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月下無限天~最強の在り方~  作者:
蒼氷の朱雀編
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交流戦二日目

本番はこれからです。

翌日、目を閉じながらも張り巡らせた探知魔法の網の中で動きが見えた為、ケヴィンも行動を開始した。


昨日遅くに、デュランとの間で無線機でのやり取りが有った。


レオンの動向に関してである。


昨日レオンがケヴィンの探知魔法に引っ掛からなかったのは、どうやら進行方向を迷いに迷った挙句に反転して進行し、ジパング学園の校舎まで辿りついてしまっていた為らしい。


どこをどう迷ったらそうなるかが不明だが、デュランは彼の方向音痴を今回の作戦を立てる際にすっかり忘れていたと呟いていた。


仕方なくデュランが迎えに戻った事も有り、アトランティス側の本体の進行度は極めて遅い。


その為今日からは森での行動に強い者達をレオンと組ませ、改めて遊撃部隊として活動する事に決まった。


全く人騒がせなヒーローだ等とケヴィンは思いながらも、レオンの人間らしさに軽い笑いが溢れた。


時間経過の感覚では恐らく現在は朝の九時頃である。


朝食や片付け等の兼ね合い等も有り、侵攻開始がゆっくりと始まったのだろう。


本格的な戦の場ともなればそんな悠長な事をしている余裕は無いのだが、されどまだ育成学年の一年。


それも入学したてで一月しか経とうとしない生徒達に、いきなり過酷な戦いを体験させるのも正しい育成とは言えないだろう。


ケヴィンはなるべくその場から動かず、ジパング側の同行を率先してデュランに報告しようとしていた。


しかし耳に入る雑音に疑問を感じ、視線を上空へと向ける。


「……? 飛行型魔動機?」


上空には、大きなプロペラが取り着いた魔動機が四台ほど上空を通過していた。


かつて『ヘリコプター』と呼ばれていた人間が作り出した飛行機を、これまた魔力で操縦出来る様改良した飛行型魔動機。


名称は変わらずそのままヘリコプターと呼ばれる事が多いその魔動機。


転移魔法陣が至る所に設置されているこの世界では、魔動車と同じく需要は大して無い移動用の乗り物であるが、何故そのヘリコプターが今上空にいるのかが不思議だった。


『……ケヴィン、物資の調達を頼む』


突然と無線機からデュランの声が発せられる。


「……成る程」


了解、とケヴィンはデュランへ返事を告げると、そのヘリコプターが移動する軌道まで移動を開始した。


前日の交流戦が開始される際に、生徒達は皆その日分の食料を持たされていた。


説明に寄ればその日以降の食糧の調達は、この森に存在する危険度の低い魔物や植物等を狩猟する形で食糧の調達を行うか、定期的に支給される物資を争奪戦で入手すると言う仕組みを作っていると説明されていた。


つまりこのヘリコプターこそが、食糧支給の手立てと言う事が伺える。


デュランはいち早くそれを察した様子であり、その為にケヴィンへ無線機で連絡を投げかけて来たのだろう。


ヘリコプターの位置的に、恐らく食糧の支給ポイントに一番近いのはケヴィンだ。


予想通り、二台のヘリから投げ出されたパラシュート付の大きな布袋はジパング陣営側、そしてアトランティス陣営側を挟んだ丁度真ん中辺りにばら撒かれ始めた。


学園側の説明で言っていた争奪戦とは、両陣営の真ん中に食糧を配置する事で、ほぼ確実にその食糧を手に入れようと両陣営が進行する事により自然に遭遇戦が開始され、この交流戦本来の目的が果たされると言う仕組みとなると言う事なのだろう。


少しは考えたもんだな等と思いながら、未だ下降中の布袋を空中でキャッチしパラシュートごと大袋へと突っ込むケヴィン。


そして次の物資へと飛び移り、同じ行動を何度か繰り返す。


総計1700人分の食糧が入っている為、あまり過剰にやり過ぎると学園側の思惑が崩れてしまうだろう。


しかし支給された位置は森のど真ん中で有り、明らかに進行具合としてジパング側が大いに有利となっている。


最低限の食糧は残った二つのヘリコプターがそれぞれの陣営側に投下している事からなんとかなるかもしれないが、腹が減っては戦が出来ぬとはよく言った物でこの食料の争奪戦は学生達の士気にも大きく関わる。


優位な陣地も取られ、更に食糧の殆どをジパング側に奪われてしまえば、それこそアトランティス側の敗北となる理由が着々と積み重なっていく事になるだろう。


正直な所英雄クラスのレオンとデュランがいるアトランティス学園がそう簡単な事で負けるとは思えないが、それもあのルーチェとフィーネで相殺される形と成れば、残りの生徒達で争う事と成るだろう。


正直エマには期待出来ない。


一般人を演じ続けている彼女は、この交流戦ですら一般的なAクラスの彼女を演じ切るだろう。


だからこそアトランティス学園は現実的にこの交流戦で不利な立場となっている。


自分はこの交流戦を楽しみ尽くすつもりだ。


アトランティス側が有利に成る様に立ち回るのは当たり前であり、かと言って過剰に暴れまわるつもりも無い。


適当に遊んで適当にサボる、それで良いんだ。


そして今は適当に遊んでいる。


アトランティス側に有利性が傾くよう……軽く仕掛け出す。


中央にばら撒かれた食材の三分の一程回収したケヴィンは、次に向かった先はジパング陣営側だ。


目的は同じく……物資調達である。


つまりジパング側にばら撒かれた物資を横取りしようと言う魂胆なのだ。


これにより安全地帯で陣形を構え、アトランティス側から抜け出てきた生徒達を迎え撃とうとしている者達も、食糧確保に乗り出さなければならない状況が出来上がる。


その為に彼ら側の物資を奪うのだが、それも勿論程よくである。


全て奪う事等簡単ではあるが、何事にも手加減は必要だ。


「あ!!」


数個目の物資を空中で奪いとった時であった。


地上の方から突如上がった声が耳に届く。


探知魔法には引っ掛かっていた為、そこにジパング側の生徒が存在する事は既知の事だったが、ケヴィンはそれで居てわざと彼らの前に姿を現した。


最寄の大木に着地し、自分を見上げている数人の生徒に視線を向ける。


「よぉ」


口端を軽く上げながら、挑発する様に笑みを浮かべる。


落下地点で待機していたのだろう、ケヴィンが今右手に握っている物資に視線が集まっているのが分かる。


「わりぃがこいつは俺が貰って行く、そしてお前らはここでゲームオーバーだ」


言いながら、ケヴィンはパチリと指を鳴らした。


瞬間、目の前のジパング生徒達が倒れ込んだ。


風魔法を扱い、圧縮した空気を彼らの後頭部に叩き付け強い衝撃を与えたのだ。


それだけで油断していた彼らの意識を刈り取る事に成功し、ジパング側数人の戦力を削いだ。


「また共に飯でも食おう」


ジパングの学生達にそれなりの敬意を表しながら、再び物資の調達に乗り出したケヴィン。


上空を見上げると去っていった筈のヘリコプターが旋回を始め、先ほどケヴィンが居た場所へ縄梯子が降ろされる状況が見えた。


一人の人間の教師が地上へ降り立ち気絶した数人をひょいと担ぎ上げると、梯子を引き上げて貰いながらそのヘリコプターは去って行く。


気絶や降参した生徒達を瞬時に回収する手際の良さも、この交流戦には大事な要素の一つだ。


もし事故で大怪我をしてしまった生徒が出ればすぐさま治療に移らなければ成らない為に、生徒達一人一人の状況はなんらかの魔法で随時確認されているのだろう。


ひしひしと感じる見られている様な魔力は、きっとその類であるとケヴィンは当たりを付ける。


ある程度の物資を回収した後ケヴィンは撤退を始める。


後の流れは双方の学生達に任せるつもりだ。


何処か簡単な所に身を隠し、戦いが起きるのを待つ。


一番初めの遭遇戦が行われるのは、恐らくはエドワードだろう。


偵察部隊はなるだけ戦闘を回避する事を目的としている為、やたらと戦闘を仕掛ける事は無い。


本体のデュランチームの進行はとても遅いが、着々と安全地帯を進んでいるのが分かる。


もう一つの遊撃部隊であるレオンは、流石に編成されたメンバーがメンバーの為か、エドワード程では無いが既に最前線に出て来ている。


大木の枝に腰を掛けたケヴィンは再び重力魔法で枝を操り、地上からは自分の姿が見えない様に擬態を施した。


ケヴィンはそのまま待機するつもりであり、戦闘の流れを少しの間見守る事にしたのだ。


そのまま暫く時間が経過し、所々で騒音が鳴り響く。


予想通りエドワードは勿論の事、レオン達も戦闘を開始している。


そろそろかとケヴィンは立ち上がり、一番近場に探知する事が出来たジパング生徒の元へと移動を開始しようとする。


「……ん?」


しかし、探知の端でこの森に存在する筈の無い気配を察知する。


ケヴィンは足を止め、先ほど感じた気配に神経を研ぎ澄ませた。


「……魔物?」


当たり前にこの森にもまだ魔物は生息している。


しかしここは日頃からジパング学園が管理している森の為に、生徒や一般人に被害が及ぶ可能性が有る中級以上の魔物は全て排除されていると聞いている。


すなわち魔物は初級しか存在していない筈……なのだがケヴィンが探知した魔物は明らかにその域を超えていた。


まだその気配を放つ存在の周囲に両陣営の何れの生徒も近づいてはいないが、もしその魔物が中級以上の魔物だとすればいずれ確実に被害が出るであろう。


これ程の大人数の為数の暴力で討伐は出来るかもしれないが、アトランティス側方面の位置にその魔物が生息しているのは間違いなく、被害が出るとしたらこちら側の生徒だ。


となるとその魔物は交流戦の邪魔にしかならない為、ケヴィンはさっさとその魔物を刈り取ってしまおうと転移を行った。


一瞬にして気配の本体である魔物の頭上に辿り着いたケヴィン。


そのまま重力に習って降下し、魔物の頭上に左腕を振り下ろす。


鈍い音と共に魔物の頭蓋骨は破壊され、脳天を貫くと瞬時に絶命し倒れ込む。


「こいつは……グリズリーか?」


4、5メートルは有ろう大きな熊型の魔物。


毛皮で覆われているもののその肉体が宿す筋肉は隆々と浮き上がり、超怪力を連想させる見た目をしている。


その等級の中では低い位置に分類されるが、紛れも無く『上級』に振るい分けられる魔物であり、育成を受けていると言えど学生のレベルでは簡単に勝てる相手では無い。


これ程の魔物が何故この森に放置されていたのか、学園側の取り逃し等が懸念されるがどうにも納得がいかない。


森を覆う探知魔法の応用であるこの監視魔法の類を学園側が発動している限り、そう簡単にこの魔物を見逃す筈が無い。


だとすればワザとこの魔物を残したか、それとも今この瞬間にこの魔物が『現れた』か……である。


考えても見れば昨日から暫く探知魔法を切らしていなかったケヴィンでさえ、この魔物の存在に今初めて気が付いた。


長年の経験での話にはなるが、ケヴィンの探知魔法から逃れた魔物は未だかつて存在しない。


それならば先程言った通りこの魔物は明らかに『今』この時現れたのだと言う予想が立てられる。


仮にそうであるのならグリズリーは転移魔法を操れる魔物では無い為、誰かの手によって意図的に送られてきたと考えるのが定石である。


近年稀に起こっている魔物の突然の襲来。


生息するはずの無い地域で度々上級の魔物が見かけられる様になっている事件と何か関係しているのだろうかとケヴィンは思案するが、そう簡単に答えは出てこない。


学園側に報告すべきかとも考えるが、そうなればこの交流戦自体中止に成る可能性が非常に大きい。


生徒達の安全を考えれば当たり前にそう言った対処が万全だろう。


しかし今現在、このグリズリー以外に脅威と成りえる魔物の気配は一切無い。


このグリズリーを学園側に報告したとして、この他に脅威と成る魔物がこの森で発見されなければ無駄に問題を煽って交流戦中止になるだけの結果が見えている。


それでも別に構わないが、一先ずこの件は保留と言う形を取ろうとケヴィンは判断する。


正直な所、今のチャンスを逃せばそう簡単にあのルーチェ達との再戦は望めそうにない。


自分の我侭ではあるが、それはどうにか避けたいと思っているのも事実である。


一先ずデュランの判断を仰ごうと思い、ケヴィンはグリズリーを大袋に引きずり込むと直様交流戦への助力の為に侵攻を開始した。



――――…。

ちょっとキリが悪かったので1ページの文字数が多くなってます。


目が滑ってしまったら申し訳ございません。

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