アドレット・フルーズ2
幼馴染……?
非常に掃除の効率は良く、広い槍聖宅と言えど物の数分で全部屋を回り終えるケヴィン。
道中で先程の疑問を思い出したかの様にケヴィンはアドレットへと尋ねる。
「なぁアドレット。お前は昔からあの家に住んでたのか?」
「そうだよぉ。産まれてからずっとあの家だよぉ」
「じゃぁ15年前も居たんだな」
「そ、ケヴィンちゃんがここの庭でずっと剣を振ってた頃からね」
その言葉に、ケヴィンはアドレットへ視線を向ける。
先程は突然アドレットが登場した事で当時の思い出が頭から抜けて行ったが、改めて彼女を見れば確かにあの時の少女の面影が見え隠れする。
「お前が俺の首元の火傷痕に反応したのは、15年前の俺を知っていたからだな」
「うん! やっと思い出してくれたんだねぇ! あっちゃん嬉しい!」
「次のゴミ袋だ」
「あれ、ムード台無し」
「次の部屋に行くぞ」
言いながら、足早に次の部屋へと進もうとするケヴィンを言葉で制してくるアドレット。
「ちょっと!? もっとこう、感動的な言葉とか無いの!? 十数年ぶりの幼馴染との再会だよ!? 綺麗になったなぁとか、逢いたかったぜぇとか、俺の子を孕めとか言う事沢山あるでしょ!!」
「幼馴染と言う程の絡みは無かっただろ。会話もしてねぇしただただお前がアホ面で俺の事見てただけの関係だ」
「アホ面……確かにあの時は乙女らしさなんて無かったけども……。それよりもうちょぉっとだけあたしの発言を拾って欲しかったりするんだけどなぁ。大体ケヴィンちゃんの小さい頃を知ってる数少ない、と言うよりも同年代で言えばあたしだけでしょ!? もうちょっと特別扱いしても良いと思うんだけど!」
「そうか? そう言われてみれば確かに……いや」
ケヴィンは過去の事を一部思い出す。
幼い頃に知り合った……と言うよりも顔を合わせた事がある人物は極端に少ない。
アドレットの言う通り、同年代の人物を挙げろと言われれば確かに彼女だけと言っても過言では無いかもしれない。
だがそんな幼い頃の出会いを思い出した事によって記憶が刺激され、かつて彼女以外にも出会った事のある人物の面影が見え隠れし始める。
断片的な記憶だが、確か10歳になりかける頃に同い年の『少年』らしき人物と出会った気がする。
ケヴィンが10歳の頃と言えば、完全にデスマウンテンで孤独に暮らしていた頃だ。
その頃に出会ったとすればその人物もデスマウンテンに居たと言う事になる。
普通に考えれば有り得ない。
何となく上流階級風の恰好をしていた記憶が有り、だがその服はボロボロで、金髪の様に見える短髪は汚れによってくすんでいた。
振り向いたその少年の顔を思い出そうとした時、良く分からないが一瞬『エマ』の顔が脳裏に浮かんだ。
「……?」
何故そこでエマが出て来るのかは分からないし、彼女とその少年は全く関係ない存在の筈だ。
最近の彼女との出来事が印象強かった為に、勝手に脳裏にまで浮かんでくる様になったのだろうか。
「あぁー! ケヴィンちゃん今あたし以外の女の子の事考えてる! なんかそんな雰囲気してるぅ! あたしと言う者がすぐ傍に居ながらなんてエッチなのケヴィンちゃん!」
「いや想像してたのは男だ」
「……それもそれで嫌かも」
「こんなどうでも良い話は置いといて、レオンの様子でも見に行くぞ」
「そう、あたしはどうでもいい、そして都合のいい女」
何か良く分からない言葉を呟いたアドレットを半ば無視しながら部屋を後にする。
瞬く間に掃除を終わらしたケヴィンは表玄関から外へ出ると、あれ程生い茂っていた草が無くなり、すっきりと成った庭が視界に映る。
「早いな」
積み上げ固められた雑草の前で、満足げに立つレオンを発見すると彼に声を掛ける。
「お! ケヴィン、こっちは終わったぞ!」
無駄なく切りそろえられた芝生が顔を出すその庭は、明らかにレオン一人で雑草刈をするには広過ぎる。
彼の身体能力から考えても、斬り終えるまでは出来たとしてもこの様に一か所に纏め上げるには時間が掛かる事だろう。
「どうやってこの山を作ったんだ?」
自分達の身長よりも高々と積み上げられた雑草の山を見上げながらレオンに問うケヴィン。
「企業秘密だ!!」
満面の笑みでそう言われてもな、と思いながら深くは聞くまいとケヴィンは思う。
それよりも予想以上の出来栄えに対しての満足度の方がケヴィンを満たしていたのだった。
続いてデュランが玄関から出てきた。
いつもの無表情でこちらへ視線を向けた彼は、ゆっくりと近づいて来る。
「どうしたんだデュラン? そんな『暗い顔』して」
レオンの発言に、ケヴィンは首を傾げる。
自分から見れば、デュランの表情は一切崩れていない。
にも関わらず、レオンは彼の顔が『暗い』と言った。
「……少し問題があってな。ケヴィン……あまり良くない話と、かなり良くない話のどちらから聞きたい」
こいつは驚いたとケヴィンは思う。
デュランは本当に暗い表情をしていた様で、何かしら問題点を見つけてきた様だ。
自分には気づけない程の変化にレオンは気づける程、二人の関係は深い物なのだなと感じた。
と同時にその関係性に少しだけ羨ましさを感じた自分に、若干の戸惑いを覚えるのであった。
「あまり良くない話から聞いておこうか」
「……支柱や壁は何も問題無いだろう、だが扉の金具や窓等は全部変えた方が良い。長い間使われていなかった為にかなり錆びついているからな……」
「それは予想の範囲だ、んじゃぁもっと悪い方はなんだよ?」
「……地下が『浸水』している」
「は?」
そう言えば、とケヴィンは思い出す。
槍聖宅で過ごしていた数年、幾度となく使わせてもらったトレーニングルームが槍聖宅にはあった。
数年ぶりの上表の掃除ばかり気にかけていた為に、地下の存在をすっかり忘れていたのだ。
デュランの報告を耳にし、一同は地下室へ続く階段裏へと足を運ぶ。
扉を開けると下り階段が顔を見せ、三段ほど下った辺りから確かに水面がゆらゆらと揺れていた。
「どうなってんだこりゃ?」
「これまた凄い事に成ってるねぇ」
「……どこから浸水したのかは分からないが、水を掻きださなければ成らないのは間違いないな……」
デュランの言う通り、このまま放置する訳には行かないだろう。
地下室を利用しないでも確かに生活は出来るが、ケヴィンの記憶上地下室はかなりの広さであった為、そのスペースを使わないと言う手はまず無い。
何より衛生上良くないのも事実である。
レオンとデュランの様な関係性を、本当の幼馴染って言うんですよ!




