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月下無限天~最強の在り方~  作者:
蒼氷の朱雀編
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再現の可能性

「サリア様! あぶねぇ!!」


前方の敵にばかり集中していた自分達の背後に、既に建物の影を利用して回り込んでいた魔物が現れる。


中級のモンスター『ガーゴイル』。


鬼と蝙蝠が融合した様な風貌をしたその魔物は、体の殆どが岩で出来ておりまるで石造の様な見た目をしている。


だが確かに意思を持った魔物であり、己の身体の重さから高く飛ぶ事は出来ないが、低空であればある程度の飛行能力を有した素早い魔物だ。


しっかりと対処を行えばCランクギルドメンバーであっても倒せる程度の敵だが、この様に不意打ちを得意とする戦法を取る為にBランクでも敗北する事がある程の魔物だ。


実際にサリアはガーゴイルに背後を取られ、今正に鋭利な爪で切り裂かれようとしていた時だった。


タンクとして役割もっていたグレゴリがいち早くそれに気づいた事で、ギリギリでガーゴイルをタックルで弾き飛ばし退ける事が出来たが、前衛である彼が後衛に来てしまった事で二次被害が発生する。


「ジャック!!」


サリアが視線を前に持っていった時、周囲の家の屋根に潜んでいたガーゴイル達が一斉にジャックに向かって降り注いでいった。


「アクアスパイラル!!」

「ロックブレイク!!」


中級魔法の詠唱を終えていたエルフ達が、ジャックへと襲い掛かるガーゴイルに対して魔法を発動するが、数体の足止めをする事こそ成功するが、三体のガーゴイルの接近を完全に許してしまった。


「うぉおおおおおおおお!!」


一番接近していたガーゴイルに対して槍を突き出したジャック。


見事に頭部を破壊する事に成功したが、直ぐに槍を引きもう一体へと再び刺突する。


片翼にそれは命中したものの、勢いを止める事が出来なかった為にガーゴイルはその槍を両手で掴んで来た。


岩で出来た肉体を持つ事で、生半可な攻撃は意味を成し得ない。


槍使いとしては相当な腕前を持っているジャックだが、力比べとなれば多少分が悪い。


槍の自由を奪われたジャックへと容赦なく残ったガーゴイルが襲い掛かり、衝撃に耐えようとして彼は両腕を顔の前でクロスさせた。


「ジャァァァッック!」


ただ叫ぶ事しか出来なかった。


己にも彼程の実力が有ればこの距離をひとっ飛び出来たかもしれない。


自分なりに全力疾走したつもりだが、それでもこの切っ先はジャックを襲うガーゴイルには届かなかった。


大きく振り上げられたガーゴイルの右腕が、目の前でジャックに降り注いだその時。


まるでスローモーションの世界の中に取り残されたかのように周囲の時間の流れが遅くなり、だがその全てが遅くなった世界でも視界の端から端に途轍もない速度で通過する一本の矢が見えた。


その矢はガーゴイルへ向けて突き進むと、ガーゴイルの頭部が胸部辺りからえぐり取られたかの様に破裂し、右腕は振り下ろされる事無く転がされる様に大地へと落ちて行く。


「ああぁぁぁああああ!!」


何が起きたか理解する前に体は動いていた。


急速に速くなって行く世界で、己の剣がジャックの槍を掴んでいたガーゴイルに向けて振り下ろされた。


兎に角ジャックを救わなければと言う一心での行動が、状況を理解する前に最善の動きを見せたのだ。


そしてガーゴイルを仕留めてからやっと、サリアは矢を放った人物へと視線を向ける。


彼女が向けた視線の先には、弓の紋章を背中に携えた黒ローブの人物が、まるで手元から閃光を放つかの如く無数の矢を前方の魔物達に向けて放出していた。


肉眼では捉えきれない神業の極意を見せつけられた事で、サリアは極端な感想を漏らしてしまった。


自分は『天使』と出会ってしまったと。


いや、天使である事には間違い無いが、実際にはその人物は『女神』と呼ばれている存在だ。


今の自分達に足りていなかった圧倒的破壊力を持ち合わせ、その腕力からは想像できない程に慈愛に満ちた存在。


英雄の中でもトップクラスばかりが集う刀聖一派に在籍し、オールガイアランキングとしても上位に名を馳せる。


英雄の数だけ存在する異能力の中でも、ぶっ壊れとして名の通った『再現』と言う能力を持ち、正義の名の元に只管溢れんばかりの力を、愛情を人々の為に注ぎ続ける存在。


『弓聖・反撃の女神』である。


なぜこれ程までの存在がこの場に居るのか。


蒼氷の朱雀を含めると、今この国には最高峰の存在が同時に二人も滞在している事となる。


彼と弓聖は刀聖一派として親交を深めている筈だから、彼の要望で手助けをしに来たのだろうか。


……下手な希望を持つのは止めよう、助力を願う程にこの国を思っていたのなら、蒼氷の力でさっさと迷宮の魔物を間引く事が出来たのだから、それをしていない上に現在も何の対処もしていない様に見える事から、蒼氷は国民達を見捨てたと結論付けた方が早い。


恐らくジパングの専任英雄である彼女が、隣国の現状を憂いて個人的に救援に駆け付けたと捉えた方が正解に近いだろう。


二つ名に『女神』と付けられる程の聖人なのだからあり得ない話では無い。


何より彼女の実力を余す事無く発揮してスタンピードに対処してくれているのがその証明だ。


「魔法を!」


「え?」


突然言葉を紡いだ彼女に動揺してしまい、おかしな返事をしてしまうサリア。


「今貴方がたが行使出来る自然魔法を目の前の魔物達に放出して下さい!」


言うが早いか、サリアは直ぐに後方で弓聖に見とれていた魔法隊へと指令を出す。


「全力で自然魔法の詠唱を始めなさい! 完了した者から放出して構いません!」


彼女の意図は直ぐに読み取れた。


『再現』を行使する事前提の発言だ。


魔法隊の面々はそれ程まで多くの数が居る訳では無く、ランクもCランクどまりの者達ばかりだ。


上級魔法が使える者こそいるが、英雄達やAランク以上の者達の様に詠唱破棄が出来る者は流石に存在していない。


事実上いくら有効な上級魔法と言えど、連発する事が出来ない為に結果的に言えば中級魔法を二発放つ方が殲滅力が高い場合が多い。


「爆熱大炎……奇跡の炎よ」

「旋風嵐牙……奇跡の嵐よ」


しかし弓聖の、そしてサリアの意図を感じ取ったのか、魔法隊が選択した自然魔法は上級魔法の詠唱であった。


「願わくば煉獄の如き炎にて全ての敵を焼き尽くさん。我が名はクランティエン・ジェモラルド、炎を求める者なり。紅蓮の焔が大地を覆う時、炎神の加護があらん事を。燃え盛れ! クリムゾン・ノヴァ!!」

「願わくば天変の如き嵐にて全ての敵を切り裂かん。我が名はマチルダ・セレニス、嵐を求める者なり。深緑の疾風が大地を駆ける時、風神の加護があらん事を。吹き飛ばせ! テンペストヴォルテクス!!」


一人は巨大な火球を、一人は爆風の嵐をそれぞれ発生させる。


対象を見定め、群がっていた魔物達の中央にそれぞれ激突させると、あっさりと中級の魔物の群れは壊滅する。


だがそれでも魔法の残骸が晴れると、そこには先と全く変わらない、寧ろそれを凌駕する程の魔物が溢れ出している。


この魔法の残骸すら上級者であれば魔力を雲散させる事で一瞬にして辺りを晴らし、前衛の進軍の妨害に成らない様に仕向ける事が出来るだろう。


その技術は残念ながら高等技術の一部であり、一般のエルフがおいそれと出来るものでは無い。


前衛たちはタイミングを見計らい、ジャックですら視界が完全に晴れるまで状況を静観している状態であった。


周りの環境がどうなっているか分からない状態で戦い続けるのは大変危険だ。


そうこうしているうちに魔物はどんどんと群れをなし、エルフが上級魔法で薙ぎ払った意味が無いと思わせる程に溢れ返って行く。


しかしその中で、やはりこの英雄の行動は違った。


完全に相手を見定める事等出来ていない筈なのに、舞い散る煙の奥に潜んでいる魔物へと次々に矢を射続ける弓聖。


練度は完璧な物で、やがて晴れ切った辺りを見回せば、一本の誤射も無く確実に魔物達の急所を矢が貫いているのだ。


それだけでは無い、その行動と共に行使していたであろう再現で、先程マチルダが放ったテンペストヴォルテクスを行使したのだ。


しかも、彼女が扱ったそれとは形状がまるで違い、町中の形状に合わせて吹き荒れる風をコントロールして見せた。


一切の無駄が無く、まるでテンペストヴォルテクスのお手本でも見せられたかの様な使い方に、再現された本人ですら驚愕の表情を見せていた。


これは再現の力によるものなのか……いや、相手は英雄だ。


きっとそれも含めて彼女の強さなのだろう。


ある意味で、自分達の上級自然魔法が二重に発動している様な物だ。


ただでさえ英雄が来ただけでもこの戦いの勝率は大きく上がっている。


その上で連射の効かない自分達の魔法が、放てば放つ程弓聖がそれを連撃してくれるとなれば、魔法隊はより強気に放てる事となる。


それを指し示す様に、後方で待機していた魔法隊は次々と詠唱を終え、上級魔法を放ち続けた。


ライトニングブラスターも、メテオストリームも、ダイダルウェイブも、放出すればするほど弓聖が再現を行う。


おまけにそれぞれの魔法が現状で最も効率的に扱える方法のお手本付きだ。


戦いの最中だと言うのに、その一つ一つの技術を目の当たりにすると感動を覚えてしまう程だ。

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