ケヴィンを知る者
一日100プレビュー前後行ける様になってきました。
皆さん本当にありがとうございます。
「諸君」
いつの間にか特設ステージに立っていた一人の老人が拡声魔道具を用いて生徒達に声を掛ける。
一斉に拍手が鳴りやむと、ジパングの生徒達は校舎側へと向き直る。
それに習いアトランティス側の生徒一同も、正面へと姿勢を正す。
遅れる様にステージへと昇るアルベルトの姿が見え、それを確認した先の老人は再び口を開く。
「私の名は、『キース・ダスカロス』、このジパング魔導騎士学園の学園長を務めさせて貰っている。アトランティス学園の諸君……この度は長旅ご苦労であった、我が学園は諸君を歓迎しよう」
アルベルトが武人の風貌を醸し出した屈強な老兵であるのに対し、キースの風貌は紳士的なエリート貴族がそのまま老人になった印象だ。
長く伸ばされた白髪は、後方で一括りにされ、顎鬚はそり上げられ、口髭のみ整えられた顔つき。
貴族風と言えどその瞳はとても力強く、その肉体も恐らくそれなりの実力者であるだろう事が理解出来る。
堅苦しい言葉使いをしているが中々の好々爺である、とケヴィンは印象を持った。
立ち替わりでアルベルトが前へと出向き、言葉を連ねる。
「私の名は、アルベルト・ワイズマン。アトランティス魔導騎士育成学園の学園長をやっておる。この度は我が学園を迎え入れていただき大変感謝しておる。此度の親善試合……双方の友情を深めると共に、良い戦いと成る事を願っている」
二人の挨拶が終わると、何処かしらか再び拍手が成り始めキースとアルベルトは檀上を後にした。
入れ替わる様にアトランティス学園Aクラス担任のルイスがステージへ立つと、瞬時に拍手は鳴りやみ彼の言葉を待つ姿勢へと入った。
「それでは本日より五日間の日程を説明する。厳密には明日の午前より親善試合が行われるのだが――」
ルイスは今回の親善試合で司会進行を承る立場に居る様子である。
特に難しい内容も含まれずあくまで友好的に、しかし決して手を抜かず魔導騎士団の一員として誇りをもって戦う事をルイスから求められた。
一通りのルールや期間内の流れを説明され、グラウンドでの開会式は終了の運びとなった。
その後は夕食時まで自由行動となり、ジパング学園内を見学する事となる。
ケヴィン達アトランティス学園の生徒は、その日は客人用に設けられた寮で寝泊りする手筈の様だ。
夕食には宴が用意されてると知り、生徒達は興奮が冷めない様子。
「ケヴィンちゃん次こっち行ってみよ! 図書室が有るんだってぇ」
「もう室内は飽きたよ! 外行こうよ外! この学園凄いんだよ? 山や森に囲まれて自然だらけなんだよ!!」
案の定自由行動に成った瞬間にケヴィンに纏わり付く女性生徒達の姿。
「あ……あっちゃんにフロールちゃん!! その位置は私専用の場所ですわ!?」
「早い者勝ちだよー! マリアがトロいのがいけないんだよ! そんなおっきなものぶら下げてるから!」
言いながら、フロールはマリアの胸を叩く。
「こ……これはケヴィン様の為に大切に大切に育ててきた私の財産ですわ!! 胸とトロさは関係有りません!」
その女性生徒は三人。
マリア、アドレット、フロールである。
フロールは前日の事件以降、ケヴィンへと急接近してきた。
同族である為か、例えそうでなくてもケヴィンは自分を邪険に扱う者以外には、当り障らずの態度を取っている。
別段自分から接近する訳では無いが、近頃は挨拶程度なら誰とでも交わす程には、ケヴィンの心情に変化が起きて来ているのは事実であった。
その結果フロールは、マリア、アドレットに次ぐ取り巻きの一人と化してしまったのだ。
右腕に抱き着いているアドレットに、左側から腰回りを両手で抱きしめているフロール。
自分の入る隙間が無く成ってしまった為に、あたふたとケヴィンの周辺をうろちょろするマリア、その全てをほぼ全力で無視し、学園の廊下の壁に立てかけられている美術品を眺めているケヴィンと言う光景が出来上がっていた。
特に絵やそう言った芸術に興味の有るケヴィンでは無いが、綺麗な物は綺麗と思える感情は持っている。
同時に途轍もない集中力も有る為に彼女らの存在を自分の中で無にする事が出来た。
三人に思いっきり引っ張られても、彼の身体能力からすれば何事も無い様に悠然と歩く事も出来るのだから。
開会式の後アトランティスの生徒達は、ジパング側の生徒達から学園の案内の誘いが有った。
コミュニケーション能力の頗る高いレオンは、あれよあれよと言う間に複数の女性生徒に手を引っ張られ、何処かへ消えて行ったのが見えた。
アトランティス側の女性生徒が少なからず悔しそうにハンカチを噛み締めていたのも少しだけ眺めていた。
男性生徒からのエマの人気は凄まじかった。
ここぞとばかりに同校の生徒でさえエマと行動を共にしようとしていたが、その全ての誘いをエマは断り自然にデュランへ視線を向けた。
同時に女性生徒に囲まれていたデュランもエマと共に行動する事を告げ、誘いを丁重に断っていた。
至高の美男美女が互いに互いを指名してしまえば、他の生徒に対抗手段は無いだろう。
かなりの人数の生徒一同が激しく落胆し、羨ましそうに二人を見送る姿は中々に面白い物だった。
ケヴィン自身、女性生徒からの誘いは多数有った。
しかし彼を囲むこのトリオ達が完全にケヴィンを独占してしまっていた為、誰もが最終的には諦める形になってしまう。
ケヴィン自身が大した反応を見せないと言うのが一番の問題なのだが。
「おっと済まない」
ケヴィンは突然聞こえた声に珍しく驚きを見せる。
絵に集中し過ぎて、廊下の脇に設置されている扉が突然開いた事に気づけなかった。
それだけならまだ反射は可能だが、問題は扉を開けた『人物』にある。
すらっとした長身の男。
恐らくレオンと同じ程の身長だろう。
紫色の綺麗な長い髪を携え、前髪は右目を隠している。
その髪色に見合う紫色の瞳が宿る大きな目で、彼はケヴィンを見つめていた。
高い鼻と整った輪郭に唇。
低めの声からして明らかに男で有る為に、綺麗系な美男子と言うのが彼の第一印象だろう。
「がっはっは! 坊主、やけにモテモテじゃないか。良い事だ、若い内は遊び尽くすが良いぞ!!」
そして彼の後方から豪快な笑い声と共に現れた大男。
恐らく身長は2メートルを超えているだろう。
はちきれんばかりの筋肉を携え、それが似合うこげ茶色の肌にウェーブがかった緑色の長髪。
生え放題の太い眉に細い目、ごつごつとした鼻と輪郭に大きな唇。
一見強面に見える彼だが、その浮かべる笑顔はとても柔らかい印象を覚える程の矛盾を醸し出している。
彼らは間違い無く先の開会式の時に、ジパング側には存在していなかった。
制服の色合いからして間違いなく特待生に当たる生徒なのだが、あの場には居なかったのだ。
恐らく彼らは上級生。
同じ一年では無く、いくつか年上の先輩だろうとケヴィンは当たりを付ける。
そんな彼らの何が問題かと言うと、……気配が察知出来なかったのだ。
勿論、ケヴィンが美術品に集中していたと言う事実はある。
当たり前に探知魔法をこんな所で使っていなかったと言う事もある。
だとしても本来人が移動する際に発生する音等の気配はそう簡単に消せる物では無い。
この二人のジパング生徒はそれを卓越したレベルで掻き消し、自分が視界に捉えるまで存在に気づけなかったのだ。
ケヴィンは表情に出さずとも、内心はニヤリと微笑んだ。
期待外れな学園かと思ったが、どうやらジパング側にも相当な手練れが居る様だと踏んだ。
デュランやレオンレベルの使い手なら、中々に楽しめそうだなと感想を漏らす。
「アトランティス学園の一年生達だな? 見学の邪魔をしてすまない、楽しんで行ってくれ」
「……あぁ」
「じゃぁな色男!!」
大柄な男に軽く肩を小突かれるケヴィン。
それだけでズシリと音が発生するが、ケヴィンにダメージは無い。
立ち去る大男の後ろで、紫髪の美男子は静かにケヴィンを見つめている。
「……何だ?」
「いや……また会おう。『ケヴィン』」
言うと、男は優しく微笑み、大男の後ろを追いかけるのだった。
ケヴィンは首を傾げる。
何故彼は自分の名を知っているのか。
そう言った疑問がケヴィンの中で浮かんだのだった。
少なくとも彼との接点は一切無い。
しかし、何故か彼は自分の名を慣れた言葉づかいで呼んだ。
「……」
いくら考えても答えは出ない。
記憶を探っても彼の風貌と照らし合わせられる存在と出会った事が無いのだから。
一度でも顔を見た事有るのであればケヴィンが忘れる筈無い事から断言出来る。




