今起きている事
「一つ目、テメェの龍魂は『防御力無視』なんて言われているが、実際にはそうじゃなかった。ただ滅茶苦茶に威力が『デカすぎる』だけだ。あまりにも強すぎる威力の影響で、防御しても全く意味が無い状況になり、触れる物全てを破壊する様に見えてただけだ。単純に受ける側である俺がいつも以上に魔力を防御に回せば、今度はこっちの防御力が勝ってテメェの龍魂を防げる様に成ったって状況だ」
言いながらケヴィンは、エリルの持つ槍を指差す。
「その証拠に、今テメェが握っているアダマンタイト性の槍は俺が作った龍魂で砕けちゃいねぇ。これに気付いたのは、俺の胸部がテメェの龍魂でやられた時に、爆発の範囲内に入っていた筈の体内にある『マナの核』が、全く破損していなかったからだ。おかしいだろ? 防御無視で無理矢理破壊するんなら、アダマンタイトもマナの核も粉々になる筈だ」
マナの核は、小さいながらも人によっては途轍もない量の魔力を秘めている事となる。
特に、ケヴィンの様に英雄と比べても圧倒的に魔力の多い存在にもなれば、当然その魔力が籠っている器であるマナの核も相応の『強度』を発揮する事となる。
つまり、マナの核が保有する魔力が多ければ多い程、マナの核の『硬さ』は増していく作用が起こるのである。
歴史が証明している事だが、魔物の攻撃によって人体自身が粉々に成る程の威力を受けて絶命した人物が居たが、その際にマナの核だけがその場に残っていたと言う事例もある。
人間が身体強化を施しても防ぎ切れなかった威力でも、マナの核は耐える事があるのだ。
それによってマナの核がエリルの龍魂で破損していない事に気付いたケヴィンは、大雑把に龍魂の性能を予想して、戦い始めの頃よりも遥かの多くの魔力を防御に向けて注ぎ込んだのだ。
そうする事によって尋常じゃない防御力を手に入れたケヴィンの肉体は、龍魂の爆風に耐えうる強度を誇る事になったと言う事だ。
最初にケヴィンの四肢が魔力を込めても砕けていたのは、ケヴィン自身も龍魂は防御の意味が無いと思い込んでいた事によって、大して魔力を身体に込めなかった事が理由だ。
「二つめ。何故龍魂を消し去る事が出来たのかだが、これ自体が実際に三つ目にも当たる俺が龍魂を行使出来た理由にもなる。結局の所異能力ってやつは、どこまでも自然魔法の『延長』らしい。もっと詳しく調べなきゃ全ての異能力がそうだとは言い切れねぇが、それでもテメェの異能力は実際に自然魔法で作り上げる事が出来た」
ケヴィンは左手を天へ向けると、再び白い靄を作り出し空高く放つ。
「何度も何度もテメェの龍魂をこの体で受け、その度龍魂の一つ一つに魔力付与を試みてその構造を探った。つまり龍魂の『理』を探ったって事だ。そして龍魂の構造を理解し、理解し終えた所でその龍魂自体を消し去ったって事だ。理解したと言う事は、俺はそれを更に行使する事が出来る」
天へ突き進む靄が龍の頭部の形を象り、まるで昇竜するかの如く高く上がり、空中で小さく爆発した。
「敢えて三つ目も詳しく説明するが、テメェのこの龍魂って異能力は……結局の所さっきも言った様にただただ威力がデカすぎる『自然魔法』なだけだ。しかも……その正体はシンプルな『爆発魔法』だ。質も威力も範囲も、作り出した龍魂の大きさに凝縮した、とんでもねぇ威力の爆発魔法だったって事だ」
元々異能力が、自然魔法で再現が可能な物がいくつかあると理解し始めていたケヴィンだからこそ気づけた事。
防壁の魔人の異能力が、半端な結界魔法だと言う事。
真空の鎌鼬の異能力が、風魔法の応用だと言う事。
温度の番人の異能力が、補助魔法の一部だと言う事。
そしてデュランの魔封斬は、強引に魔法の構造を破壊する技術だと言う事。
ケヴィンが一つの魔法に対し、魔力付与、魔力操作を行い構造を破壊する工程を、デュランはただの一振りでそれを行使する事が出来る。
ケヴィンが理を理解してやっと出来る事を、デュランは何も知らずとも出来るのだから、そこだけみればやはり異能力は反則技だとも言える。
エリルの龍魂も同様に自然魔法として説明が付く。
炎魔法と風魔法を融合させ爆発魔法を作り出し、更に威力と範囲を凝縮して小さな範囲に途轍もない威力を作り出す工程を組めば実行可能な技術だ。
そしてエリルはただの一振りでその工程を省略して、大量に龍魂を放出する事が出来た。
「色んな工程をぶっとばしてる上に、消費魔力が『極僅か』と言う条件で放てるテメェらの異能力は確かに反則的なもんばかりだ。理を理解したからこそぶっ飛んだ技術が詰め込まれてるから、確かに異能力は神に与えられた能力と言えるかもしれねぇが……それでも俺はテメェらと同じ規模でそれらを行使出来る事が分かった。テメェのお陰で、俺はまた一つ強く成ったって事だ」
異能力は確かに反則的だ。
どう言う原理で行使されて居るのか分からなかった頃は、とても理不尽な物とばかり思っていた。
しかし、構造を理解する事で、原理を知る事で、その異能力はケヴィンの中で『使用可能』な物となった。
絶対切断の構造を知れば、不死身の構造を知れば、ケヴィンは恐らくそれらを自然魔法で『再現』する事が出来るだろう。
フィーネの異能力が、正にそれを証明していると言える。
彼女の再現と言う異能力は他人の異能力すら作り出す事が出来るのだから。
それはつまり、彼女が再現で模範する事が出来る技術は、全てケヴィンも自然魔法で作り出す事が出来ると同意語となるだろう。
「く……はははは……」
突然と笑い出すエリル。
怪訝な表情をしながらエリルを睨みつけるケヴィン。
「まさか、敵に塩を送る形になってしまうとはなぁ」
「そうだな、テメェはテメェの手で、俺と言う化け物を生み出した事になるな」
「……失敗したわ……ほんま。変な親心なんか出すんやなかったなぁ」
最後の最後まで、結局の所エリルは自分の首を自分で絞める結果になったのだろう。
「せやけど俺はまだこないな所で死ねへんねん」
と言うと、いつの間にか彼の手には、ケヴィンが以前メーゼと共に作った小型転移魔法陣が握られていた。
「あんさんが作ったこの便利な魔導具で……ここは逃げさせてもらうで」
「出来ると思ってんのか? 俺の前で」
転移魔法陣での発動で有ろうと、ケヴィンはただそれをいつもの様に消し去る事が出来る。
そんな事ここまで拳を交えたエリルなら当然分かっていると思っての質問だ。
「せやから逃げさせて『もらう』って言ったんや。あんたは今こんな所であぶら売ってる場合とちゃう状況にあんねん」
「……何が言いたい」
「俺は今こんな状態になってしもうても、転移魔法を終えるまでにあんたの妨害を退けるだけの力は残ってんねん。せやけど仮にそうした場合、あんたは俺を転移先まで追いかけて来るやろうな。せやけどな、今はそんな場合ちゃうねん」
意味深に語るエリルの言葉に、耳を傾けるケヴィン。
「ほんまは俺な、あんたに会いに来る前に、ちゃんと『シアン』の所にも寄ったんやで。せやけどあいつは、えらい形相して俺とすれ違った事も気付かんとギルド支部に入って行きよったわ。なんでそない急いでんのか俺も状況探ってみたら、アトランティスの城下町がなんや『とんでもない事』になってるらしいわ」
「とんでも無い事……だと?」
「どうもな、よぉ知らへんねんけど……俺以外のXランカーが『全員』揃っとるみたいやわ。こらぁあんたの力も必要なんかも知らへんなぁ」
「……テメェ……何でそれを今まで黙っていた」
「聞かれへんかったからや」
彼の返答にイラつきを感じ、ケヴィンは腕を振り上げる。
「言うたやろ、あんたには時間が無い。あんたが今俺に止めを刺そうとしても、そう簡単にはいかへん。ここで時間食っとる間に、あんたの大事な友達はどうなっとるやろなぁ?」
確かに、この状況になってもエリルに止めを刺す事は簡単じゃないだろう。
最初の苦しそうな息づかいは演技だったのか、既に彼が流暢に喋っている事からまだまだ彼が動ける事は分かっている。
時間は掛かるが勝てる。
だがそれでは遅いかも知れない。
……迷っている場合では無い、ケヴィンは当たり散らす様にエリルへと言葉を告げる。
「次こそ……『本気』で掛かって来い」
決着等ついたとは思っていない。
何がしたかったのか分からないが、彼はここでケヴィンを足止めしたかったのかもしれない。
だとしても理由が定かでは無いが、兎に角彼が全く本気を出していない事だけは分かっていた。
今は一秒でも早く刀聖達の下へ向かわねばと思い、ケヴィンは転移魔法を発動する。
ケヴィンは転移魔法を発動する。
一瞬にして光に包まれたケヴィンは、アトランティス城下町、リーン市街へと飛んで行くのだった。
その間にエリルが呟いた言葉を耳にしながら。
「ケヴィン……ほんまに俺を止めるつもりなんやったら……シアンと一緒に止めてくれや。俺が間違ってると本気で思うんやったら……な」
――――……。