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月下無限天~最強の在り方~  作者:
蒼氷の朱雀編
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信じがたい作戦

「……口を挟んですみません。スタンピードが発生したのであれば直ぐに行動に出なければ危険なのでは? もし既にそれらが完了しているのであれば申し訳ございませんが……」


「おぉ弓聖殿! 蒼氷との会話を邪魔して申し訳ないでおじゃる! 我が国の事であれば心配するでない、蒼氷殿がこの国に居るのじゃから何の心配も無用じゃぞよ!」


「……大変失礼ですが、蒼氷さんはどう言った対策を取るおつもりで? 本来であれば今すぐにでも前線に向かった方が良いと思うのですが……」


国王を交えての会話の為に、再び堅苦しい口調に戻すフィーネ。


確かにケヴィンが居るのであれば心配等皆無に等しいのだが、何かがひっかかる為にケヴィンへ問うたのだ。


「あぁ、当初の予定では迷宮の魔物達が溢れ出た所を片っ端から討伐するつもりだったな」


「蒼氷殿の発想は天下一品でのぉ! 迷宮の中で間引きをしても時間が掛かる上に素材の回収が面倒。魔導騎士達を派遣しても距離や迷宮の階層を考えればやはり無駄な徒労が掛かる。であればワザと迷宮から溢れさせて『町中』へなだれこませ、それを蒼氷殿が討伐する事で一網打尽が出来る上に素材の回収も遠出をしなくて良いとの事なのじゃ!」


服の裾からはみ出た腹をブルブルと震わせながら、セルネリカ王は嬉しそうに作戦を語る。


何を言っているのか全く理解できない。


いや、言葉としての意味は理解しているがその内容は決して認められる物じゃないと言う事だ。


「……先に聞きますが、国民の避難は済んでいる認識で良いんですよね?」


「避難? 国民に被害が出ようがどうでも良いでおじゃろ。朕の国は少しばかり貧乏でおじゃるから、これを機に食い扶持を減らす事にもスタンピードを利用するのじゃ!」


「何をふざけているのですか! 貴方は国王ですよね!? 国王の役目を果たさずして誰が王座に立つ事が出来るもんですか!! 恥を知りなさい!!」


声を荒げるフィーネの怒りの矛先は王だけで無くケヴィンにも向かう。


「これが本当に貴方の作戦ですか!? これが本当に正しい形なのですか!? 全て本気でやっているのですか!? 貴方は……貴方本当に蒼氷の朱雀なんですか!?」


もはや存在すら疑いたくなる暴挙。


これまで決して多くない日々ではあるが、ケヴィンとの関わりは少なくも無い筈だ。


その短い間でも、ケヴィンは絶対にこの様な事をする人物では無いと思っていた。


判断を間違えたのか、自分は相手の外側しか見ていなかったのか。


……いや、そんな事ある筈は無い。


確かにケヴィンは己の思うがままに行動を起こす事はある。


ある意味で自分の中で損得勘定を行い続けて行動をしている様な物だ。


そしてその中で彼が得だと思った時に行動を起こすのだが、決まってそれは大体が正義に匹敵する行動だった。


今回の様に正しく外道の様な判断をする事等まず考えられなかった。


「あぁ、まぁ大体は想定通りに事は運んでるな。タイミングも役者もバッチリだって所だ」


「何を意味の分からない事を言っているんですか! 貴方の作戦ならば貴方が責任を取るべきでしょう! 今すぐに対処をして下さい!!」


「慌てんなって、そう簡単に終わる事じゃねぇよ」


「……もう水面下で動いているって言う事でしょうか?」


100歩譲ってこれが本当にケヴィンの作戦通りだったとする。


そうであったとしても、何故スタンピードが起きてしまった現状でもケヴィンは異様な程に冷静さを保っているのか。


実はもう既に手を打っていて、今この場で馬鹿みたいに慌てている自分を見て心の中で笑っているのかと思う程だ。


「何もしておらぬぞよ? 元々迷宮内にも箝口令を敷いて誰も入れん様にしておるから、出て来た魔物は全て朕のものぞよ! 最初はオールガイア中に依頼を掛けて精鋭達に集まってもらう考えもあったのじゃがの? 蒼氷殿が一人居れば全ての事が済むと言う事に気づいてからは対策なんて無意味だと判断したぞい」


「でしたら今はこの国の騎士だけがスタンピードに対処している状況だとでも!?」


「騎士すら派遣しておらぬぞい? 金の無駄でおじゃろ。国民と違って奴らは使える者達じゃからの。国の為に生涯尽くしてもらわねば成らぬから無駄に命を散らすわけにはいかんぞい」


「何を……一体何を言っているんですか? 貴方達は本当に事の重要性が……分かっているのですか?」


本当に人相手に喋っているのか分からない程に話が通じない。


会話が成立しているのに相手の言っている意味が分からないと言う状況は、フィーネにとっては初めての経験であった。


「さて、と言ったもののそろそろ対処を始めねば足の速い魔物であればこの城に辿り着くのも時間の問題でおじゃろ。蒼氷殿、頼んでも宜しいでおじゃるか?」


フィーネは蒼氷へ視線を向ける。


頭が真っ白になり言葉が全く出てこないが、今は一秒でも早くケヴィンに現場に向かってもらい、魔物達を一層してもらえる様願うばかりだ。


既にフィーネの魔力探知にも、沢山の魔物の気配が感知され始めたころであった。


「あー、なんて言うかな」


何故かケヴィンは素っ頓狂な声をあげた。


とぼけている様な、誤魔化してるような。


兎に角一度も見た事の無いケヴィンの態度であるのは確かだ。


「もう面倒臭くなっちまった、今日はもう帰るわ」


「ぬぅ? 何を言っておるのじゃ? スタンピードは始まったばかりでおじゃるぞ?」


「だからそれが面倒くせぇんだって、テメェでどうにかしろよ」


「な……なな! 何を冗談を言っておるのじゃ蒼氷殿!! そちが居るからこそ朕は安心して全てを任せておったのじゃぞ!? すっとぼけるのは辞めて早く対処してたもれ!!」


ケヴィンは近くのソファーに腰を深く落とす。


「面倒だって言ってんだろ、俺はもう今日は働く気にはなんねぇんだ」


「蒼氷殿!! 悪ふざけが過ぎるぞ!! 事態が分かっておるのかぞえ!? この国のピンチでおじゃるぞ! 朕を守る為に命を賭けるのが専任英雄じゃろうに!!」


「……俺は何回も言ったよなぁ? 俺は英雄じゃねぇから、テメェからの命令にも従う義務なんてねぇんだわ」


「そ……そんな事があるかぁ! 頼むぞえ! このままでは! このままでは!」


例えるなら、一つの物語をテレビのモニター越しに見ている様な感覚だった。


本当はそこに自分も居るのに、実際にはそこにはおらず。


今目の前で起こっている出来事はまるで自分には関係の無い事で、本来であれば展開を興奮しながら見守っている観客の様に二人のやり取りをフィーネは見ていた。


先程までただの白饅頭だったセルネリカ王が、白粉が剥がれ落ちる程汗まみれとなり、やがて青褪めていくととんでもない発言をしているケヴィンへとしがみついている。


「蒼氷殿は朕がどうなってもいいでおじゃるか!? これまで沢山朕の為に働いてくれたでは無いか! 朕の事を好いておるのじゃろ!? そうじゃろ!?」


「おめでてぇ野郎だ。こんな状況になっても考えるのは自分の事ばかりか。少しでも贖罪の態度を取るんだったら考えてやらねぇ事も無かったが……もうテメェは終わりだな」


「終わる? 何を言っておるのじゃ? 終わる……? 朕が? ここで?」


自暴自棄になり始めたセルネリカ王は、ついには現実逃避気味に錯乱し始める。


その動揺っぷりを目にした為か、フィーネはやっと自分もこの場に居合わせている状態である事を思い出す。


「蒼氷さん、本当にもう何もする気は無いのですか?」


「見ての通りだ、この国は今を切り抜けた所で未来なんてねぇ。滅んでしまった方が楽だろ」


「何の罪も無い人達が沢山犠牲になっても構わないと言うんですか?」


「自分達の運の悪さを呪うんだな。寧ろこれから苦しんで生きて行くよりも、ここで楽に死ねるんだったら逆に運がいいんじゃねぇのか?」


「その言葉全て、貴方の本心から言っているのですか?」


「だったらどうするよ」


「見損ないました。貴方には今すぐに人々を助けられる力が有るのにそれを成そうとしない。自分の意思で巻き起こしたスタンピードの責任も取らずに放置する。人の所業では有りません」


「そりゃ光栄なこった。で? あんたは何してんだ?」


まだ話は終わっていないにも関わらず、ケヴィンは此方の状況を問いただしてきた。


「私がどうかしたのでしょうか? 私は貴方の説得の為にこの場に訪れましたが、たった今それが失敗した事を悟った所です」


「いやそうじゃねぇだろ。人に散々戦えだ救えだ言ってた割には、それを言っているあんた自身は全く『何もしないだな』って言ってんだよ」


とんだ責任転換である。


明らかに自分の落ち度である事をこの場に居合わせただけの自分に投げかけて来るなど言語道断である。


……いや、もしかして彼は……。


「最初からそのつもりだったんですか……?」


「言ったろ、タイミングも『役者』もバッチリだってな」


つまりケヴィンは、これだけの事を仕出かしておいて全ての後始末を此方に押し付けようとしているのだ。


「貴方って人は……」


「何ボソボソ言ってんだ? ほら、早くしろよ。あんたがここでうだうだ言っている間にどんどん被害者は増えていくぞ? 俺に見せて見ろよ、あんたが描く『英雄像』って奴をよ。さぞかし立派なんだろ? それが英雄に与えられた『使命』なんだろ?」


「貴方は……貴方は……最低ですッ!!」


啖呵を切ったフィーネは踵を返す。


脚力に力を込めると、その場から飛び立つ様に場外へ向けて走り出した。


もはや当てに等はしていなかった。


結局最後の最後までケヴィンなら何とかしてくれると思っていた自分が、あの場に自分を足止めにしていたのだ。


迂闊であった。


自分はスタンピードが発生した知らせを受けた途端に、本来なら前線へと向かう事が最善だったのだ。


言い訳等している暇は無い、今は一秒でも早く……一人でも多く人々を救わなければ。


去り際にケヴィンが放った一言を。


「後は任せたぞ」


と言う謎の言葉の意味を理解する前に、彼女の矢は目の前に迫っている魔物達へと放たれていった。

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