ゲノム海賊団と世界一の男
前回まで日常編が続いたので、本日は二話投稿します!
ゲノム・アスヒモス。
元Aランクギルドメンバーであり現在はA級『賞金首』。
一般人としては有能な実力者であったため、ギルドメンバーとして相応に名を馳せていたのだが、己の実力を鼻に掛け好き放題生きた挙句、女性を強姦のち殺害すると言う犯罪を犯した。
その時点でギルドメンバーとしての資格を剥奪され、全国指名手配とされる。
国外逃亡を繰り返し、彼が起こしたと思われる強盗殺人は二桁にも及ぶ。
結果、オールガイア的犯罪者に指名され、今現在逃亡を続けている。
彼の主な活動拠点は『海』である。
古い時代には『海賊』と呼ばれていた事も有ったが、船旅をする者等極少数である為に現在でそれが稼ぎに成るかどうかは微妙だ。
しかし、その分船を利用する客の殆どは富裕層である為に、量より質と言う形でリスクが伴うが収益は有る様子。
通称ゲノム海賊団は船を持たない。
昔の様に船から船へ乗り込んで襲撃する等と言った方法は取らない。
海賊なのにそれで良いのかと言う声も有るが、そもそも犯罪者に常識等語っても意味が無い。
彼らは彼らなりに、あらゆる手段を使って船へと潜伏している。
積み込まれる荷物に紛れ、荷物置き場へとまんまと潜入する。
ゲノム自身はそうでも無いが、彼の海賊団員は総じて小柄な者が多い。
その為に、若干カビ臭い布袋に隠れて他の荷物へと紛れると、乗組員は疑う事無くその荷物を荷台へと詰め込んでしまう。
船に乗り込み、船が出航してしまえばもう彼らの独壇場である。
元がAランクギルドメンバー。
その実力は折り紙つきであり、生半可な一般人では太刀打ち出来ない。
他の団員達ですら最低でもCランクを誇る精鋭揃いの為、頭であるゲノムはA級賞金首まで上り詰めたのだ。
その日は何もかもが上手く行ったと思っていた。
神経を研ぎ澄まし船上の気配を探れば、500人以上の乗客がこの船に乗船している事が分かる。
ゲノムははっきり言ってとても醜いその顔で、これでもかと口角を引き上げ不気味な表情で笑う。
生え際が後退しており、それを理解しているが故の坊主頭。
青髭の残る割れた顎に、突き出る頬骨。
デカい鼻に太い唇は、はっきり言えば来世にも期待出来ない程に不細工であった。
しかし笑みに染まっていたその表情は、荷台から抜け出し船上の客を視線に入れた瞬間……酷く歪んだ。
真ん丸の目をこれでもかとむき出しにし辺りを見渡すゲノム。
既に水面下で動いている構成員達は、気づかれない内に何人かの人質を取っている事は気配で分かる。
だが、乗客の風貌は……彼が思い描いていたそれと大きく異なっていた。
学生服に身を包んだ市民達。
自分よりも一回りも二回りも下のガキ共。
成人してはいるが、彼にとってそんな些細な事関係無い。
ガキはガキである。
それはゲノムにとって大きな計算違いだった。
その日は確かに、上流階級の貴族達が船旅へ出かけると言う情報を手にしていた。
船旅の利用者が少ない為貴族達は互いに予定を合わせ、一度に大人数での船旅へ出かけると言った工夫をし、余裕の出来た資金で船旅をより優雅な物にすると言う方法を取り、定期的に旅を楽しんでいる。
ゲノムはその出航日を細かく調べ、貴族達の乗る船へ潜入し貴族達から金品を巻き上げる算段だったのだ。
そこへ偶然重なったのが、アトランティス魔導騎士育成学園の遠征である。
本日アトランティスの港から出航した船は全部で三台。
内二台はアトランティス学園の生徒達で埋まり、残った一台を貴族達が利用していた。
ゲノム達はその事実に気づかずに、狙いを定めた1台がまさかの学生が乗り込んでいるアトランティス学園が利用していた船だったと言う失態を犯した。
何てことだと腹を立てたが、構成員達は既に自分達の任務に入っている。
今更引き上げる事も出来ない上に、骨折り損になるなんてまっぴらごめんであった。
幸い乗客数としては何も文句の無い人数。
このまま策略を実行に移そうと意識を切り替えると、ゲノムは自分の役目である『強者』の無力化を行う為行動を起こし始めたのだった。
――――……。
「さて、何やら面白い事になって来たが」
相も変わらず、ケヴィンは未だに船の上部でハンモックに揺られていた。
激しい喧噪と少しだけ強い魔力の反応に、甲板へと視線を下ろした彼は突然の状況変化にしかめっ面をした。
甲板の奥、船の先頭に有るとても広いエリアに、乗り合わせた同級生達がほぼ勢揃いしている様に見える。
目に魔力を込め、視力を格段に上昇させ状況を確認する。
どうみても教師では無く見た事の無い人物が十数人甲板へ立ち並び、その前方に生徒達が無造作に集められていた。
一部の生徒達の表情は、恐怖に染まっている様にも見える。
見れば教師陣も一緒にその人物の前に蹲っている。
何人かの教師には酷い暴行の跡が見られ、やはり状況は只事では無い事が分かる。
ケヴィンの予想では恐らく賊。
このご時世に最も珍しい海賊ではあるが、昔から数件被害が出ているのも耳にしている。
ほぼ間違いなく、A級賞金首のゲノムの仕業だろうとケヴィンは当たりを付ける。
賞金が懸けられていると言え相手は人間、魔物よりも遥かに知能が高い為中々足が付かなかったゲノム。
海に転移魔法陣は存在しない。
船をジャックされ、一度それを見失ってしまえば、それを探し出すのは難しくなってしまうだろう。
貴族が乗る船には普段何人かの上位ギルドメンバーが用心棒として雇われている事もあるが、今回の学園が用意した船には引率の教師陣が存在する為に、ある程度は対処出来るだろうと特にギルドから用心棒は雇っていなかった。
しかし何かの狙いが有るのか、その教員の配置には明らかに偏りが有った。
デュラン、エマやエドワードの乗る船にはアルベルトやルイスと言った明らかな実力者が乗り込み、そこだけの戦闘力を見れば明らかに戦力過多。
逆にレオンとケヴィンの乗るこの船には、どちらかと言うと文学を専攻する教師陣ばかりである。
戦闘に向く教員はあまり乗船していない。
結果、元Aランカーのゲノム率いるゲノム海賊団に、大した抵抗が出来ぬまま捕らわれてしまうと言う形になったのだろう。
元々がそう言った事態を予測していないと言う事も有りその様な配置になったと思われるが、ケヴィンにはどうしてもアルベルトが自分をダシに使ってる気がして堪らなかった。
「なぁ! トイレ行かせてくれよぉ、もう暴れないからさぁ!」
強化した聴力が、一人の生徒の声を拾う。
一人だけ両腕を後ろに縛られて、少し制服が乱れている。
恐らくは戦闘を行ったのだろう、つまり反抗した事によって取り押さえられ、現在に至ると言う事だ。
ケヴィンは、あいつならやりかねない……とその生徒を確認して思う。
自分の力を隠す事が下手くそなあの『レオン』なら、間違いなくこの状況になれば抵抗を見せるだろう。
大方、何人かと対峙している最中に、他の生徒を人質にでも取られたのだ。
そうでなければあのレオンが大人しく捕まる筈も無いし、海賊団の戦闘力ではレオンに勝てる筈が無い。
ざっと海賊団全員も魔力を測定しただけでも、ケヴィンはそこまで判断する事が出来た。
一番強いと思われるリーダーのゲノムでさえ魔力を隠す事が出来ていない為に、自らの戦闘力をバラしている状態だ。
「だめだぁ! 貴様は要注意人物って報告が上がっているんでなぁ? 目を離した隙に何をするか分かったもんじゃねぇ!」
「この状況で何が出来るって言うんだよ! 心配なら見張り付けたって良い!! 頼むよぉ、漏れそうなんだよぉ!!」
縛られた両腕に視線を送りながらレオンは懇願する。
生徒一同は、青い表情をしながらレオンの行動を見守る。
一人だけ危機感が足りてない様に見えるのも事実だ。
「ち……ここでギャーギャー騒がれてもうるせぇだけだ! ……おい、お前とお前、そいつを便所に連れてけ! 目を離すなよ?」
「よっし! さんきゅー」
口笛でも鳴らす様なテンションで立ち上がったレオン、部下と思われる二人の人物に両腕を掴まれながら甲板を後にする。
ケヴィンが彼の動向を見守ってるいと、やがて甲板から完全な死角となる場所で不意にレオンが止まる。
しかし頭上方向に居るケヴィンには丸見えであり、これからレオンが起こそうとする行動の一部始終を見る事が出来る。
ケヴィンがこの様な目立つ場所にハンモックごとぶら下がっていても、他の者に一切気づかれていない理由は認識妨害魔法を展開している為である。
擬態魔法も重ね掛けし景色に紛れこんだ様に見える為に、同級生一同はケヴィンがこの船に乗り合わせている事自体把握していないだろう。
そんなケヴィンの足元で、レオンが呟く。
「……ごめんな!」
「は?」
「え?」
その瞬間、レオンの蹴りが彼の両腕を掴んでいた二人の顔面にほぼ同時に激突する。
片足しか振り上げてないにも関わらず、受けた二人はその時間差は一切感じられなかっただろう。
瞬時に気を失った見張り役の二人は、その場で地面に倒れ込む。
レオンは両腕に後ろでまかれている『鉄の糸』で作られた縄を強引に引きちぎり、大袋へ手を突っ込んだ。
「……へぇ」
もしレオンが気を張っており、辺りの索敵を敏感に行っていたのなら、ケヴィンがその場に居た事に気づいただろう。
そこまで強く認識阻害を行っていない為、彼ほどの実力なら可能だった筈だ。
しかしレオンは恐らく必死だったのだろう。
一切レオンはこちらに気づく事無く、自らの正体を明かしてしまうと言う状況となってしまったのだ。
彼が大袋から取り出したのは『黒いローブ』……それも、背中に『赤い炎』の紋章を刻まれた物。
そのローブが意味する物……それは彼が『Xランカー』である事。
ケヴィン自身その事実にはとっくに気づいていたが、紛れもない事実としてレオンが英雄である事が証明された。
そしてレオンが背負う紋章が意味するものは、赤く燃え盛る炎の紋章を持つただ一人の英雄であると言う事。
オールガイアランキング一位、『炎帝』……『紅蓮の翼』その人である。
多分殆どの方がレオンの正体は予想が出来た事でしょうね。




