ケヴィンは天才等では無い
本日も二話投稿させていただきます!
「居るか?」
「はい、ここに」
そして最後に二人が訪れたのは、『エドワード』の場所だった。
ケヴィンが見上げていた大木から、エドワードが飛び降りてくる。
目の前で見事な着地を見せ、優雅に立ち上がる姿は流石と言えよう。
「……ちゃんと眠れているか? 一人じゃテントを貼るのもままならないだろう……」
「気遣い感謝しますよデュラン。ご安心を、こう見えて僕はどんな環境でも眠りに付くことが出来ますので」
王族らしからぬ体質だが、それも彼が培ってきた技術の一つだろう。
「飯は手に入ったか?」
ケヴィンがそう言うと、ニコリと笑ったエドワードは腰に下げた大袋から布袋を取り出して見せる。
「流石だな」
エドワードはこの日、その殆どの時間を『戦闘』に費やしていた筈であった。
と言うのも、ジパング側の脱落者200人強の内、レオングループが30人程。
本体のデュラングループは、急襲してきた隠密部隊を返り討ちにし同じく30人程のジパング生徒を脱落させた。
そして辺りに散開しているその他グループが合計80人程のジパング生徒を撃退した。
ケヴィンは適当に妨害していただけの為、最初の数人合わせても10人程しか脱落させていない。
一人で十人ともなればとてつもない快進撃なのは事実だが、エドワードはそれ大きく超える、50人斬りを達成していたのだ。
惜しむらくは同世代にレオン、デュランと言った本物の英雄が揃ってしまったが為に存在が燻ってしまっているが、彼の才能は他を圧倒的に凌駕しているのは間違いない。
ケヴィンの見立てでは、彼の実力はとうの昔に兄のミリアルドを超えており、絶えず努力を続ければあのアルベルトを超える逸材に成るのは間違いないだろうと思っている。
つまり英雄の存在しない世界であったのならアトランティス一を……いやオールガイア一を名乗る資格が与えられる程と言う事だ。
「……お前は俺達の学園のエースだ、明日もよろしく頼むぞ」
「任せてください、僕の持つ力を最大限に使い、必ずアトランティス学園を勝利に導きますよ」
「いい返事じゃねぇか、任せるぜ」
こいつなら任せて構わないだろう、そう言った意味を込めてケヴィンはエドワードを鼓舞したのだった。
ケヴィンはデュランと共に本拠地へと戻る。
一通り生徒が風呂に入り終えただろうと予想し、ケヴィンは誰もいない浴場へと向かった。
お湯へ手を付ければ、アドレットが指定した42度から少し冷め、ケヴィンにとって丁度いい温度へと成っていた。
魔法で作り出したお湯の為に、そう簡単に冷める事は無い。
そのお陰で数時間経った今でも冷え切っていないのだ。
「何してんだテメェら」
ケヴィンは浴場へ向かう途中から、自分を追いかける『三人』の影には気づいていた。
ここへ入る際木で作った扉は閉めていた筈なのだが、振り向けばその扉は軽く開かれている。
そしてそこに見えるのは六つの瞳だ。
「にゃ……にゃお~」
鼻に掛かった声で猫の声真似をする女性生徒。
「わん!! わんわん!!」
幼い声で犬の声真似をする女性生徒。
「私は……私はネズミですわ!! ちゅう!! ちゅうちゅう!!」
そして艷の有る声で鼠の声真似をする女性生徒。
「成る程、アドレットと言う名のポイズンキャットと、フロールと言う名のフォレストウルフ、それにマリアと言う名のビッグラットだな? これはギルド員として討伐しなけりゃダメだな」
言いながらケヴィンは左手に魔力を込め出し、わざと三人に魔力を感じ取らせる様に仕向けた。
「お! お待ちくださいケヴィン様!! 私です!! マリアです!!」
「ほぉ、最近のビッグラットは喋るのか、初めて知ったぞ」
「ごめんってケヴィン!! 僕達は別にケヴィンの裸体が見たかっただけなんだって!!」
「そこまで欲望を正直に言う魔物まで現れたか」
「あたしは違うよー? ケヴィンちゃんと一緒にお風呂入りに来ただけぇ」
「お前もう入っただろうが。何故お前はそうやって色仕掛けしようとするんだ、ポイズンキャットじゃなくてサキュバスだろ」
「いや~んケヴィンちゃん、そんなに私に欲情しちゃったぁ?」
「絶対零度……奇跡の氷よ……」
ケヴィンは途端に氷の上級魔法の詠唱を始める。
詠唱など全く必要無いのだが、脅しを含めて唱えたのだ。
「わ! わ! 分かったよケヴィンちゃん! 帰る! 帰るからぁ!!」
「……ったく」
呟きながらケヴィンは上着を脱ぎ始める。
「光よ!!」
突然光魔法の応用の照明魔法を発動するフロール。
多少の明かりは有るものの、その浴場周囲は柵で囲まれてる事も伴って薄暗い環境と成っている。
恐らくケヴィンの裸体を見ようとしたのか、明かりを確保する為にフロールは魔法を行使したのだろう。
自らの体が光で照らされるのを感じながら、それと同時に彼女達の息を呑む音が聞こえる。
「……」
「そんな……ケヴィン様……」
「うぅ……」
だが……自らが望んでいたであろうケヴィンの裸体を見た瞬間……彼女達は突然と言葉を失った様子である。
「……同情なら要らねぇぞ? こいつは俺の生きた証だ、弱かった自分を忘れない為の戒めだ」
彼女達が言葉を失った理由……恐らくそれは、ケヴィンの体中に刻まれたその『傷痕』だろう。
無理も無い、ケヴィン自身己が付けている傷痕が異常な事はある程度理解している。
それを見せれば、殆どの者が顔を顰める事等分かっている。
だがこの傷痕は過去の自分の生き様を証明する物であり、誇りの数々だ。
細胞レベルで残ってしまった傷痕は、そう簡単に消す事は出来ない。
傷痕を無くす方法は有るが、それをするには傷痕の位置にもう一度同じ傷痕を作り、そこへ治療魔法を施す必要がある。
ケヴィンならばもっと別の形で直す方法も持っているが、言った通り弱かった自分への戒めであり誇りである。
治す必要も無ければ治す気も無かったのだ。
「そっか……ケヴィンちゃん、そうだよね」
「私達……何か勘違いしていた様ですわね」
「そうだね……同じ混血種なのに、僕全然分かってなかった」
彼女達は最初こそ悲しそうにケヴィンの傷痕を見ていたのだが、徐々にその表情は真面目な物へと変化していった。
一体何が分かったのだろうか、ケヴィンは首を傾げるが簡単に答えは出そうにない。
「あたしもっとがんばろーっと、ケヴィンちゃんの横に並ぶ資格持てる様にならなきゃ」
「あら、私も負けませんわよ? ケヴィン様は渡しませんので」
何を思ったのか、妙なやる気を醸し出しながら三人はその場を去り始めた。
マリアが言い放った言葉……勘違いをしていたと言う言葉。
ケヴィンのでたらめな強さは、ただの努力だけで培った物では無い。
死線を何度も何度もくぐり抜けてやっと手に入れた物。
とても『努力』の一言で片付けれる物では無いのだ。
彼女達は恐らくその事に気づいたのだろう。
その傷痕が引かれた訳ではない。
傷痕を目にして初めてケヴィンの一部を知る事が出来たのだ。
「ケヴィン……死なないでよ?」
最後にフロールが一言ケヴィンへ投げかけ、アドレット達を追いかけて行った。
彼女達を見送った後、ケヴィンはやっと浴槽に浸かる事が出来た。
体の芯から温まる様なお湯は、ケヴィンの冷めた心をも温めてくれる様だった。
「……死なねーよ」
遅すぎる返事を返しながら、ケヴィンは少しだけ……笑みを浮かべていた。
――――……。
彼はどうやっても死にません。




