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月下無限天~最強の在り方~  作者:
蒼氷の朱雀編
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刀聖は苦戦する

刀聖・紫炎の一閃は絶望的な状況で棍聖の攻撃を回避し続けていた。


相手の『減衰』の異能力によって、彼は現在万全な状態では戦えていない。


棍聖が言うに、今刀聖に課せられている減衰の効果は、全ての能力が三分の一となっている様だ。


身体能力も、反射神経も、魔力も、視力も全てが三分の一だ。


全ての能力が三分の一になると言う事は、体感での能力減衰は三分の一どころでは済まない状況にある。


簡単に言えば筋力が三分の一になった上で、魔力も三分の一となる。


身体強化だけが三分の一になるのではなく、元々の身体能力までもが三分の一になっているのだから、能力の合計値は大幅に下がる事となるだろう。


正に死活問題である。


特に体が万全な状態での動きに慣れ過ぎている事から、弱体化の影響で体の動きが遅すぎる事によっ、簡単に言えば一歩動くと言う動作でさえ何ともぎこちない動きとなってしまうのが現状だ。


そんな状態で、英雄の中でも武術家として名高い棍聖を相手取っている刀聖は、とても生きた心地がしなかった。


強制ギプスを体に付けられた状態で一流の戦士と戦えと言われている様な物なのだから。


特に刀聖は、身体操作を感覚で動かしている節がある為に、慣れ親しんだ状態から突如その通常に変化が齎されると、途端に混乱に陥ってしまうと言う癖がある。


自分のその癖を強く理解しているからこそ、心の中でいくら焦って居ようと外見上は落ち着きを取り繕い、常に冷静で居ようと努力をしていた。


今も感覚が違い過ぎる体を常に手探り状態で操作し、棍聖の猛攻を必死に凌いでいるのだ。


「……」


身体には冷や汗が常に伝っている。


一瞬でも判断を間違えれば、ただの一度攻撃を受けただけでも致命傷と成り得る。


実際に減衰の異能力の効果を引き上げられた際に打ち抜かれた顎は、ギリギリの反応で顔を捻り受け流せなければ、間違いなくあそこで勝負がついていた程の衝撃だった。


縦横無尽に振り回される棒を、刀聖は一瞬たりとも目を離さずに対処する。


決して大振りな動きをせず、最小限の動きで棒の直撃を受けまいと躱し続ける。


大がかりな動きは未だ体が付いてこない。


感覚が狂ってしまった体を元の様に自由自在に動かすためには、刀聖にとって少し時間の掛かる作業であった。


現状、棍聖に対処しながら今の身体で最大限動ける様に『修行』をしていると言っても過言では無い状況だ。


刀聖本人は気づいていないが、実の所彼は少しずつ少しずつ、その貧弱な体の操作に慣れて行っているのだ。


当たり前に防戦一方となる刀聖だが、その一方的な戦いの中でも彼は彼なりに得るものが有った。


いつもの三分の一程しか捻出出来ない魔力を体に循環させ続けて居るのだが、彼はこの弱体化している状態になってから流動式身体強化のコツを掴めた気がしていた。


ケヴィンからこの技術を教わった際に、元々刀聖は不完全ながらその技術の片鱗は見せていたと言われた事がある。


自分では全く意識していなかった事なのだが、どうやら無限一刀流の動きを行う際に体の節々の一点ずつを確認する様に動いていた事で、認識外の状態で魔力を体の中で動かしていた様だ。


だがその上でも完全に意識した状態での操作は殆ど出来なかった。


寧ろその無意識での動きの方がまだマシだとケヴィンに言われた程である。


普段の動きに慣れきった事により、流動式への切り替えが思うように行かない。


ここでも彼の癖である普段と違う動きに対して、混乱してしまう事象が出ていたのだ。


しかしこの棍聖戦にて、この減衰の効果が約半分くらいに抑えられていた際には、刀聖は完全とは言わないまでもその減衰状態での動きに慣れを見せていた。


窮地に追いやられた事で極限の集中力が発揮され、一気に成長したと言っても良いのだが、実際には相手の減衰の能力の影響で出力出来る魔力が『抑えられていた』事が大きな理由の一つであった。


刀聖はこの流動式身体強化術の鍛錬を行い始めた時、常日頃から循環させていた身体強化の魔力と同じ魔力量で鍛錬を行っていた。


実際剣聖の様な天才型や、拳聖や炎帝の様な本能型はそう言った鍛錬方法が性に合っていると言っても過言では無い。


しかし感覚型の刀聖は、その感覚が狂ってしまう事で自分の中に落とし込む事が出来なくなってしまう。


体に張り詰める程循環させていた魔力を、体の動きに合わせて循環させると言う行為がどうしても難しく、元々一つの事しか集中する事の出来ない彼にとって、体を動かす、魔力を動かすと言う二重行動を脳で処理出来て居なかったのだ。


所が現状、減衰の異能力が掛かった彼の身体は、元々の身体能力ですら著しく下がってしまっている為に、同じく減衰していると言えど身体強化魔法に頼った戦い方を強いられる事となる。


普段使っている魔力よりも遥かに少ない魔力を体に循環させ何とか応戦していたが、この遥かに『少ない魔力』しか操れないと言う状況が刀聖にとって予期しない光明となった。


先も言った様に、当初刀聖は鍛錬の際に普段使っていた時と同じ魔力量で流動式身体強化術を行おうとしていた。


この行為は、新しい技術を学ぼうとしているにも関わらず、動作練習を行わずいきなり全力で見様見真似をしようとしている様な物である。


だが現状強制的に少ない魔力での身体強化をせざるを得ない状況になり、初めて刀聖は少量の魔力量での流動式身体強化術を行使した。


すると、常に全力でやっていた当初よりも、遥かに『感覚』が掴み安いのだ。


一度体が覚えると、急激に成長するのが感覚型の特徴である。


正に減衰の効果がまだ半減程度だった頃に、刀聖が爆発的な成長速度を見せたのはこれが原因であったのだ。


現在三分の一にも能力が引き下げられているにも関わらず、辛うじて応戦が出来ているのも、綱渡り状態では有るが少ない魔力量での身体強化の操作が可能になった事が理由でもある。


まるであっさりと限界を超えた様に見られがちだが、これ自体はやはり日頃からの鍛錬が伴って偶然にもこの段階で努力が報われただけに過ぎない。


だからこそ奇跡はそう簡単に起こらない為に、いくら満足できる程度に流動式身体強化術を扱える様になったと言っても、減衰されてしまっている事実は変わらない為、棍聖に勝利を収める事は未だ叶って居なかった。


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