船旅
ケヴィンは当然船酔いもしません。
「……退屈だ。最近こればかり言ってる気がするが、それでも……退屈だ」
ケヴィンは、ハンモックに揺られながらそう呟く。
学生服に身を包んでいる為、学園生活のワンシーンであるのは間違いないのだが、昼時の休憩時間では無いにも関わらず、ケヴィンはまるでサボっているかの様にハンモックの上で一眠りつこうとしている。
ハンモックの下を見ると、何やら大きな窓が無数に設置されている豪華なホテルの様に綺麗な建造物が存在する。
ケヴィンはかなり高度の高い位置に有る『ポール』の先端同士にハンモックを繋いで、誰にも邪魔されずに安息に付こうとしていた。
そのホテルの様な建造物では、ケヴィンの同級生達が同じ様に制服に身を包み、それぞれが至る所で談笑したり『海』を眺めていたりしている。
ケヴィン達がいま『搭乗』している大きな『乗り物』は、大海原を突き進んでいるからだ。
つまりそれは『巨大な船』。
それも貴族御用達の『豪華客船』なのである。
今現在、アトランティス魔導騎士育成学園の一年生は、東方の国『ジパング』に向かっている。
同じグランガイア大陸の国ではあるが、アトランティスは周囲を海に囲まれた国である為に、別の国へ行く為には転移魔法陣を使う以外にはこう言った船や飛行船を使う必要があった。
勿論陸続きとなっていない訳では無い為、地上での移動も可能なのだがそれはそれで非常に遠回りになるのだ。
本日から1週間、彼らはジパングで過ごす。
目的は『同盟国交流戦』だ。
古き時代からアトランティスとジパングの交流はとても深い。
今でこそ全世界は同盟国の様なものだが、そうなる以前より2つの国は公式な同盟国であり、今でも互いの国王同士は盟友の様に関わり合っていると聞く。
その影響もあってかアトランティス学園は他学園との交流戦等を同国内で行わず、両国の所謂『名門』と呼ばれる自国を代表する学園同士で行う文化を昔から両国は持っていた。
この行事は毎年通して全学年で行っている。
入学から一月もしない内に両学園の一年生同士で競わせる理由としては、第一が生徒同士の交流を深める事も含まれている。
1週間他国に行くと言う事は、学園行事と言う項目を抜けば旅行にも近い形となる。
千人にも及ぶ同級生一人一人を、全員把握して居る者等この時点では皆無だろう。
逆にケヴィンやレオン、エドワードと言った一方的に全生徒から知られている人物は存在しているのだが。
自分が生まれ育った町にある魔導騎士育成学園では無く、首都となるアトランティス学園に地方から出てきて通う生徒も居れば、当たり前に国外……それもフォレスガイア大陸からも、名門であるアトランティス学園に入学する生徒は存在する。
その為人によっては元々の知り合いが少なく数週間経った今でも、未だに友人が出来ていない生徒も居ることだろう。
一年生が行う交流戦の内容は、全生徒同士の団体戦。
アトランティス学園一年生対、ジパング学園一年生の総力戦である。
グランガイア大陸の中で比較的自然の多いジパング国で、その大自然を舞台にサバイバル戦が行われるのが毎年の一年生の恒例だ。
求められるのは個人的な強さでは無く、チーム力。
団結力を高め、仲間意識を芽生えさせる事を目的とし、更には目下のライバル的存在の他校の同学年と競わせる事で、生徒達の実力を底上げしようと言う考えの元行われている。
二年生の交流戦は春も終盤の初夏に成った頃に行われ、三年生は夏が過ぎ季節が秋になった頃に行われる。
四年生は肌寒い冬の厳しい環境下での模擬戦を経験させ、五年生は卒業直前の修学戦と言う形で行われていた。
五年生に関しては思い出作りとしての内容が強いだろう。
今回のジパングへの移動手段が船と言うのも、いくつか理由が有る。
「でっか!! 海ってデカいんだな!? デュランと同じぐらいデカい!!」
甲板でやたら騒いでいるのは、そのテンションですぐにレオンと分かってしまう。
彼は今デュランやエマとは一緒に居ない。
と言うのも生徒達が移動手段として使っているこの船は、豪華客船と言えど乗員制限は大して多くない。
精々400~500人乗り用であり、引率の教師を含めると船を二つ使って一学年を半分に分けて乗船しなければならない。
その影響で、レオンはケヴィンと、デュランはエマとと言う形で二手に別れている。
それどころか此方側の船に乗っている『特待生の生徒』はケヴィンとレオンしかいないのだ。
どう言う腹積もりで教師陣がこう言う配分にしたかは謎だが、同クラスの生徒とですら碌に関わり合おうとしないケヴィンを強制的に、他クラスの生徒達との交流を持たせようとした腹積もりでもあるかの様に思える。
レオンがここに居るのは、その圧倒的コミュニケーション能力ですぐに友人を作れる事を利用し、その恩恵をケヴィンに持ってこようとでもしているのだろうかとも思える程だ。
仮にそう言った考えが学園の上層部に有ったのだとしても、ケヴィンはその手には乗らず見ての通り一人で居る事を選んでいるのだった。
レオンの早大なボケに、周囲の生徒達は楽しそうに笑う。
それを気にせず目の前に広がる青々とした海を、レオンは瞳をキラキラさせながら見つめていた。
転移魔法陣の影響で、こう言った乗り物で移動する人は極端に少ない。
この客船の定員数が少ないのもその影響であり、その結果海を見た事の無い人は確かに存在する。
レオンの正体をなんとなくだが予想しているケヴィンからすれば、彼が本当に海を見た事が無いかは分からないが、それでも彼と同じ様に海を見つめている生徒は何人も居た。
アトランティスはグランガイア最大規模の大都会である。
その為、自然をゆっくりと眺めると言った行為をする事が無く、その素晴らしさをどうにか伝えたいと言うアルベルトの思惑がこの船旅には有るのだろう。
ジパングまでたった一時間だが、アルベルトのその思惑は間違いなく成功しているだろうとケヴィンは思う。
彼にとっては退屈以外の何物でも無いが、レオンが作り出す周囲の雰囲気は決して嫌いな物じゃないと思ってはいる。
彼の周りにはいつも笑顔が有るからだ。
彼には自然と人を引き付ける力、そう……自分も何処か惹かれる物が有るのはケヴィンでさえ否めないのだから。
そう思いながらも、到着まで残り半刻程だろうか等と呟き、ケヴィンは再び瞳を閉じた。
――――……。
態々転移用魔法陣を使わずに移動する事によって、何も起こらないはずもなく……?




