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月下無限天~最強の在り方~  作者:
蒼氷の朱雀編
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言い訳しか出てこない

「ぐあぁ!!」


巨大な斧に切り裂かれた炎帝が悲鳴を上げる。


条件反射的に彼に治癒魔法を飛ばし、直ぐに万全の状態へと戻す。


あまりにも炎帝への負担が大きすぎる。


刃聖にとって、雷帝は脅威と感じられていないだろう。


居ても居なくても同じ存在に手を取られるくらいなら、最初から居ない事にして脅威と成り得る炎帝を先に倒すと言う作戦は当然の行為とも言える。


少なくとも自分ならそうするだろう。


その刃聖の最善の行動は、此方からすれば大きな壁となって立ち塞がる。


正に鉄壁の巨人だ。


炎帝も刃聖相手では自然魔法を使えない。


彼はケヴィンの戦い方を参考にし、自分なりにアレンジする事で身体強化と自然魔法を組み合わせる戦い方を模索し始めた。


その戦い方は、ケヴィンと言う最強の存在が行っている戦い方でもある事から、直ぐに真価を発揮する事になる。


元々剣聖に匹敵する剣術と、雷帝に匹敵する魔術を持っている彼は、実力に任せた力押しでの戦法をとりがちであった。


実際問題、戦い方を考えながら戦う事を非常に不得意としていた彼は、そういった戦法に頼りがちになるのは仕方の無い事と言えよう。


それでも彼が十分に実力を発揮できているのは類い稀なるセンスによるものだ。


天才的な発想で誰もが考えつかない様な戦法でいつもいつも窮地を脱していた。


そんな奇抜な戦い方に、見様見真似だとしてもケヴィンの戦い方が加われば、正に鬼に金棒状態だろう。


めきめきと実力が上達し、元々周囲から一目置かれて居た彼は更にそこから飛躍する様になった。


しかし、その戦い方に慣れ親しんだ時に、刃聖と言う自然魔法の通じない相手が立ちはだかってしまった。


自然魔法をダメージ目的では無く囮やフェイントに使うと言う、ケヴィンを真似たその戦い方が出来ない相手。


それだけでも戦況は大きく変化する。


持ち前のセンスで今もギリギリ拮抗している炎帝だが、それもいつまで持つかは定かでは無い。


防戦一方なのは目に見えており、傷は回復出来たとしても炎帝の体力はどんどん失われていく事だろう。


打って変わってあれだけ膨大な魔力を放出している刃聖からは、体力の消耗は一切見られない。


それどころか刃を振るえば振るう程その鋭さは増している様にも見える程だ。


その底知れない恐怖からか、高身長と言える炎帝の背丈をもってしても、刃聖を前にすると大きなモンスターに立ち向かう小人に見える程の錯覚を起こしてしまう。


ギリギリの攻防、一瞬でも炎帝に隙が生まれれば、それこそ瞬く間に窮地と陥るだろう。


そう思っていた矢先に、予想していた事が目の前で起きてしまう。


「がはっ!!」


刃聖の大きな斧を強引に長剣で弾き飛ばした炎帝だったが、その瞬間にがら空きに成った胴体部分へ刃聖の巨大な足がめり込んだ。


後方に居る自分に耳にまで届いた鈍い音と共に、途轍もない速度で炎帝が目の前へと飛び込んできた。


人間と比べればエルフの反射神経はそこまで高く無い。


当然、炎帝が吹き飛ばされた射線上に居た雷帝が、身体能力でその速度を避ける事は敵わない。


冷静に判断すれば転移魔法を発動出来たかもしれないが、吹き飛ばされて居る炎帝は元より恐怖と不甲斐なさで縮こまってしまっていた雷帝に、そんな判断が出来る筈も無かった。


二人は間もなくして正面衝突を起こしてしまう。


しかしそこで行動に出たのは他でも無い炎帝の方であった。


彼は吹き飛ばされつつも空中で無理矢理体を捻り、雷帝に対して正面に向かい合うと、彼女を抱きかかえると共に自分の体を地面へと叩きつける。


受け身を取れば彼自身のダメージは刃聖からの腹部への攻撃だけで済んだ事だろう。


しかし恐らくエルフである雷帝には、自分がぶつかる事で発生する衝撃にとてもでは無いが耐えられないと判断した為か、彼女を守る行動に出ていた。


後頭部を抱えられ、共に地面を転がる中でも極力急所へのダメージは避けられていた。


雷帝はそれを理解するや否や、再び治癒魔法を炎帝へと掛け続ける。


と同時に風魔法を使い、吹き飛ぶ方向から向かい風と成る様に強い突風を起こす。


それが柔らかい壁となり、ゆっくりと威力の治まった二人が地面を軽く滑りながら止まる。


「……大丈夫か雷帝!?」


体を起こすと共に炎帝が発する言葉は此方の心配。


本来なら、普段なら、共に遺憾なく力を発揮しながら共闘する状況でこの言葉を掛けられれば、心配性だと感じながらもその優しさに感謝する所だろう。


だが、今この状況でのその言葉は、自分は庇護対象でしか無いと言う言葉にしか聞こえなかった。


炎帝と剣聖は、異世界に居た頃に失った大親友と自分を重ね、度々過保護に接してくる事が有った。


二度と友人を失いたくないと言う彼等の気持ちも、大切な家族を失った自分からすれば良く分かる心境であった為に、極自然にその行動を受け入れられた。


しかし今この時は……ただただ辛いだけだった。


「えぇ……大丈夫よ……」


大丈夫なんかじゃない。


当然彼のお陰で致命傷は受けて居ない。


軽い傷なら既に治癒魔法で完治済みだ。


大丈夫じゃないのは心の方だ。


また自分は護られるだけなのか。


母親に、弟に、ケヴィンに、シアンに、レオンに、デュランにただただ守られるだけの存在なのか。


自分には横に並んで戦う力は、その資格は無いのか。


折角人々を守る為の力を持っているのに、それはあんまりでは無いか。


そんな此方の気持ち等、炎帝に伝わる筈も無く彼は再び刃聖の元へと走り出した。


伝えたい訳では無い、彼にそんな事言ったってどうしようも無いのだ。


『自分は足手纏いに成っていないか』等と彼に聞いてどうなると言うのだ。


彼の返事は決まっている。


『そんな事は無い』とはっきり言うだろう。


それは慰めでも何でも無く、彼本人が本気でそう思って発する言葉だと理解している。


しかしそれを聞いて薄っぺらな安堵感を覚えるのは卑怯な事だろう。


彼の性格を利用して、分かり切った答えを聞いた所で、後々後ろめたくなるだけだ。


何より本当に足手纏いかどうかなんて、今自分が一番理解しているでは無いか。


仕方ないじゃないか。


自然魔法が効かない相手なんだから。


そう言い訳してしまえばどんなに楽だろうか。


実際その通りなのだから、今この場で共に戦っているのが炎帝で無くとも、相方が誰であったとしてもここで自分に与えられる役割は治癒魔法を施すのみになるだろう。


今まで通りならそれでなんの問題も無かった。


炎帝だけで、剣聖だけで、勝てない相手等居なかったのだから。


それぞれにそれぞれの役割がある。


物理攻撃が効かない相手なら、むしろ自分の出番だ。


剣聖に出来ない事が自分には出来る。


その状況になれば剣聖には此方に降り注ぐ魔法を魔封斬で切り裂いて貰えたらそれでいい、それが役割なのだから。


それで良かったのだ……『今まで』は……。


だが、情勢は大きく変わりつつある。


英雄が敵わない存在が次々と現れ始めている。


英雄一人が全力で立ち向かわなければ成らない魔物が現れ、実力では既存の英雄の中で一番とされる刀聖が敗れてしまう程の魔人が現れ、そしてトップランカーの二人の英雄が対峙してもなおその力を跳ね返す目の前の刃聖がいる。


『それで良かった』事がそれでは良くない状況となり替わってしまった。


そんな甘えた事を言ってられる状況じゃなくなってしまった。

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