ジパング学園の実力者達
もう数話程日常回が続くので、本日は二話投稿させていただきます!
「こ……怖かったです」
マリアは何故かブルブル震えている。
「でっかいおじさんだったよね!! あれ? でもあの人制服着てたけど、まさかこの学園の生徒!? 老け過ぎなんだよ!!」
恐らくフロールが語っているのは先ほどの大男の事だろう。
二人とも間違いなくこの学園の制服に身を包んでいた為、生徒である事には違いない。
しかし大男が老け過ぎだと言う感想には同意するケヴィンであった。
「もう一人のお兄さんは中々のイケメンだったねぇ、ケヴィンちゃんがいなかったら惚れてたかもぉ」
「あ! アドレットは直ぐそんな事言う! そんなんだから小悪魔って呼ばれるんだよ!!」
「うふふぅ~少しぐらい軽く見せた方が女の子ってモテるのよ?」
「そ……そうなのですか!? でも軽いって……私のこの胸では……」
言葉の意味合いを完全に勘違いをしているマリアを放っておきながら、いつまでも二人の後ろ姿を眺めるケヴィン。
彼らの存在が無性に気になり始めた頃、突然と後ろから声を掛けられる。
「流石ケヴィン君、お目が高いね」
幼い少年の様な声で言葉を掛けられ、ケヴィンは彼らから視線を外し声の主へ向き直る。
「……お前は?」
見ると、先ほどグラウンドで目が合った少女がそこに居た。
彼女の後ろには金色の髪を携えた女性生徒がおどおどしながらケヴィンへと会釈をする。
身長は170程だろうか、やせ形で肌は白いが血色は良い。
長い髪を後ろで二つに束ね、前髪は眉の下あたりで切りそろえられている。
細い顔のラインを覆う様に伸びたサイドヘアーは顎あたりで整えられ彼女の端正な顔をより強調している。
大きな丸い目に筋の通った小ぶりな鼻に小さな口元。
見る人が見れば、エマと並ぶ程の美少女と言う例えを出しても欠損無い程だ。
「ボクは『ルーチェ・アブニール』、ジパング学園特待生の、見た通りのエルフだよ」
ボクと言う呼称で自分を呼ぶが、身形からして間違いなく女性生徒である。
こっちの学園にもボクっ子がいるとは……とフロールに一瞬視線を送る。
そしてルーチェは後ろで恥ずかしがっている女性を前面に押し出し、紹介をする。
「彼女の名前は『フィーネ・アブニール』、訳あって僕らは従姉妹と言う関係性だけど、この子は間違いなく人間だからね。事情は聞かないで? 深入りされるのは好きじゃないから」
「構わねぇ」
どうも、どうも、と何度もお辞儀をするフィーネ。
何をそんなに恥ずかしがっているのか分からないが、何度かお辞儀をした後は再びルーチェの背後へと戻ってしまう。
「ごめんねぇ、この子ちょっと男性恐怖症な所が有ってさ。これでもこの子なりの精一杯のコミュニケーションだから許してあげてよ」
「それより、何であんたは俺の名を知っているんだ? さっきもグラウンドで俺を知っている様な素振りを見せていたよな?」
先程の男と言いこの女性と言い、やはりケヴィンにとって関わりあった記憶は無い。
自分の記憶力には多少自信が有る為、それはほぼ間違いないと思っている。
「残念だよケヴィン~、ボクと君はもう只ならぬ関係じゃないかぁ? あの熱い夜を思い出すだけでボクは堪らないって言うのに、ケヴィンはボクにあんな酷い事しておいて忘れたって言うのかい?」
「け、ケヴィン様!? 一体どう言う事ですの!?」
「そうだよ! 僕以外の女の子に何操立てちゃってんのさ!?」
「ケヴィンちゃん物好きなのね? でも良いよぉ、その後にちゃんとあたしを愛でてくれればぁ~」
酷い言われ様である。
「で、何で俺を知っているんだ?」
彼女らの追撃すら全く反応せず、目的だけを問うケヴィン。
「ちぇ、つれないね君。女心が分かって無いって言われない?」
「あ、それ同感~」
序にと言わんばかりにアドレットは呟いた。
「ボクはねぇ、強い人が好きなんだ。これでもボク、今年の新入生の中で首席の成績持ってるんだよ? ちなみにフィーネは次席だね。だから事実上ボクはこの親善試合でジパング側のエースとして参加する事になるんだ。相手になる君達の学園の戦力は把握しておかなくちゃね。だからケヴィン、君と後レオン君とエドワード君の事はとっくにマーク済みだよ」
彼女が語った名は、アトランティス学園の確かな戦力である三人だ。
強さを隠そうとしないケヴィンに、時々馬鹿をやらかすレオン、そして一般人としては確かな実力を見せているエドワード。
非公式であるデュランとエマの名が出ない辺り、アトランティス側で公開されている情報だけが彼女の知り得ている物の様だ。
「納得したって表情だね」
「あいつもその影響で俺を知っていたのか?」
先程去って行った二人組の方向を指差してケヴィンは問う。
しかしその質問に彼女は首を振った。
「あの『シアン』が何故君の事を知っていたかは分からないよ。それで、君から見て彼ら二人はどんな風に見えた?」
「……実力者だな、それも相当な」
率直な感想である。
はっきり言ってしまえば……『一般人』では無い、そう感じさせる程の存在感だったのだ。
「ふふ、やっぱり君はお目が高いね。美形の彼の名は『シアン・ローゼンクランツ』、そして大きなおっさんみたいな人が『ドモン・アルドカーラ』。二人ともこの学園の五年生……勿論特待生だけど、彼ら二人はこの学園きっての天才と呼ばれてて、一年生の頃から学内最強と呼ばれてるんだ」
「成る程な」
ケヴィンは適当に相槌を打つが、それよりも先程の『シアン』の苗字が気になった。
『ローゼンクランツ』
そう、あのエマ・ローゼンクランツと同じ苗字である。
彼と彼女は、何かしら関わりが有るのだろうか……?
「あの二人が居なきゃボクとフィーネも同じ様に呼ばれてる筈なんだけどねぇ、やっぱり先輩には適わないや」
エマとの中にはまだまだ蟠りが有る。
彼女に直接この事を聞けたのならばそれが一番なのだが、諦めるしか無いようだ。
そもそも例え彼が彼女達が家族だったからと言って、それがケヴィンにとっては何も関係が無いとも言える。
わざわざデュランに聞いてまで仕入れる情報では無いだろう。
シアンとドモン、面白い人材がジパング側にも居た。
それだけで満足である。
「ルーチェちゃん……そろそろ」
「あ、そうだったね。皆、もう夕食パーティが始まるよ? さっさと食堂行こう」
フィーネの発言でここに来た要件を思い出したかの様に口走るルーチェ。
彼女らの指示の元、その場から移動を始めるケヴィン達。
取り巻き三人組も、食い意地には素直なのかさっさとケヴィンを置いてルーチェ達の後ろを追って行った。
最後尾からゆっくり歩き始めるケヴィンは、シアンの言葉の意味を考えていた。
シアン・ローゼンクランツ。
彼の言った『また会おう』の意味は。
あの向けられた笑顔の真意は。
考えても分からない事だって有る。
だが彼に悪意が有る様に見えない以上、警戒する必要は無いのかも知れないとケヴィンは思うのだった。
――――……。
ケヴィンが強そうと思う相手は……そう言う事ですよね。




