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月下無限天~最強の在り方~  作者:
蒼氷の朱雀編
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慢心する海龍

ケヴィン達は再び視線を海龍へと向ける。


海龍はゆったりと大海原を遊泳している。


しかしその巨大な白龍は一定の間隔を行ったり来たりし、まるで目的が無いかの様に自分の棲み処周辺を監視している様にも見えた。


明らかに此方を警戒しての行動だろう。


海龍からすれば、恐らく海では負けなしの絶対王者の筈だ。


その最強たりえん存在である海龍に、わざわざ接近する人類の存在に『興味を持っている』と言った表現が正しいだろうか。


自分が負ける事等微塵も考えてないが為の遊泳なのだろう。


だがそれでも此方から何か仕掛ければすぐにでも反撃の手段を行使する状況だと言うのは、海龍の気配から感じられた。


「さて、あいつはどう対処するか」


「……リヴァイアサン……ですね。出来る事であれば遺体を持ち帰る事がギルド側からは希望されています。勿論最優先事項は討伐なので、不可能であれば最大火力で一気に葬る事も止む無しとは聞いていますね」


以前キングドラゴンが最初に現れた時、最後に自爆魔法を使われた事でキングドラゴンの魔石しか残らなかった。


正体不明の魔物に対する情報は、人類の存亡に関して少しでも多い方が良い。


かつて目にした事の無い大きさの魔石を目にした事でその存在の異常性こそは理解出来たが、それを持つ生物がどの様な肉体構造をしているのか。


皮膚の固さは、鱗の厚さは、牙の鋭さ、翼の大きさ等の詳細な情報ははっきり言って不明の状態に近かった。


記憶力の優れたデュランの証言によってある程度の身体的特徴は記録として残ったが、実際にキングドラゴンに対して研究が大きく進む事となった要因は、ロレンシアで起きたスタンピードの際に、シアンが絶対切断にて一瞬にしてキングドラゴンを絶滅させた事で綺麗に残った遺体である。


未知の生物を研究する為には出来る限り情報が得られる様に、対象の肉体を綺麗に残す事が理想だ。


その為のギルド側からの要望だったのだが、危険度が高ければ高い程高火力で一瞬にして葬り去る事も視野に入れなければならない。


戦っている最中に実力が拮抗してしまった場合、最初のキングドラゴンの様に自爆魔法を唱えられかねない。


別段あの時はデュランの実力がキングドラゴンに劣っていた訳では無く、ケヴィンでさえ様子見でキングドラゴンの実力を図ろうとギリギリの戦いを演出した事によって起きた被害だった。


偶然にも辺り一帯は元々の討伐対象だったフェンリルの影響で他の魔物は殆ど存在していなかったが、こと海龍が存在する海で同じ事を起こされよう物ならどういった影響が海域に起こるかは不明である。


だからこそなるべく早々に討伐してしまう事も、遺体の確保と同じくらいには必須事項となっているのだ。


「相手の実力も分からない状態で判断する訳には行かねぇが、そう言う事ならさっくりと終わらせるか?」


「蒼氷さんなら出来ると思いますけど……」


弓聖の中での自分の評価が一体どの位置にあるのかを知りたくもあるが、ケヴィンは少しだけ思考を行った後彼女へ返答する。


「いや、わりぃが今回はあんたが主体で討伐をやらせてくれ。ちょっとこっちにも事情が有ってな、出来る事なら今回の討伐の功績があんたに寄ってた方が都合が良い」


「……良く分かりませんが……でしたら私は全力でやらせてもらいますね」


正直に言えば、今この場から一歩も動かずとも海龍を討伐する事は可能だ。


慢心では無く事実として負ける要素が見当たらない。


つまり弓聖の言う通り、ケヴィンであれば一瞬で終わらす事も出来る状況にある。


しかしセルネリカ王が今回の討伐依頼に対して、やけに手柄を立てる様に口を出していた事が気になる。


セルネリカ側の手柄にする事で何らかの企みがあるようにしか思えない。


であればセルネリカ王の思い通りにはさせるつもりの無いケヴィンは、海龍討伐の功績を弓聖に譲る事でジパング側に貢献する事を目指したのだ。


そして希望通り、弓聖は自らの力で海龍を討伐する事を了承した。


元々彼女の性格上、討伐さえ為せれば手段はどうだっていいのだろう。


自分の様に専属国に絶対的な安全を提供するつもり等無い存在とは真逆に位置する彼女。


そう言った考えを持てる事自体は素直に尊敬する部分だとケヴィンは思う


弓聖は強く弓の弦を引き絞る。


その細身の体の何処にそれ程の腕力が備わっているのか。


弓聖の姿を見た者が漏らす感想で、多く上がる言葉がそれだ。


確かに世間一般から見れば彼女は華奢な存在に見えるかも知れない。


だが彼女と直接拳を交えたケヴィンは理解している。


彼女の肉体が、完璧に作り上げられた戦士の肉体である事を知っている。


刀聖一派として彼女と親しいエマでさえ、弓聖の事をデュランの様に頑丈に出来ていないと揶揄した。


しかしケヴィンは思う。


それは単純に彼女が女性であるからそう見えるだけであって、実際の実力に関しては大差が無い筈だと。


重火器が失われたこの世界で、それでも唯一人間が遠距離攻撃を行う為の手段である弓と言う武器。


弓聖が放つそれを見れば、決して古代兵器である重火器が『失われた技術』等と言った発言は出てこない。


何故ならば彼女の射る矢の威力は、重火器『如き』では到達しえない威力を秘めている。


重火器は失われたのでは無い、必要が無くなっただけである事を思い知らされるであろう。


弓聖が矢を放出した。


風の抵抗などまるで存在しないかの如く途轍もない速さで進軍する矢は、海面へ接触し水中へ潜り込んでも尚威力の減衰は起こらない。


放った瞬間から海龍へ突き刺さるまで、書いて字のごとく一瞬の間の出来事である。


恐らく非常に硬い鱗を海龍は持っている事だろう。


パッと見の判断となるが、あのキングドラゴンと同程度には高い硬度を誇っている筈だ。


しかし鱗と言う物には必ず切れ目が存在する。


表面からの衝撃には滅法強いだろうが、僅かな隙間を狙われた場合には意外と脆く体への侵入を許してしまう物だ。


海龍と自分達の間には、結構な距離が存在した。


刺々しく備わっている鱗も体全体を覆う様に夥しく存在し、まるで隙間なんてあってない様な物に見えるだろう。


そして優雅に泳いでいると言えど、その遊泳速度は限りなく早い。


そんな状況であっても、弓聖は海龍の鱗の隙間を見事に射止めた。


その証拠に、怒り狂ったかの如く反応を見せた海龍が一瞬にして海深くへ潜ったかと思えば、己自身が矢とでも言わんがばかりに水中からケヴィン達に向け突撃してきたのだ。


腕を組んだまま様子を見ていたケヴィンは一歩前へ進んだ。


ケヴィンが何をしようとしているかを理解したのか、弓聖は体を両膝を曲げて腰を深く落とした。


恐らく海龍は容赦無く自慢の速度で体ごとケヴィン達へ激突し、打ちかましを行おうとしていたのだろう。


水中では自由に泳ぎ回れたかもしれないが、空中ではそれは叶わない。


進路方向の変更が不可能である為真っ直ぐとケヴィンへ向かってくる海龍は、まさか己が逆に攻撃を受ける為に突き進んでいる状況になっているとは思いもしない事だろう。


鋭く突き出た口先の棘がケヴィンの腹部へと目掛ける。


全長30mも下らない程度の体躯を持っているリヴァイアサンだからこそ、その先端の棘だけでさえ軽くケヴィンの身長を超える。


それが突き刺さればただでは済まないだろう。


突き刺さりさえすればの話ではあるが。


このまま突撃を受けてリヴァイアサンの口先の棘を砕いてやろうかとも思ったが、折角弓聖が此方の行動を先読みをして待機しているので、そのまま流れに身を任せる様に、体を横にしてひらりとリヴァイアサンの突撃を避けた。


それと同時に弓聖が上空へと高く『跳ね飛んだ』事を確認したケヴィンは、元より予定していた行動を起こし、リヴァイアサンの顎辺りを強く蹴り上げて見せた。


衝撃音が鳴り響くと共に、直進していたリヴァイアサンは頭部を中心に真上へと弾き飛ばされる。


そしてその先には既に弦を引き絞っていた弓聖が存在していた。


そこへリヴァイアサンが向かってくると分かっていたであろう行動。


己が扱っている得物の影響だろうか、弓聖は中々に広い視野を持っている様だ。


弓聖は躊躇なく矢を放つ。


リヴァイアサンの目に目掛け射ったそれは、またもや真っ直ぐに目的へと向かっていく。


本来であれば間違い無くリヴァイアサンは片目が失われる結果となる筈だっただろう。


しかし、フィーネの放った矢はリヴァイアサンが瞼を閉じる事によって弾かれる事となった。


人の構造と比べたら考えられない部分まで固くなっている事にケヴィンは感心したが、戦いはまだ始まったばかりだ。

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