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月下無限天~最強の在り方~  作者:
蒼氷の朱雀編
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最悪な相性

雷帝、黄金の雷光は記憶の彼方に封印していた『無力さ』を再び思い出していた。


目の前で激しい攻防を見せる二人の英雄の戦いを、ただただ傍らで眺める事しか出来なかったからだ。


無限魔力が無くなってしまった訳では無い、魔法行使が出来なくなってしまった訳でも無い。


自然魔法を扱う事自体が『無意味』と化してしまっているのが原因だ。


禍々しく見ているだけでも鳥肌が立つ程の魔力を捻り出している刃聖。


彼が何故あの様な見た事も無い姿形をしているのかは理解出来ていない。


「刃聖……何だよ!? お前に何が有ったんだよ!? その体は……その『黒い筋』は大丈夫なのか!!?」


炎帝は異様な風貌を見せる刃聖の姿に驚きを見せる。


戦闘の最中、捲れたフードの中から出て来た刃聖の顔は、間違い無く『クラフト・ドルチェ』のものである。


だが、彼のその見慣れていた筈の風貌には、体の周囲に発揮している黒いオーラと連動する様に夥しい程の見慣れない『黒い筋』が彼の肌に刻まれていた。


明らかにそれはただ事ではない状況だろう。


今にもはち切れんと言わんばかりに浮き出た血管が、全て黒く発色しているのだ。


まるで命の灯を燃やしている様な、その様な異常な魔力の高まりをあの黒いオーラから雷帝は感じている。


「この力は……お前達を倒す為に貰った力だ! 今のオイラは強い……誰にも負けない!!」


刃聖は己の風貌に対し、そう答えて来た。


禍々しいオーラも、その黒い筋も、『貰った力』だと発言した。


誰かが彼に力を与えたのか。


魔力の強化を促す魔法を掛けられたとでも言うのだろうか。


そんな魔法、雷帝には聞いた事が無かった。


よもや『異能力』の類いだろうか。


しかしそんな異能力を持つ英雄もまた、雷帝は知らない。


となると……英雄達と同じく異能力を持つ存在……『魔人』の仕業か……。


そう言った予想が雷帝の中で作り上げられる。


だがそれが事実だとすれば、魔人は何の為に英雄に力を与えたのか。


これ程までに強力な存在を作り上げて、その刃が自分達に向かうとは思わなかったのか。


事実として、本来刃聖の実力は、炎帝と張り合えるレベルには無かった筈だった。


氷帝一派は誰もが個人の技量では、刀聖一派の誰にも勝つ事は出来ない。


自画自賛する訳では無いが、それが今の英雄界での常識でもある。


ところがどうだ。


現実の刃聖の力は、炎帝をほぼ一方的に攻め込んでいると言えるでは無いだろうか。


炎帝が彼に刃を向ける事に戸惑いを感じている事も理由の一つではあるが、あれ程開いていた筈の実力差がこうも簡単に覆る事等有り得る筈が無い。


そう考えれば今彼の体を包んでいるあの禍々しいオーラが、恐らく刃聖の魔力の限界を極限まで引き上げる作用を発揮している可能性があるのだと予想が出来る。


だからこそこれ程の力を英雄が持てば、それは魔人側の不利になるのではないだろうかと言う疑問が浮かぶ。


この力が魔人にとって脅威に成り得る事を考えれば、クラフトをこの状態にした人物は魔人では無く、此方の知らない新たな異能力を持つ英雄が現れたと言う事になるのだろうか……。


一体どの様な原理なのか想像も付かないが、何方にせよ状況は著しく無い。


何よりこんな状況で何も出来ない自分が歯がゆくて溜まらないのだ。


炎帝がダメージを受ける度、即時に治癒魔法を飛ばしている。


それだけしか今彼女に出来る事は無い。


……何故なら、雷帝の放つ自然魔法は……刃聖に『届かない』のだ。


それでも、彼女は刃聖の気を逸らす事自体は出来るかもしれないと、時折魔法を刃聖に向けて放つ。


鋭く力強い雷撃が刃聖へと降り注ぐが、彼に直撃する寸前に透明な膜の様な物にそれが防がれてしまった。


そしてその状況に対し、刃聖は一切の反応を見せない。


自然魔法は自分には効かない、それを強く理解して居るのだろう。


始めから雷帝等戦闘に参加していない者として扱われて居る様な雰囲気さえあった。


この現象は、当然『異能力』による物だ。


『鉄壁の巨人』の二つ名を持つ刃聖。


彼はその二つ名の如く、正に鉄壁の守りを誇っている。


物理攻撃に対しては人間の特徴である身体強化と、類い稀なる恵まれた体格から無類の防御力を誇る刃聖。


そしてそれに加えて、自然魔法に対しては『対魔壁』と呼ばれる異能力を駆使して防ぐ。


そう、かつての元炎帝、防壁の炎神が持っていた異能力『対物壁』と対を為す異能力である。


当然ケヴィンから言わせれば『結界魔法の劣化版』と言う言葉が出てくるであろうが、しかし現状その異能力が雷帝の自然魔法を尽く封じてしまっている。


結界魔法の原理は雷帝自身も理解している。


全属性のウォール魔法を複合したウォール魔法の上位に属する魔法。


そして対物壁も、恐らくこの対魔壁も、その結界魔法の性能を元にした異能力だろうと言う事も今と成れば分かっている。


この結界魔法は、それに込められた魔力以上の威力をぶつければ、ウォール魔法同様に破壊する事が出来る。


実際にこの目で見た訳では無いが、物理攻撃に対して最強と言われて居た防壁の炎神の対物壁を、ケヴィンは拳一つで破ったと言っていた。


彼がそう言った出来事を大袈裟に誇張して語る人物では無いと理解している彼女は、当然その言葉を信じている。


そしてその事実が有る以上、刃聖の対魔壁もそれ以上の魔力を込めた自然魔法で攻めれば貫く事が可能なのではと、雷帝は溜めに溜めた全力の一撃を刃聖にお見舞いした。


貫いてしまえば、刃聖の命を奪ってしまう事にも成り兼ねない一撃だったが、刻一刻と悪化する状況に四の五の言ってられなかったのだ。


しかしその結果は……自分の行使出来る限りの全力で放った自然魔法は……刃聖の対魔壁を貫く事は叶わなかったのだった。


彼女は戦慄した。


自然魔法の扱いは世界最強と言われて居る自分の魔法が通じない相手が居る。


以前から刃聖の異能力が自分と相性が悪い事を理解はしていたが、英雄と言う互いの立場も有り、味方である以上脅威としては感じて居なかった。


共に戦う事は有ったとしても、敵として聳え立つ事等有り得なかったからだ。


だが現実問題、今こうやって刃を向けられてしまえば、エルフである自分にはどうしようも無い存在となってしまう。


自然魔法の効かない相手に、雷帝は成す術が無い。


手も足も出ないとはこの事だ。


最強と呼ばれた自分が、何も出来ない。


ケヴィンの存在により、最強等程遠い物と成ってしまったが、それでも強者の立ち位置にあった筈の自分が、ここまで無力感を感じる事に成ろうとは思いもしなかった。


こんなに情けない事は無いだろう。


治癒魔法でレオンを援護している?


こんな事、自分が居なくてもレオンは一人でやってのける。


ここに今自分は居る必要が無いとすら感じてしまう。


相性が悪い等とはただの言い訳に過ぎない。


あのケヴィンは自分達と違って英雄ですら無い上に混血種だ。


彼からすればこの世の生物全てが相性が悪いと言える存在だった筈だ。


ならば英雄で有り純血で有る自分がその様な言い訳を並べて良い訳が無い。


確かにこの場に居るのが刀聖や剣聖なら、絶対切断や魔封斬で対魔壁もろとも打ち破って居ただろう。


だが、彼等も彼等で今別の氷帝一派の誰か刃を交えている筈だ。


恐らく目の前の刃聖と同じ様に、圧倒的な力を持った存在と対峙しているだろう。


今この場に居ない彼等に助けを求めるのは間違っている。

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