上級を超える存在
お二人にはもう少しだけ戦っていただきます。
「もう一度言う……蒼氷の朱雀……氷帝の位置へ就いてくれ」
「簡単には決められんな」
「……蒼氷としての実績を考えれば、Xランカー昇格試験を受ける資格の一つである『Sランク』保持者と言う条件は突破出来るだろう。既存Xランカーの推薦と言う条件も、俺を筆頭に刀聖派全員の推薦を受ける事が出来る筈だ……」
「大盤振る舞いだな」
「……それ程までに……切羽詰っていると言う事だ」
「……」
権力にも位にも興味の無いケヴィンにとって、Xランカーの地位と言うの物は別段魅力的でも何でも無い。
そこに就く事によって課せられるで有ろう束縛も考えれば、彼からすればマイナスな条件が多い様にも取れる。
今すぐに判断出来る事でも無い。
「少しだけ――」
時間をくれ。
そう言おうとした時であった。
「……何!?」
剣聖も異変に気付く。
地面が激しく揺れているのだ。
ただの地震では無い、何かが地面から這い上がってくる様な振動。
それを証明する様にケヴィン達の足元がひび割れる。
「ギェェェェアアアアアアアッッ!!」
叫び声にも取れる様な大きな雄叫び。
深い森が地割れにより崩壊し、そこから這い出てきた巨大な魔物による咆哮は、ケヴィンの耳を刺激する。
「……なんだこいつは?」
白い龍。
真っ白と言うには少しばかりくすんだ色に見える鱗を持つそれは、ケヴィンの知る白龍である『シャイニングドラゴン』とは異なった姿を見せる。
別名、光龍と言われるシャイニングドラゴンのそれよりも、明らかに大きな体躯を持ち、爪、牙、鱗等その全てが異常発達している様に鋭く尖る。
凡その体長は30メートル。
巨大な翼を広げれば、直径60から70メートルに達するだろう巨大生物。
明らかに光龍とは別格の生物である。
そしてその龍は……恐らく世界に生息しているであろう魔物を全て見てきた筈のケヴィンでさえ、未だかつて見た事が無かった……。
「……『キングドラゴン』……か?」
その姿を確認した剣聖が呟いた一言。
「知っているのか?」
自分の知らない生物を剣聖が知っていた事に驚いたが、今は彼から情報を得る為に耳を傾ける。
「いや……俺も『こっち』で初めてこの生物を見るが……俺達の居た『異世界』で見た古い文献に、こんな生物が載っていたのを見た事が有る……その文献ではこの生物はキングドラゴン……そう名付けられていた」
所謂『異世界転生組』や『異世界召喚組』と呼ばれる英雄達は、その殆どがオールガイアとは別の異世界にある星、『地球』と言う世界から来たとされる。
それぞれの英雄達が同じ地球から来たとしても時代背景が別々である事が多い事によって、文明の差等の認識の違いは有れど、歴史に置いては大抵同じ認識を持っている。
地球から来た英雄は、この世界で見た魔物を存在その物を見た事は無いが、地球に存在する古い文献で見た事が有ると口々に語るのだ。
その事実が様々な憶測を呼び、地球と呼ばれる異世界の過去がこのオールガイアなのか、オールガイアと地球に一体どんな繋がりがあるのかと長い間考察されている。
昔、異世界から『天才科学者』と呼ばれる存在が転移してきた際に、オールガイアと地球を結びつける証拠を科学的に追及したのだが、結局その答えは見つからず終いだったと言う。
地球から来た異世界人で有る剣聖が語るキングドラゴン。
それが正式名称か否かは、現時点では重要な事では無い。
問題は、ケヴィンが今まで見てきた魔物と比べ物にならない程の魔力量を保持している事。
その事実をケヴィンはその肌で感じ取っていた。
そしてそれと同時に、一つの疑問が浮かぶ。
こいつは『何処から』現れた?
と。
その気配は突然現れた。
ケヴィンは常日頃から探知魔法を展開している。
少しでも魔力を所持する者が範囲内に現れれば、例え小さな虫でも見逃す筈が無い。
それにすぐ隣には剣聖が居る。
ケヴィンが知っている英雄の中でも、頭一つや二つ抜けた実力を保持している彼も気付いていなかったのだ。
この二つの探知から逃れる術等、有る筈が無いとケヴィンは自負している。
何も無い空間に、突然無理やりねじ込まれた様に現れたこのキングドラゴン。
しかしそれをゆっくり吟味している暇は無い。
「……気を付けろ……こいつは今までとは格が違うぞ……」
同じ事を感じ取ったであろう剣聖の言葉を耳にし、ケヴィンはキングドラゴンの出方を見る。
はっきりとした殺気を此方に向けているそれに、戦うしか無いだろう状況である事を確認する。
途端に大きな尾を振り回し出し、二人へと攻撃を仕掛けてくるキングドラゴン。
時計回りに振り回されたそれは、キングドラゴン側に近かった剣聖へと襲い掛かろうとする。
剣聖はそれを防ごうとする様に一度大剣を振り上げるが、すぐさまそれを攻撃の構えへと変えた。
ケヴィンの行動に気づいたのだろう。
キングドラゴンの尾は、剣聖に届く事は無かった。
それは遥か手前で、巨大な岩石に侵攻を阻まれていた為である。
元々その位置に岩石は存在していない。
突如それは具現化し、キングドラゴンの攻撃を防いだ。
それこそがケヴィンの魔法によるウォール魔法。
クレイウォールの派生であるロックウォールの行使による物だ。
「剣聖……好きに暴れろ、奴の攻撃は全て防ぐ。正し、飛ばさせるなよ? 『面倒臭い』からな」
「……了解。……任せたぞ」
言うと、剣聖は途轍もない速度でキングドラゴンへと駆け出す。
キングドラゴンへ接近してみせると、その巨大な脚部へ剣戟を振るう剣聖。
しかし、分厚く固い鱗に阻まれ、刃は内部へと届かない。
「……」
剣聖に焦る様子は無い、直ぐにターゲットを変え、全長30メートルに及ぶだろうキングドラゴンの体中へ斬撃を繰り出し始める。
足から脚部へ、脚部から腰回りへ、腹へ胸へ背中へ翼へ。
その剣舞は激しく、素早く、にも関わらず美しかった。
剣聖は今、間違い無く生き物を攻撃している筈である。
だが辺りに鳴り響く轟音は、まるで金属同士が激突する音に等しい。
それが意味する事は、キングドラゴンが通常のドラゴンよりも遥かに強固な鱗を所持していると言う事。
剣聖の剣戟は、ケヴィンからすれば今まで見た誰よりも卓越された技術で有ると認識出来た。
その一撃一撃は、確実に上級モンスターを瞬殺出来る程の威力を持っていると言っても過言では無い。
事実、先に戦っていたフェンリルは、剣聖の剣の前で為す術も無く散って行った。
ケヴィン自身、剣聖の一つ一つの動きは、自分の知る限りの魔物ならどんな魔物でも屠れるで有ろうと思っている。
しかし現実は、人類最高峰で有る筈のその攻撃ですら、キングドラゴンには大した効果が認められないと言う事実。
そもそも最初にキングドラゴンからの攻撃を防ぐ際に、ケヴィンが展開したのはクレイウォールでは無くロックウォールだった。
実はこれは、ケヴィンは最初クレイウォールを展開してキングドラゴンの攻撃を防ごうとしていたのだが、その速さと大きさを目にした後、今クレイウォールに込めている魔力では防ぐ事が出来ない可能性が有る事をケヴィンは瞬時に判断した。
その為、途中で術式を無理やりロックウォールへと変更したのである。
魔力配給を増やすと言う手段もあったが、既に発動段階に入ってしまっていたそれに対しては、属性変化を施す方が幾分か早い為の判断だ。
恐らくどちらの行動を取っても防御は間に合っただろうが、単純にケヴィンが『面倒臭い』と言う理由で早い方を選んだだけだ。
しかし、ケヴィンにそう言った行動を取らせたキングドラゴンは、剣聖の言う通り『格』が違うのは間違いなかった。
体中を這いずり回られる様な感覚を覚えたのか、キングドラゴンは身体を強く振るわせ剣聖を振り払おうとする。
反動でキングドラゴンの身体から剣聖が離れた瞬間、キングドラゴンは巨大な翼を羽ばたかせ空へ飛び立ちはじめる。
その翼が生み出した風圧は、人間など軽すぎて吹き飛ばされてしまうだろう。
しかし剣聖は、ケヴィンが張った風の膜によってその被害を一切受けていない。
ただ腕を組み、傍観している様にも見えるケヴィンだが、キングドラゴンの足が地面から離れた時、剣聖の足元にクレイウォールを展開し、彼に足場を作る。
作り出された足場を利用し、飛び立ち始めたキングドラゴンの頭上まで跳躍する剣聖。
叩き落とす様に渾身の一撃をキングドラゴンの頭上にぶつければ、轟音と共にキングドラゴンの身体が大きく前のめりとなる。
そしてケヴィンは今度は剣聖の頭上へクレイウォールを展開した。
クレイウォールが完全に具現化する前から空中で体勢を反転させていた剣聖は、それを再び足場にし落下速度に脚力を加え、重力に従うままにもう一度キングドラゴンの頭部を強打する。
飛び立った筈のキングドラゴンは、途端に地面へと激突した。
いくら遥かな強度を持つ鱗を持っていたとしても、剣聖の全力斬りを直接頭部に食らえば、激しく脳が揺れる事となるだろう。
ドラゴンがどれ程それに対して耐性を持っているかは知らないが、脳震盪を起こせば一時的に行動不能となるのは全生物共通の事だ。
気持ち的にはキングドラゴンのモデルは某RPGのグレイトドラ(略)




