懐かしき地下室
もう少し日常回が続きますのでお付き合いお願いいたします。
「さて、どうしたもんかな。バケツリレーでもするか?」
冗談半分で口にするケヴィンだが、おバカ二人組はもっと酷い発言を醸し出す。
「飲む!!」
「却下だ」
「食べるぅ!!」
「お前らは飲食から離れろ!! つうかこんなキタねぇ水を口にしようとすんな!!」
「……吸い込む」
「おい……お前には少し期待してたんだがな……」
レオンとアドレットの壮大なボケに突っ込んだ後、まさかのデュランまでそう言った発言をしだすのかと溜息を漏らすケヴィン。
「……いや、冗談を言っている訳では無い。『吸い込む』んだ。お前なら……出来るだろう?」
「あぁ、成る程。すまんな」
二度言われた事によって、デュランがしっかりとした対策をケヴィンに提案していた事を理解した彼は、すぐに水面に手を付ける。
「何してんだ?」
ケヴィンが水中へ自分の魔力を浸透させていると、レオンが問いかけてくる。
「探知魔法の応用で、地下の構造を把握しようとしている。『水路』を作る為に地下室で最も低い位置を探してんだ」
説明の通りに、ケヴィンは水が室内のどのルートを遠っているか感じ取ると、そのまま別の魔法を構築する。
岩魔法を繰り出し、肩幅程度の直径の筒を目の前に作り出す。
「おぉ!!」
レオンの驚いた声を無視しつつ筒の先端を水面へと付け、更にそこから筒の長さを伸ばしていく。
「なるほどぉ、ホースみたいなのを作ってるんだねぇ?」
アドレットの言う通り、ケヴィンは岩魔法で巨大なホースを作っているのである。
「アドレット、この近辺に川、もしくはそれに繋がる溝は有るか?」
「裏道にあるよぉ!」
水底にホースの先端が辿り着いた事を確認したケヴィンは、アドレットの案内で槍聖宅の裏側へホースの逆側を伸ばし始める。
これまた無駄に広い裏庭は、レオンのお蔭で綺麗さっぱりとなって居る為に移動は全く苦では無かった。
裏庭から抜けた先に見えた道路の端に確かに溝が存在しているのが見え、ケヴィンはそこにホースの先端を向けた。
筒の中に向け片手を向けると今度は風魔法を操り、筒の中の空気を『吸い上げ』出した。
一同は、デュランこそ普段と変わらない表情をしている物の、レオンとアドレットはケヴィンの行動一つ一つに興味津々と言った感じだ。
「今度は何だ!?」
我慢しきれずレオンが発言するが、ケヴィンよりも先にデュランが口を開く。
「……ストローの原理、と言えば分かるか?」
「成る程!! 細いストローで少しずつ飲んでいても埒が明かないから、巨大なストローで一気に飲んでしまおう作戦だな!? ん? それならそれでここまで伸ばす必要無くないか?」
「おい……」
「……すまない、どうしてそうなるのか俺にも分からん……」
ケヴィンは突っ込み疲れた様子で小さく呟くと、申し訳なさそうにデュランが返事をした。
「出ちゃう~!!」
筒の中を覗き込んでたアドレットが、何故か艶やかな声で言葉を発する。
その言葉通り、ケヴィンが手にしていた大きなホースから勢いよく水が飛び出す。
中の空気を丸ごと引き上げる事で、それこそストローで容器内の液体を吸い上げる様な原理を応用し、遠くにあった水を吸い出す事に成功した。
ケヴィンはそのまま風魔法を止め、溢れ出た水から地下水へ魔力を干渉させ、水の操作へと魔法を切り替えた。
魔力を地下の水中に全て循環させた事によって、その全てが一つの物体としてケヴィンは捉える事が出来た。
そのおかげで地下の吸い上げ残しが起こらず、全ての水分を一滴も残さず排出する事を可能としたのだ。
若干の湿気が残る事は仕方ないが、それでも地下室の掃除が乾燥させる事から始まらなくて済むのは良い事だろう。
「ケヴィンちゃんって、魔法を凄く面白い使い方するよね」
「あ? そんな事ねぇだろ」
「いや凄いよ! 普通自然魔法って攻撃魔法や回復魔法以外の手段として使う事なんて無いだろ?」
「……お前と居ると、いくつもの既成概念があっさりと崩れる気がするな……」
ケヴィンにとってはこう言った魔法の扱い方は、本来の属性魔法を応用として使っているだけで有り、光属性の照明魔法の様な俗に言う『生活魔法』と呼ばれる類と全く大差は無いと思っている。
デュランの言った通り、既成概念を崩して別の使い方を考えるだけで様々な現象を起こす事が可能である事をケヴィンは知っている。
先から使っている魔法自身は、普通に自然魔法を扱える者ならば誰もが出来る事だとケヴィンは思っている。
多少の器用さは必要だがな、と他人が聞いたらそこが難しいと言われかねない感想をケヴィンは浮かべていた。
水を完全に吸い上げた為、ケヴィン達は地下へと移動する。
途中の階段や壁、天井にこびり付いた苔等を魔法で剥ぎ取りながら進むと、地上から見た槍聖宅の敷地一帯、その全てを使って地下室を作成しましたと言わんばかりの広大な一室が姿を見せる。
照明魔道具は水で壊れると言った電化製品の様な性質は無い為、長年放置されていてもしっかりとその効力を発揮しており、地下室と言えど確かな明るさを保っている。
先と同じ様にその一室にこびり付いた汚れを魔法で除去すると、真っ白で殺風景な一室へと変貌した。
その光景に、ケヴィンは再び十年近い昔の自分の残像を見る。
浸水によって完全に錆びついてしまったトレーニング用の機材に触れながら、かつて我武者羅に心身を鍛えて居た頃の自分を思い出す。
この部屋……もっと広かった気がするんだがな……と自分の年齢による成長をひしひしと感じていた。
それと同時に、エリルに師事していた日々の事も思い出す。
彼は今……何処に居て何をしているのだろうか。
その点に関しては心配はしていないが、それでも無事で生きていてくれたらそれで良いともケヴィンは思うのであった。
「……あれか」
一見、浸水の原因は何も無いように見えた。
壁や床が破損している様には見えず、そもそも強度増強や衝撃吸収効果の有る魔法陣がうっすらと刻まれているその壁や床が、多少の事で壊れる事は無い。
だからこそ水槽の役割の様に、水が大地に逃げる事無く溜まりに溜まっていたのだ。
となると残る要因は『上から』の浸水と言う事になる。
デュランが指差す方向に、つまり天井の一部分に太陽光が差し込む拳程の穴が存在していた。
その部分は地上では恐らく庭に面していた筈。
何故その様な穴が開いているのかと、一同は再び地上へと上がり穴が開いているであろう場所へと赴く。
「成る程」
とケヴィンは呟く。
庭へと周り、地下室に向けてぽっかりと穴が開いている場所を発見する。
原因は、『樋』に有った。
雨が降った時屋根から滴る雨が地面を叩き、地面を削ったり跳ね返りや地面からの浸水が原因で家宅への浸食を防ぐために設けられる雨樋。
長年放っておかれた為か、排水溝へと続く筈の雨樋が地面手前で完全に破損してしまっていた。
途中からポキリと折れており、その先端から槍聖宅の大きな屋根から集められた雨水が一点集中して地面を叩いた事によって、地下室への穴が開いてしまったのだろう。
そこから雨が降る度に地下室へと入り込む大量の雨水が、今回の浸水の原因となったのだ。
「よし、改装だなこりゃ」
元よりデュランの見積もりで、修繕しなければいけない部分や買いなおさなければ成らない物は多々あった。
この際、自分の住みやすい様に改装や補強をしてしまおうとケヴィンは決めたのである。
――――……。
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