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月下無限天~最強の在り方~  作者:
蒼氷の朱雀編
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闇帝・双頭の獅子2

だがオーロがXランクに席を置く事になった時、彼は生まれて初めての『敗北』を経験した。


Xランクに上る際には、一つだけ試験が有ると聞いた時は耳を疑った。


Xランク創設者である『竜騎士』が、実力検査をする為に模擬戦を行うと言い出したのだ。


はっきり言って何故有象無象相手に自分がそんな事をしなければ成らないのか理解が出来なかった。


自分の実力が欲しいからXランカーへ打診をした筈なのに試験等と、頭がおかしいとしか思えなかった。


竜騎士の名は耳にしている。


異世界から来た英雄で、瞬く間にその実力を開花させ、今ではオールガイアランキング一位に輝く存在だ。


あの温度の番人よりもランクが上。


興味の無い人類の為に力を振るうつもりが無いオーロにとって、世間体も評価に換算されるこのオールガイアランキングの順位には全く興味が無かった。


だがいつしかこの竜騎士は、自分を差し置いて『英雄史上最強』等と呼ばれる存在に成り上がっていた。


最強は自分だと信じて疑わないオーロにとって、この世間の判断は非常に気にくわなかった。


その想いが有るからこそ、竜騎士が下らない試験官『ごっこ』をやろうとしている状況に便乗する様に、試験を受け入れた。


そして、その試験結果が『敗北』に繋がるのである。


ただの敗北では無い、文字通り手も足も出ない『惨敗』だったのだ。


事実上2対1だ。


凡人一人に対して此方は天才二人。


負ける筈等無い。


だが無詠唱で放てる自然魔法を放つ隙すら、この竜騎士は与えてくれなかった。


気付けばオーロは『死んでいた』。


此方の異能力を知っているからこそ、竜騎士は双頭の獅子の片方へ致命傷を与えたのだ。


恐らくそうでなかったら死に直面する攻撃は放って居ない筈だ。


いや、そんな事はどうでも良い。


問題なのは負けたと言う事実だ。


自分に落ち度は無かった。


相手が例え雑魚だったとしても、此方は常に全力を出す事を心掛けている。


つまりそれは、この竜騎士に双頭の獅子が『本気を出して負けた』と言う事実に他ならないのだ。


自分は天才で最強だと信じて疑わなかったオーロの初めての敗北。


この日より、オーロは半永久的にスランプに陥った。


一撃でやられたものの、闇魔法をオーロよりうまく扱えるエルフはこの世に存在しない。


だからこそ闇帝の位自体は手に入れた。


オーロは敗北した日から、定期的に竜騎士へと挑戦状を叩きつける事となる。


敗北がどうしても認められなかったのだ。


しかし、結果はいつまでも変わる事が無かった。


当然だろう、オーロは負けたとしても、勝つための『努力』等していないのだから。


人が当たり前に行う鍛錬のやり方を、オーロは分からなかったのだ。


天才であるが故に、何もしなくても身についてしまった力である為に、努力の仕方が理解出来無いのだ。


反復して魔法を使って己を鍛錬すると言うやり方が、どうにも非効率な気がして止まないのだ。


一日の努力で培われる実力が『1』だとしよう。


オーロの場合、それが『何もしなくても』一日で培われる実力が『2』なのだ。


こうなってしまえば、確かに努力が馬鹿らしく非効率に思えてしまう事だろう。


塵も積もれば山となると言う言葉が理解できないオーロには、当然の感想だった。


努力は続けてこそ意味が有り、最初は1だったものがいつしか2になり、3、4、5となって行く事を彼は知らなかった。


だがオーロは目の当たりにした。


『努力は才能を凌駕する』なんて言う言葉がまやかしでは無い事を証明させられた。


こと竜騎士においては、その非効率な努力で一日に『10』も『20』も実力を上げているのだ。


当然そこには才能も大いに含まれているだろう。


つまり彼は自分と同じく非凡な才能に恵まれて居ながら、それに胡坐をかかず非効率な努力をずっと続け、非常に効率的な物に仕上げてしまったと言う事なのだ。


追いつける筈が無い。


オーロはそう確信した。


今更生半可な努力をした所で、そこへたどり着いた時は竜騎士はもっと上に行っているだろう。


そんな出来レースの様な状況をいつまでも続けるつもり何て無い。


こうなれば、永遠の二番手でも構わない。


オーロはそう思ってしまったのだ。


確かに実力だけ見れば、この時オーロの実力は英雄の中では二番手だったのだろう。


だが……オーロのスランプはまだまだ続いていった。


その後竜騎士からの敗北から日も立たない間に……二度目の敗北を味わう事となるのだから。


竜騎士に次いでオーロに敗北を与えた人物は、当時のオールガイアランキング三位、『風帝・先読みの風神』であった。


オーロが天才型の英雄なら、この風帝は『努力型』の英雄だ。


彼は恐らく才能にはそこまで恵まれなかっただろう事が、暫く関係性を持って行く中で分かる点が多々あった。


オーロの嫌う非効率な努力と言う物を、ただただ愚直に続けている状況を幾度も目にした事があるのだ。


実の所風帝に敗北を喫したのは、何も最初の模擬戦で起こった事では無い。


それどころか勝率と言う意味合いで言えば完全に勝ち越している状況と言える。


十数回、無意味と思える程に愚直に風帝は模擬戦を挑んで来て、それを幾度となくオーロは退け続けていた。


あれだけ努力していても結局はこの程度かと、オーロは半分風帝を馬鹿にしていたとも言える程に、彼は才能が無かったと言えよう。


しかし最後の一回、彼と模擬戦を初めてから最後になるその一回に、オーロは風帝に敗北した。


正直意味が分からなかった。


確かに風帝は自分より弱く、才能等オーロからすれば欠片も無かった筈だ。


だが気付けば地面を舐めていたのは彼では無く自分であった。


無駄な努力……才能の無い者の悪足掻き……そう思ってオーロが非効率だち馬鹿にしていた努力を、風帝は竜騎士と同じ様に効率的な物に昇華させていたと言う事だ。


その時になってオーロは初めて努力が意味ある物だと思い始めた。


しかしそれが分かったとしても、自分は努力が出来ない存在で有る事に変わりは無い。


普通ならば、一度負けた程度で大抵の人は諦めたり等しない。


今日は彼が勝つ日だっただけと、今迄自分が勝っていたのだから次はまだチャンスがある筈だと思う事だろう。


だがオーロは、ここに来て再び敗北を経験してしまった彼は、『二度目の諦め』と言う選択を取ってしまったのだ。


見えなかったのだ。


下から上がって来た風帝に今後勝てるビジョンが。


自分は確かに何もしなくとも強くなる事が出来る。


非効率な努力を続けるより、自由気ままに生きて行くだけで強くなれるのだから、その伸びしろ考えれば勝つチャンスは幾らでもある様に思える。


ただ、風帝の努力はオーロの才能を遥かに凌ぐ程の速度で実力を上げて行っているのだ。


今以上に効率的に強くなる方法を知らないオーロにとって、既に風帝は追い付けない存在へとなってしまった。


何より竜騎士に完全なる敗北を喫してしまった事で、プライドすらも無くしてしまったオーロは案外すんなりと風帝からの敗北を受け入れてしまったのもある。


奇跡が二度続いただけ。


世界で三番目に強い、それで良いじゃないか。


そう勝手に納得してしまったのだ。


二度あることは三度あるとよく言うが、何故かオーロはこの時、三度目は起こる筈が無いと根拠のない自信を持っていた。


だがオーロの予想が当たったのか、風体に敗れてからその後十年近くに及びオーロの実力を超える者は現れなかった。


この風帝も自分と同じく氷帝一派と呼ばれる派閥に所属している人物だが、何故彼が自分と同じく氷帝の下に付いているのかは定かではない。


オーロは他人に個人的な興味を持たない為、それぞれの理由などどうでも良かった。


オーロにとって都合が良いか悪いかは判断できないが、その十年の間にXランカー内で様々な変動が起こる。


その第一号が『竜騎士の失踪』だ。


多くの者が必死に竜騎士の行方を捜索し、消えてしまった竜騎士の安否を願う者や悲しみに暮れる者が多かった中、オーロだけはその事件に対して真逆の感情を持っていた。


最強の竜騎士が居なくなったと成れば、事実上オーロの実力は英雄の中でNo.2と言う事に成るからだ。


自分より上の存在が居なくなる、彼にとってこれ程嬉しい事は無い。


その頃になっても風帝は相変わらずつまらない努力を続けているのだが、竜騎士と言う目指すべき対象が無く成った今、彼がそのまま努力続けていけるとは思えない。


そうなれば、遅かれ早かれ再び自分が英雄界で最強の座を手にする事に成るだろうと、オーロはご都合主義な解釈を一人で繰り広げ密かに笑みを浮かべていたのだ。


やがて訪れる最強の時を一人待ち望んでいた……しかしその日が訪れる事はなかった。


オーロは三度目の敗北を喫する事と成る事態が起るのである。

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