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月下無限天~最強の在り方~  作者:
蒼氷の朱雀編
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先を読む力

雷を瞬時に切り裂いた後、返し斬りを行いルシアに斬撃を振るうが当然の如く剣は空を切る。


後方に転移を終えたルシアが登場した事を気配探知で感じ取ると同時に、拳聖が彼に襲い掛かる様子も理解出来た。


ルシアの放った風魔法を身を捩りながら避けた拳聖は、それでも不格好ながら拳を振り下ろす。


体勢が崩れている為に大した威力は期待できないだろうが、当たれば粉砕の効力が発揮される。


だが案の定と言うべきか攻撃は空振りにおわり、その拳は地面へとめり込み辺り一帯を粉砕する始末だ。


ルシアの転移先を魔力の動きを感じる事で炙り出し、凡その転移先目掛け剣聖は走り出す。


しかしその瞬間、目の前に雷撃が次々と降り注いできた。


ルシアは先程拳聖の攻撃を避けると同時に、上空へこの雷魔法を飛ばしていたのだろう。


それは拳聖を対象とした物では無く、未来予知によって知りえた剣聖の行動を制限する為の物だったのだ。


雷撃の対処に追われ一瞬の遅れを生じさせてしまった事で、剣聖がルシアの元へたどり着いた時にはやはり既に転移魔法が発動されていた。


そしてその転移先には既に拳聖が向かっている。


だがリプレイ映像でも見ているかの如く、拳聖の進行ルートには上空からの雷撃が降り注いでいた。


拳聖は途端に地面へ両手を付け、地面を強引につかむと同時に大岩を引き抜き、それを盾にする事で雷魔法を防いでいた。


この様に拳聖の異能力である粉砕は対象を粉々にするだけで無く、一定の範囲であれば物体を自由に切り取る事も出来た。


粉砕を応用し接合部分のみの粉砕を行う事で、形状を保ったまま大地の一部分を抜き取ったのだ。


拳聖は自分の身を守る程度の大きさの岩を地面からくり抜き、簡易的な盾を作り出したと言う訳だ。


拳聖曰く、初めの頃はその様な事は出来なかったが、異能力を使い続けていく上でいつの間にか出来る様なった技だと言う。


異能力も進化する……と言う事なのだろうか。


「……?」


剣聖は少しだけ顔を顰めた。


普段から難しい表情をしており、あまり感情を表に出す事の無い剣聖だが、見る者が見れば今剣聖が何かしら疑問を持った事が分かるだろう。


剣聖が疑問を持ったのは拳聖の応用力の高さでは無く、『ルシアの行動』に対してであった。


気のせいか、と剣聖は浮かんできた疑問を一旦否定するが、そのまま脳裏に過ったこの疑問を『ただの偶然』と片付けるには時期尚早だとも判断する。


直感が訴えかけて居るのだ。


それこそが突破口だと。


剣聖は大剣を構える。


そしてルシアと対峙してからの出来事を詳細に『思い出し』ながら、彼は大地を蹴り飛ばした。


もう見飽きた程何度も繰り返した同じ光景。


剣聖の剣は空を切り、拳聖の拳は何もない大地を殴りつける。


転移先に追撃を掛ければ自然魔法に先を打たれ、追いついたと思えばすぐに距離を開けられる。


ルシアは限りこそ有るだろうが、恐らくまだまだ魔力切れを起こさないだろう。


打って変わって此方は確実にジリジリと体力を奪われている。


このまま戦いが続けば、先に綻びが生まれるのは此方の方だろう。


それを理解している剣聖だが、先急ぎはしない。


何十回も何百回も繰り返した中で、剣聖の脳裏に過った先程の疑問は、徐々に確信へと変わって行ったのだから。


「……128手前……合致」


小さくと呟く剣聖。


誰かに聞かせる訳では無い、自分に確認する為の呟きだ。


「……156手前合致」


剣聖は当たる事の無い剣を振り下ろし、ルシアの行き先を注意深く監視した。


「32手前……合致だ」


「えぇぇぇい!! 何度も何度も『同じ所』をウロチョロしおって!!」


剣聖の確信と共に、拳聖が癇癪を起す。


思うとおりに行かない現状に苛立ちを覚えているのだろう。


しかし偶然か必然か、拳聖が今言い放った言葉は、剣聖が疑問に思っていた事への答え合わせとなっていた。


「拳聖……頼みがある」


「なんじゃい!?」


さっさと指示しろと言わんばかりに、拳聖は鼻息荒く剣聖へと返答する。


勝機は掴んだ、剣聖は自信がある事を象徴するかの様に、強い口調で言い放った。


「……周囲の地面を……出来るだけ引っくり返せ」


「承知した!」


二つ返事で拳聖は拳を振り上げる。


剣聖からの指示に、一ミリの疑問も無いのだろう。


信じているからこそ出来る行動だ。


拳聖は辺り一帯を縦横無尽に駆け回り、粉砕の異能力で大地を引っくり返す。


此方の行動の意味が理解出来ないのか、ルシアは眉間に皺を寄せながら此方を見つめていた。


それはそうだろう、拳聖は拳をルシアに振るうのでは無く、全く関係の無い場所へ振り下ろしているのだから。


だが直ぐにその意図は分かる事となるだろう、未来予知を使えばあっという間にな。


剣聖はそう思いながら、再びルシアへと駆け出した。


「……無駄な事を」


ゆっくりとルシアが口を開いた。


恐らく未来が見えたのだろう。


まずは此方の意図を一先ず『勘違い』してもらおうか。


剣聖は先までの行動と特に何も変えず、ルシアへそのまま変化の無い斬撃を繰り出した。


失望でもしているのか、詰まらなそうな表情で転移魔法を発動し、剣聖の後方へと転移する。


そして『偶然にも』ルシアが転移した先には、既に拳を振り上げていた拳聖が迫る。


「無駄だと言っている」


怒気の籠った声を発しながら、ルシアは転移中に作り出したと思われる風の上級魔法を、拳聖へと放つ。


恐らくわざとその位置に転移したのだろう。


此方の策略が、適当に地面を殴りつけている拳聖の攻撃が、偶然にもルシアの転移先と被る事を目的とした物だと『勘違い』した事により、その行為自体が無駄だと言う事をアピールする為、ルシアはわざと拳聖の前へ姿を現したのだろう。


当たる筈が無いのは理解している。


そもそも彼は未来予知を展開してから転移を行っているのだ。


いくら拳聖が我武者羅に攻撃を繰り出していたとしても、拳聖が殴りつける場所が予め分かっているにも関わらずわざわざそこへ転移する事等、今の様に挑発行為以外する筈が無い。


だが此方の本当の目的も、その我武者羅な攻撃のまぐれ当りをルシアに当てるつもり等では無い。


拳聖はルシアに回避されると共に、的外れな地面を殴りつける。


直撃こそ受けてない物の、余裕ぶっていたルシアも地面が崩れた事で若干慌てながら転移魔法を発動しているのが見えた。


それと同時に剣聖は走り始める。


まだルシアが何処へ転移を定めているか等は分からない。


にも拘わらず剣聖は剣を振り上げ、誰もいない空間を切りつける。


「……外したか」


外したと言うレベルでは無い。


ルシアが転移した先は全くの別方向だ。


「貴方まで適当に剣を振るうつもりか、見損なったぞ剣聖。私は君の知能は多少なりとも評価していたのだがね」


呆れた様にため息を吐きながら、ルシアが此方の行動を否定する。


ここで悔しそうな表情の一つでも見せられれば、更に相手は剣聖の術中にハマった事だろう。


だが残念ながら剣聖の表情筋にそう言った機能は無かった様だ。


言葉で補うしかなかった。


「……次は当たるさ。必ずな……」


「続けて負け惜しみですか……本当に期待外れですよ」


「ぬぁぁぁぁあああっ!!」


タイミング良くルシアの元へ攻撃を仕掛ける拳聖。


その拳聖の行動を最後まで見送る前に、剣聖は辺りを見回し始める。


あちらこちらの地面がひっくり返った状況を目の当たりにし、想像以上に『舞台が整った』事を理解した。


「……上出来だ」


拳聖の働きにより、ほぼ思い描いた通りの戦いが出来ると剣聖は踏んだ。


そして負け惜しみと勘違いされた先程の彼の言葉。


『次は当たる』と言う言葉を現実にする為、転移を始めたルシアの転移先に、『一足先』に走り出した。

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