ギルド登録、そしてKの誕生
ギルドメンバーに登録する時に起こるあるあるの、やんちゃな先輩に絡まれると言うノリは……しません!!
「いらっしゃいませ~」
その日の学園行事は午前中で終了する。
集団行動は入学式とクラスメイトの顔合わせのみで終わり、その後は学園の各施設の見学に時間を与えられる。
そしてそれらが午前中で終わると、その日の午後は全て放課後の時間となる。
そこからは要するに全生徒の自由時間だ。
ケヴィンが訪れたのはアトランティスのとある地方にある『ギルド支部』。
魔導騎士育成学園の生徒は生徒になった瞬間、月下無限天のギルドメンバーとなる資格が与えられる。
何の後ろ盾も無い一般人とは違い、試験も無ければ保証人を立てる必要も無い。
学園の生徒と言う事実は保証になり、試験を受けずとも魔導騎士学園への入学がある程度の実力を担保する事になるからだ。
その為、入学時点でギルドメンバーになっていない者は挙って全国のギルド支部へ顔を見せる事になるだろう。
ある意味で恒例行事にもなっている様で、もしかしたらそれも踏まえて学園は午前終了になっているのかもしれない。
ケヴィンは国籍を持たない為に、ギルド登録を行う事が出来なかった。
しかしアトランティス学園の生徒と言う後ろ盾を得た為に、改めてギルド員として登録する事が出来る様になった。
今までギルド登録をしていなかったのは登録が出来なかった事が重たる理由だが、ケヴィンとしてはギルドメンバーになる必要性を感じていなかった事が一番大きい。
「メンバー登録を頼みたい」
しかしなんの気まぐれか学園の生徒になっただけでは無く、ギルドメンバー登録まで行おうとケヴィンはギルド支部へ足を運んでいた。
ケヴィンの言葉に反応し、口髭を生やした初老の男性が優しい笑みを浮かべながら頷き、隣にいる若い女性へ目配せをする。
「はい! ギルド支部『DOLLS』へようこそ!! ギルドメンバーとしての登録ですね?」
ギルド支部DOLLS。
ギルド支部はそれぞれの配属された支部マスターの趣向による店構えを展開している為、昔ながらの中世感溢れる酒場の様な店構えをする所もあれば、大衆居酒屋の様な作りをしている支部もある。
ケヴィンがミリアルドと決闘を行ったギルド支部は前者の様な昔ながらの作りをしていたが、このDOLLSは後者ですら無くまた一味違った店構えをしていた。
まるで喫茶店の様な、それでいてカウンター周辺はお洒落なバーの様な。
店全体的に静かな雰囲気を醸し出している為、とても落ち着いて店員とのやり取りが出来る『穴場スポット』として、アルベルトがお勧めしていた。
ケヴィンはそこを訪れた際に、偶には良い仕事をするじゃねぇかと、まだ出会って間もないアルベルトを心の中で褒めながら、ギルド職員とやり取りを進める。
「あぁ、こいつを渡せと言われたんだが」
そう言って、ケヴィンは大袋から一つの手紙を職員へと差し出す。
アルベルトからギルド登録の際に渡せと言われていた物だ。
真ん丸な目をパチクリさせながら、女性職員はその手紙を開く。
「こ……これは!!」
その瞬間に彼女の表情は驚きに変わる。
アルベルトめ、何を仕込みやがった……と内心舌打ちしながらも、ケヴィンは成り行きを見守った。
「取り乱して失礼しました、すぐに登録致しますの少々お待ちください!!」
茶色いポニーテールが、彼女の激しい動きに釣られ上下する。
小ぶりな鼻と、薄い唇は彼女の童顔を際立たせるが、それでもってとても可愛らしい愛嬌のある顔つきをした女性職員。
左胸に取り付けられた名札には『メイファ』と言う名前が刻まれていた。
慌ただしく支部マスターであろう初老の男性へと指示を仰ぎ、必要書類に何やら焦りながら文字を書き殴っている姿に少し笑みを零しながら、ケヴィンは掲示板に張られている様々な依頼表に目を通していた。
「お待たせしました!!」
息切れでもしているかの様な必死な形相で、ケヴィンの元へ一つの黒いカードを運んで来たメイファ。
「それでは『K』様、これよりギルドメンバーとしての心得をお伝えしたいのですが、宜しいですか?」
「ん? あ……あぁ、そうだな。頼む」
ただアルベルトが用意した手紙を渡しただけで、ギルドメンバー登録が済んでしまった為、何となく拍子抜けしてしまったケヴィンは若干戸惑を見せてしまった。
「紹介が遅れました、私、メイファ・インベルと申します。本日よりK様の担当職員をさせていただきます」
聞けば、ギルド本部に雇われている職員は、それぞれ自分の担当ギルドメンバーを持つこととなっている。
基本的には、ギルド登録を自らが行ったギルドメンバーが自分の担当メンバーになるが、そうなるとタイミングによりどうしても偏りが発生してしまう。
そう言った場合に限り、担当ギルド職員は別の人に宛がわれる事となる。
メイファは今年度からこのギルド支部で働き始めたばかりの新人。
滅多にギルドメンバーが訪れる事の無い支部である為、彼女は今回初めて自らの手でギルドメンバーを登録した様だ。
となれば、当たり前にケヴィンの担当職員は彼女になる。
歳は17、元ギルドランクはC。
ケヴィンと全くの同い歳である上に、元はギルドメンバーとしてある程度の実力者であった事が分かる。
簡易的な自己紹介を済ませた後、本題へと入る。
「続けてくれ」
「K様にはこれから様々な依頼を受けていただく形と成りますが、そこで重要になってくるのがギルドランクです」
彼女がケヴィンの事をKと呼ぶのは、アルベルトがケヴィンに当てた偽名による影響だ。
普通ならギルドメンバー登録は本名で行わなければならない。
しかし特例として、『二つ名』を与えられる可能性のある者がそれを前もって分かっていた場合に除外される事がある。
つまりそれ相応の実力と才能を秘めた者に関しては、素性を隠しての登録が可能とされている。
この場合にケヴィンはアトランティス学園と言う後ろ盾が無くなる事から、保証人からの紹介が絶対条件となるのだが、その保証人となる存在があの『白牙の老神』である。
アルベルトから受け取った手紙は、ギルドへの紹介状と言う事だったのだ。
先のメイファの慌てぶりはその辺りから来ていたのだろう。
アルベルトの指示により、ケヴィンの登録名は『K』になる。
いつしか与えられるであろう二つ名を手に入れるまで、ギルドメンバーとしてはその名を語る事をケヴィンも認識した。
本来ならそれこそ英雄に匹敵する強さを持っている筈のケヴィンではあるが、その事実をアルベルトは公開するつもりも無いらしい。
尚、現在ケヴィンの恰好は学生服では無くいつもの紺色のローブだ。
フードを深々と被っている為メイファには彼の顔は見えていない筈。
何とも胡散臭い人物に見えなくも無いが、アルベルトの紹介である以上そう言った蟠りは一切発生しないで済んだ。
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