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月下無限天~最強の在り方~  作者:
蒼氷の朱雀編
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蒼氷の朱雀6

そろそろいつものアレな展開の予定です。

どうすればその考えに至るのか、正気の沙汰では無いとこの時のケヴィンの思考を聞いた者がいれば、当たり前にそう発言する発想だっただろう。


しかしケヴィンには他に手が無かった。


奴隷時代を過ごし、エリルに世話になり出してから鍛錬ばかりの日々。


買い物一つ碌に出来ない状態なのだ。


だがケヴィンは何の勝算も無しにその発想に至った訳ではない。


少なくとも一心不乱に鍛えた結果、ある程度の基盤が自分の中で出来上がっているとケヴィンは自負している。


ただ腕自慢の冒険者が尽く命を落とした事によって名付けられたデスマウンテンの名は伊達では無い。


この時の彼は精々十代にも満たない相手ならば『純血相手』でも負ける事は無い程度の力量だ。


しかし今のケヴィンにはその程度まで力を得た事に大きな意味があった。


それにより次の段階に進めるからだ。


ケヴィンがデスマウンテンで生き残る事が出来ると確信している理由のもう一つは、エリルから与えられたとある物だ。


それこそが、ケヴィンが山での鍛錬で使っていた『黄金色』の長剣である。


エリルが言うに、その長剣は『オリハルコン』と呼ばれる絶対金属で出来ている物の様である。


その金属の名前は当時のケヴィンにも認識があった。


三大金属の一つと呼ばれるオリハルコン。


世界最硬度を誇り、決して壊れる事の無いと言われるアダマンタイト。


魔力伝達に優れ、込めた魔力の分だけ硬度の上がる不思議な金属ヒヒイロノカネ。


そしてアダマンタイトの硬度に勝るとも劣らず、ヒヒイロノカネに匹敵する程に魔力伝達の優れた神の金属オリハルコン。


希少価値がとても高く、ケヴィンにとって目にするのは初めての事であった。


じっさいそれらの金属は、あまりにも硬度がある為に加工する事が出来ない。


込められた魔力に比例して硬度の上がるヒヒイロノカネならまだしも、オリハルコンやアダマンタイト等は、人間の科学力を持っても傷一つ付ける事が出来なかった。


例えそれらの金属自体を発見しても、加工出来なければただの重い金属と変わらず、ただただ科学者達は指を加えて金属を眺める事しか出来なかったと言う。


しかしエリルが元居た世界では、それらの金属を加工する技術が存在していたらしい。


実際にエリルの持つ白銀色の槍は、件の『アダマンタイト』で作られている槍である。


何やら彼の世界で『北欧神話』なる物に出てくる槍だとケヴィンは自慢されていたが、他世界の神話など知ってもどうしようも無く、何より創作めいた話に興味を持たない為に彼の持つ槍の名前をケヴィンは忘れている。


そしてエリルはそのアダマンタイトの槍以外に、二つの武器をこちらの世界に持ち込んでいた。


その一つがケヴィンに与えられた『オリハルコン製の長剣』。


こちらも『アーサー』と言う人物が使っていたと言う話を説明されていたが、正式な剣の名称をケヴィンは覚える事が無かった。


もう一つはヒヒイロノカネで作られた『赤い刀身を持つ刀』であると言う話だ。


刀の存在はエリルの口から聞いただけでありケヴィンは実物を見た事は無いが、どうやらエリルにはケヴィンの兄弟子にあたるもう一人の弟子が存在しているらしく、その人物が刀を所持していると言う。


刀にも勿論列記とした名前があるのだが、何分ケヴィンである為やはり興味の無い物は覚えていないのだ。


いつかその刀の持ち主と引き合わせると約束もしていたが、その約束が適う事は無かった。


しかし今重要なのはエリルから譲り受けたその長剣である。


オリハルコンは一般的な鉄等と比べれば非常に重い性質をもつ。


これらは三大金属全般に言える事だが、やはり一定以上の硬度を持つ金属はそれに比例してその重量も重くなっていくだろう。


圧縮率にもよるだろうが、例えとしてオリハルコン製の短剣と同じ重量で鋼鉄製の武器を作ろうとすれば、大剣や戦斧、大槌が作れると言われる程度には重量級として扱われている。


普通に使うだけでもかなりの労力を必要とするそう言った武具だが、人間にとっては『身体強化』がある為、普通では考えられない程の重量の武具でも容易に扱う事が出来る。


ケヴィンに至っても2年以上の鍛錬の結果、幼少ながらも何とかそのオリハルコン製の長剣を扱える程にまでは成長する事が出来た。


と言っても、まだ剣を振ると言うよりも、剣に振られていると言う表現の方が正しいのだが。


しかし例え小さな体のケヴィンが覚束ない太刀筋で長剣を振ったとしても、その長剣の切れ味は凄まじい物だった。


本来、人間は己の身体だけで無く衣服もとい身を護る防具や、自らが持つ武器にまで魔力を『付与』する事が出来る。


それによって本来の金属が持つ硬度よりも遥かに硬い武具へと昇華させる事が出来る。


と言えば中々聞こえの良い表現となるが、現実としては武具に魔力付与を『行わなければ』とてもでは無いが魔物に傷を与える事や、魔物から身を護る事は出来ないと言っても過言では無いのだ。


魔物は下級であっても鈍ら刀では決して刃が入らない程の装甲を持っている。


切っ先を鋭くしたとしても、武器本来の硬度が脆ければその装甲を貫く前に武器の方が砕けてしまうだろう。


だからこそ人間は己の武具に魔力を付与する事で、その硬度を己の体と同様格段に引き延ばす事で、ただの木剣でさえ鋼鉄製のそれと同等の力を持たせる事が出来る様になるのだ。


しかし、このオリハルコンの長剣はその魔力付与が必要のない程の高度を元から誇っている。


龍の鱗に叩きつけても一切の刃こぼれを起こさないこの長剣には、技術の要る魔力付与をしなくとも十二分に武器として扱う事が出来た。


その為、本来一般人が使う様な鋼鉄製の武器では、魔力付与を施してやっと傷つける事が出来る魔物相手に、このオリハルコンの長剣は魔力付与をせずともそれ以上のダメージを与える事が出来た。


冒険者と名乗るには全くと言っていい程腕の立たないケヴィンではあるが、その長剣の恩恵によってデスマウンテンで生き残る可能性を確かに感じていた。


ケヴィンはその後数年間、デスマウンテンの麓で修行を積んだ。


実際に一端の冒険者を死に誘う魔物相手に、ケヴィンは生き残って見せていた。


最初の頃は深部に入らず、デスマウンテンの浅い層に生息している下級から中級の比較的弱い魔物を討伐し、その肉を食らう事で生を繋ぎ止める。


勿論そうは言ってもやはり幼い混血種、何度も何度も死に掛けた。


生き残れたのは単純に長剣の恩恵と、更には運が良かっただけである。


もしケヴィンに英雄並の異能力が与えられていたとすれば、それは間違いなくその『運の良さ』であると言える程に、彼の運気は常識をかけ離れているだろう。


果たして『混血種』に生まれた事が運が良いと言えるかは置いといてだが、まるで生きる事が使命であるかの様に死を直前で免れる局面がいくつもあった。


その日必要最低限の食料を手に入れると、隠れ家として最適な狭い洞窟に身を隠し、気絶するまで体を鍛錬で痛め付け、枯渇するまで魔力を消費する。


混血種が純血の半分しか魔力の恩恵を得られないのならば、単純計算……『二倍』の魔力を出力すれば、その差は有って無い様なものとなる。


馬鹿げた算段だがそれだけの為にケヴィンは、死ぬ程に苦しい方法で魔力の底上げを重点的に行った。


その魔力の影響を最大限に身体強化へ行かせる様に、極限まで体を鍛え続けた。


どれだけ魔力総量が多くなっても、完璧に制御する事が出来る様に綿密な魔力コントロールを身に着けた。


デスマウンテンに来てからの鍛錬は、今までのそれがただの遊びであったかの様な錯覚を起こす程に辛いものだった。


しかし……その努力の結果は、ケヴィンが思っていたよりも比較的早くに開花した。


彼が十を過ぎる頃には自分の思い描く通りの動きが、想像通りの自然魔法が行使出来る様になってきたのだ。


この時既に、ケヴィンには倒せない魔物は存在しなくなっていた。


振り回されていた筈の長剣も、当時は身長が足りていなかったにも関わらず、既に体の一部と言える程に使いこなせる様になってきた。


ここまで辿り着くのに、ケヴィンは何度も何度も死線を潜った。


這い蹲りながらも敵から逃げ、腐った魔物の死体でも構わず身を隠す。


血反吐を吐くまで、否、血反吐を吐き続けながら剣を振り回し、体中の血管が破裂しようとも魔法を使い続けた。


何度も死を体感した。


時には魔物に、時には自分で自分を殺しかけた。


体に残る夥しい量の傷跡が、その死闘の数々を物語る。


本来なら四肢が千切れたであろう程に深く広がった傷痕や、心臓部を貫かれた様な傷痕。


正に生きている事自体が不思議な程の夥しい傷痕ばかりだ。


だがそんな死線をいくつ辿っても、ケヴィンは決して死ぬ事が無かった。


一度死を体験した為に死を恐れなくなった事から、死とは程遠い存在になったのかもしれない。


ただケヴィンはそう言った過去の経験を改めて振り返ってみても、やはりどこまでも運が良かっただけだと思う事も多々あったのだった。



――――……。


最後まで読んでいただきありがとうございます。


次の投稿をお待ちいただきます様、お願い申し上げます。

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