ジパング学園のエース
ケヴィンのお眼鏡には適うでしょうか。
そっちが相手を試そうと言う腹積もりで居るのなら……こちらが逆に試してやるよと、ケヴィンは今度こそ足に力を籠め足場にしている太い木の枝を蹴り飛ばした。
勿論全力なんて出さない、あくまでこの一手は小手調べである。
この一手すら避けられないのなら、自分やレオンには敵う訳が無いぞ?
と言う思いを込め、ケヴィンは拳を振りかざした。
強い激突と共に……ケヴィンの思いは、良い意味で裏切られた。
彼が振りかざした拳は地面を大きく抉り取る。
周囲に振動を発生させ、小型の鳥系の魔物が大空へと飛び立つ。
「やぁ」
声が発せられた方向、もとい彼女達が避けた方向へと視線を向けるケヴィン。
その先にはフィーネと、彼女に抱えられたルーチェの姿が有った。
「フィーネと言ったか? 中々やるじゃないか。あの状況から反応して避けるなんてな」
昨夜のおどおどしていた姿からは想像の出来ない反射神経と身体能力を見せた彼女。
学年次席と言う話は嘘では無いらしい。
「ど……どうも」
わざわざお礼を言いながら頭を下げる彼女に、やはり嘘では無いか?
と言う思いもこみ上げて来るが、実際にある程度の実力は分かった。
少なくとも彼女は『本物』だ。
「まさかいきなり本命が釣れるなんて思わなかったよ。どうやらここまで辿り着いてるのは君一人みたいだね?」
「互いにな。俺もまさか一発目から自称エースと遭遇する事になるとは思わなかったさ」
「自称じゃないよ、事実だよ」
「それを証明して貰っても良いか?」
ケヴィンは不敵に微笑む。
「あぁ、良いね。男には興味無い筈なのに君には何か不思議な魅力を感じる。やっぱりボクはこんなでも女だったって事かな?」
相変わらずの眠そうな目で笑われても、此方は魅力なんざ感じないんだがと思いながらケヴィンは左手を突き出す。
「今は雑談しに来た訳じゃねぇ。さっさと掛かって来いよ」
言いながらケヴィンは威力の弱めた氷の上級魔法、ダイヤモンドダストを放った。
ルーチェは余裕を見せながらゆっくり動き、炎の中級魔法ファイヤーウォールを無詠唱で展開する。
威力を弱めた事も有るが、属性同士の相性も有り彼女のウォールによってダイヤモンドダストは消滅する。
しかしルーチェが発動していたファイヤウォールの役目が終わり、それを彼女が消した瞬間には既にケヴィンは彼女達の目の前へ接近していた。
先のダイヤモンドダストで決着が付かない事は既に予想済み。
その上で氷の上級魔法ですら囮に使ったのである。
それ程の技術を使う価値が、彼女達に有る事を信じて。
ケヴィンは拳をルーチェに向けて放つが、それを庇ったフィーネの蹴りによって軌道が変更される。
攻撃の対象を変え、着地した瞬間にフィーネに足払いを掛け彼女を転ばせた。
腕を付いて受け身を取った彼女に追撃を掛けようとした所、ルーチェからストーンバレットが放出される。
身体を仰け反らせて避けると同時に、フィーネが持つ『弓』の先端に付けられた刃が突き出される。
手の甲であっさりとそれを払った後彼女に左足で蹴りを入れ、蹴りの反動で体を回転させると突き出した左足をそのままルーチェに向ける。
既に距離を開けていた彼女だが、狙いは蹴りを当てる事では無く魔法の展開である。
ケヴィンは足の先端から風の上級魔法、テンペストヴォルテクスを発動させ彼女を大きく吹き飛ばす。
急な展開だった為か、彼女がその場で発動したのはシャイニングウォール。
定石としてはストーンウォールかファイヤーウォールを展開すべきだが、恐らく反応が間に合わなかった為に得意の属性魔法を発動したのだろう。
シャイニングウォールは副作用として反射効果を持つ。
自然魔法をそれで防いだ場合、鏡の様にそれらを反射する事が出来る。
しかしケヴィンの込めた魔力が彼女のウォール魔法に込められた魔力を大きく上回った為に反射する事が出来ず、ダメージこそ退けられたものの突風自体は抑えられなかった様だ。
瞬時に正面に向き直り、ケヴィンの蹴りをガードしていたフィーネへ拳を突き出す。
彼女はそれを手で払い再び弓の先端を突き出してくるが、ケヴィンはそれを避けると共に彼女の脇腹へ右肘を打ち込む。
彼女はほんの一瞬怯むが、瞬時に後ろ回し蹴りを繰り出すと共にその足を軸にして己の身体を後進させ距離を開ける。
それと共に矢倉から引き抜いた弓を、手慣れた手つきで弦に引っ掛けケヴィンへと放つ。
ケヴィンは身体を回転させながら避けつつ、その弓矢を掴むと遠心力の勢いのまま彼女へと矢を投げ返す。
弓でその矢を弾きながら、再び矢を構えようとする彼女に向け飛び出したケヴィン。
彼女が弓を引き抜くよりも一瞬早く彼女へ拳を振り下ろしたケヴィンだが、突如放たれた雷の上級魔法ライトニングブラスターに反応し、後方へと回避する事でそれを避ける。
雷の上級魔法を放ったのは当たり前にルーチェである。
彼女はそれすらも無詠唱で行使を行った。
間違いない、フィーネだけじゃなく……このルーチェも『本物』だ。
ケヴィンの表情は再び笑みに染まる。
こんな所で『暇潰し』が出来る等思いもしていなかったのだから。
「君は一体何者なんだい? 正直、聞いてた情報をかなり修正しなきゃいけないね」
とルーチェは口にする物の、まだ彼女に焦りは見えない。
つまりそれは想定の範囲内の事だったのか、それとも今の実力を見てもまだ余裕だと思ったのか。
「そうだな、過剰に情報修正すれば良い。いくら修正し過ぎた所でその結果が俺に追いつく事は無いだろうからな」
自信満々に言ってのけるケヴィン。
「もしかして君は『英雄』なのかい?」
「お前が俺の正体を想像するのは勝手だが……一つヒントを言うとしたら、あんな『雑魚』どもと俺を一緒にするなって事だ」
「英雄よりも強い、そう言ってるんですか?」
恐る恐ると言った調子で、フィーネもケヴィンへ問いかける。
「賢いじゃねぇか、その通りだ」
挑発する様に言葉を連ねるが、恐らく彼女に対し言葉の挑発は無意味だろう。
確かにおどおどはしているが、その一挙一挙は全て冷静だ。
先程体術を交えた事により彼女の評価は鰻登りだ。
弓を扱う事から後衛向きの戦闘スタイルかと思ったら、しっかりと近接体術まで身に着けていた。
少し前にXランカーに『弓聖』が誕生した事によって、エルフ一色だった後衛部隊に人間が加わった。
弓聖に憧れて弓を扱う人間は増えに増えたが、弓を扱う者は総じて近接戦闘の技術を修めなくなって行くと言う欠点も見られた。
基本的には魔物に近づかれたら終わりである弓使い。
前衛が存在する魔物討伐戦に置いて、弓使いが習得する体術等ほぼ無意味であるから仕方がない事ではある。
しかし彼女は先ほどのケヴィンの体術に対して見事に反応して見せた。
弓使いとしての技術もさながら、どちらも一定以上のレベルで収めている事にケヴィンは感動を覚えた程だ。
何よりも彼女の弓に取り付けられている特殊な『刃』にも目を見張る物があった。
本来弓はその性質上、弓を射る以外の使用用途等殆ど無い。
ましてや近接戦に成るとその存在自体が邪魔に成る可能性すら有る。
しかし彼女は弓の先端部分、弦を張る位置の『矢筈』と呼ばれる位置に『弭槍』を取り付けている。
これは弓矢を射ると言う手段以外に、槍の様に突くと言った手段を持たせる意味が有る。
弓使いがそれにより、遠距離、近距離共に戦闘が行えると言う利点が出来た。
強いて言うのなら槍として扱える程には体術を収めなければ成らないと言う欠点は有るが、それをするメリットは確実に有る。
彼女程体術を修めていれば、それはもう大きな武器に成る事は間違いが無かった。
「そこまで言うならボクも少し本気を出さなくちゃね」
ルーチェは手に持つ杖を一度くるりと回す。
「手加減してる余裕なんざねぇぞ、最初から全力で来い……死にたくねぇならな」
そう脅すケヴィン。
勿論殺す気等無いが、死ぬ気で掛かってきてもらわなければ楽しめないのも事実だ。
つまりは、本気を出さなければ一瞬で負けるぞ?
と言う意味合いを含んでいるのだ。
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