ケヴィンのお引越し
Aランクになった所で、ケヴィンのやる事は変わらないんですよ。
「と、言う事じゃ」
「いやいきなり訳わかんねぇ事呟いてんじゃねぇぞジジィ」
ケヴィンは翌日、昨日まるで何も無かったかの様に学園へと登校した。
しかし突然と学園長室へ呼び出され、ノックもせずにその部屋へと入室した途端、アルベルトから掛けられた声がそれだった。
「まぁまぁそこへ座るが良いじゃろう」
軽く舌打ちをしながらも、学園長室の中央に設けられた高価そうなソファーへと腰を掛けるケヴィン。
膝の高さ程の、これまた高そうな机が正面に設置されているが、そこには二枚の黒いカードと同じく黒いローブが置かれていた。
ケヴィンはそちらへ視線を向けると、自分が呼び出された意味を何となく察知する。
「まずはAランク昇格おめでとうと言っておこうかのケヴィン。いや……蒼氷の朱雀よ」
「……あんたはギルドの事は何でも知ってやがるんだな」
誤魔化し等無駄だろうと瞬時に悟ったケヴィンは、それを認めると共に嫌味を口にする。
「信頼されておるんでな……そこに有る物はお主のもんじゃ。Aランカーとして行動する際には、その格好で受ける事が義務付けられるから注意しておくんじゃの」
やはりか、とケヴィンは目の前に用意されたローブを手に取る。
いつの間に身体測定されたのだろうかと思う程に、その黒いローブは外見を見ても自分の背丈とマッチしている。
今まで着ていた紺色のローブとほぼ同じ丈をしているから間違い無い。
意外と悪くねぇな、等と思いながらケヴィンはそのローブを大袋へとしまい込む
そして残った二枚の黒いカードを手に取り……そして首を傾げる。
「……何で『B』ランクのカードまで存在してるんだ?」
「簡単な事じゃ、それは『擬装用』のギルドカードじゃよ。つまりそれが有れば――」
「成る程」
アルベルトの言葉を最後まで聞く前に、ケヴィンは納得の返事をした。
つまり二つ名を持つギルドメンバーが、普段の私生活でギルドメンバーと証明する為に持ち出すのが、こちらのBランカー用のカードである。
それを裏付ける様に、Aランクのカードには彼の二つ名『蒼氷の朱雀』の名が刻まれているのに対し、Bランクカードにはケヴィン本人の名が刻まれていた。
「……お主の正体を知る者は、このアトランティス王国の王であるフェルナンド・K・アトランティスの他、月下無限天本部のギルドマスターに、お主の担当ギルド員メイファ・インベル、そしてワシの四人と言う事になっている。表向きは……じゃがの」
ケヴィンに説明を遮られたせいか、若干拗ねた様に言葉を発したアルベルト。
昨日、ケヴィンは帰りにギルド支部へ寄らなかった為、あの後メイファに会う事は無かった。
自分の担当ギルドメンバーが、まさか自分の憧れである蒼氷であったと知った彼女は、一体どう言った行動を取るのだろうか。
そう考えると少しこっ恥ずかしくなった為、ケヴィンは日を改めてメイファの元へ行こうと思っての行動だった。
アルベルトの言った『表向き』と言う言葉の裏には、剣聖やギルド支部DOLLSのマスター等直接的に関わった存在の事を指しているのだろう。
メイファはあくまでギルド員としては新人で有る為に、立ち振る舞いを教えるのは上司である支部マスターの役目。
有る程度経験を積ませてから二つ名ギルドメンバーの担当と言う形に成れば、支部のマスターが口を出す必要は無かったが、ケヴィンのあまりにも早すぎる昇格が、少々彼の手助けが無ければ厳しい状況を作ったのもまた事実であった。
相手はギルド員で有る為に、そう簡単に情報が漏洩する事も無いだろうとケヴィンはそれを受け入れる事にした。
「知っての通り、デュランもこの学園ではCランクとして生活している。お主は破格のBランク所持者に成るのじゃが……まぁ先日の模擬戦の結果を見れば誰もが納得するじゃろう」
ケヴィンが蒼氷の朱雀である事を知っているアルベルトが、デュランの存在を知らない筈が無い。
剣聖としてのデュランが、先日に白牙の老神と親しい中である事を示唆させた事から、ある程度の情報が伝わっていると思える。
互いに正体を知った事も、アルベルトには伝わっているのだろう。
この年齢にしてBランクを所持する事は、一般人のレベルからすれば驚異的な記録である。
事実英雄を除けば、ケヴィンの年齢でBランクを所持するギルドメンバーはエドワードしか存在していない。
これはアトランティスだけに限らず、世界中のギルドメンバーを対象にした話だ。
英雄の存在の影響で、その事について騒ぎ立てる者は少ないが、確かな影響力を持つのは間違いないだろう。
「レオンと……エマの奴も同じようにギルドカードを二枚持ってるのか?」
「さての? どうじゃろう」
「タヌキジジィめ」
元々答えを期待してなかった質問を投げつけると、ギルドカードを二枚とも大袋へと入れ込み、用は済んだと席を立とうとする。
「さて、ケヴィンよ。ここからが本題じゃ」
「あ? まだギルドからの報せが有るのかよ?」
「ギルドの話はもう良い。お主が正体を明かそうが、ケヴィンとして生きようが他に迷惑は掛けなければばワシは構わんと思っておる」
Kとして生きる手段はもうケヴィンには残されていない。
蒼氷の朱雀の名を手に入れた時点で、Kと言う人物は事実上消滅したのだから。
「今回ワシの元にお主の品がギルドから届いたのは、何よりお主に『住居』が無い事が大きく起因している。よもやデスマウンテンの深部がお主の住居だと言っても、あの山の現状を知らぬ者からすれば決して荷物を届け様とはせんじゃろう」
確かにな、とケヴィンは頷いてみせる。
「本来ならば担当員であるメイファがお主の元へ届ける予定じゃったのだが、何やら彼女は昨日から長期の依頼を受け、それを遂行中らしいのでな。代わりに保護者替わりのワシの元へとそれらが届けられたのじゃよ」
何だ、昨日あの後立ち寄ってもメイファは居なかったのか、とケヴィンは気にしていた自分に少しやるせない気分を感じる。
「しかし一々こうやって呼び出されるのもお主からしたら少し面倒じゃろう。それに二つ名持ちにもなった事じゃ、学生寮では無くしっかりとした住居を持てば、こう言った荷物もメイファやギルドが段取りをつけて送ってくれる様に成るじゃろうて」
「つまり何が言いてぇ」
「家を持てケヴィン。と言うよりも、もう用意はしておる」
突拍子も無い発言に、ケヴィンは思いっきり眉間に皺を寄せるのであった。
――――……。
と、言う事じゃ。
で話が全部伝わったら楽ですけども、現実では絶対にそんな事起こり得ないですね。




