流石世界一位である。


いや、だからこそ世界一位なのだ。


そんなレオンだからこそ、その位まで上り詰める事が出来たのだ。


レオンの姿を見て、ケヴィンは状況を打破する最適解の行動へ移る。


お前がそれ程までの覚悟をしていると言うのなら、お前が此方に正体を明かすのなら、俺もそれなりの覚悟を見せよう。


そして、少しだけ手助けしてやろう。


そうケヴィンは思い、左手を後ろに翳した。


未だ怯えている学生達に対し、ケヴィンは転移魔法を発動し彼等を校舎へと転送した。


「……え?」


その行動に驚いたのは今度はレオンの方だった。


突然と消えた学生達、そして明らかに転移魔法を発動したケヴィンに対し、大きく目を見開いて此方を見つめている。


「お前は何でもっとこう……器用に生きれないんだろうな。英雄だと言う事を俺に暴露するのは良いが、自然魔法まで使っちまったらお前が『炎帝』だって事がバレてしまうだろ」


「……」


いつもの様に後頭部を軽く掻く癖を見せながら、レオンは気まずそうな表情を見せる。


先の生徒達も、さっさと転移魔法で転移させてやれば良かった話である。


だがその甘さが、レオンらしいと言えばそうなるのだが。


「もうここには邪魔はいねぇ、俺とお前だけだ」


そう言いながら、ケヴィンは大袋から黒ローブを取り出し……それを羽織る。


またもや、レオンの表情は驚きに染まる。


そしてケヴィンも……己の模擬刀に氷を纏わせながら、レオンへと語りかける。


「お前の覚悟は確かに受け止めた、これはサービスだ。さてレオン、いや……紅蓮の翼。お前は俺に、今どれだけの強さを求める?」


その行動に、そしてその言葉に、レオンはやっと納得のいった様な表情を見せる。


頭の悪そうな彼でも、ここまで見せれば流石に気づいた様であった。


ケヴィンの正体に、今目の前に居る人物が何者なのかって事に。


そして彼も、おもむろに大袋から黒ローブを取り出す。


炎帝を証明する赤い炎の紋章が背に付いた黒ローブを羽織る。


「先日はお礼も言えないまま消えたから、ずっと気にしてたんだ。……船の上では助けてくれて有難う」


フードを深く被りながらお礼を言うレオン。


ケヴィンは気にするなとキザな笑みを浮かべながら返す。


「じゃぁ、手を貸して貰うよ。俺がお前に求めるのは……デュランの……そう、『剣聖』と同等の強さだ。頼めるか? ケヴィン……いや、『蒼氷の朱雀』!!」


ケヴィンがデュランの正体に気づいている事、きっとこれまでの行動で察する事が出来たのだろう。


無理もない、最初はただのクラスメイトだった二人が、ある日を境に急に仲良くなり始めた。


デュランの親友であるレオンがその変化に気づかない筈も無い為に、その線は簡単に予想する事が出来た。


その親友であるデュランの、剣聖としての強さを求めるなんて中々無茶を言いやがる。


それじゃ『手加減』じゃないか。


等と言った嫌味等言わず、ケヴィンはただ一言、返事を返した。


「任せろ」


自分はデュランに成る事は出来ない。


強さ云々を真似る事は置いといて、レオンにとってのデュランになる事は出来ない。


彼にとってデュランは絶対の親友の筈だ。


掛け替えの無い存在の筈だ。


そう簡単に親友の変わりになってくれ等と言われて、なれる筈も無い。


だが、きっとそれは彼成りの信頼の証なのだろう。


先程レオンがケヴィンに対して『親友』だと口走った言葉。


あれは言葉のあやなんかじゃ無いのだ。


こちらの事を信じて告げた言葉。


なら、それ相応の気持ちで此方も答えよう。


後悔はさせない……ケヴィンはそう強く思うとレオンの横に立ち並ぶ。


今日その日、世界が認める最強の英雄、紅蓮の翼と、裏世界で暗躍する真の最強の混血種、蒼氷の朱雀が……ジパング大森林の奥深くで、相反する二つの属性が共鳴する様に、強く……そして静かに舞った。



――――……。

ケヴィンはレオンを気に入った様です。

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