分かり切っていた結果
ギルド支部『Winchester』。
エルフィリア国城下町に存在するギルドハウス。
そのギルド支部に備え付けられた闘技場で、ケヴィンとロイは睨みあっていた。
ケヴィンは目の前に居る『ロイ・トニトルス』が英雄である事を先程知った。
何でも白銀の雷鳴と言う二つ名を授かっているSランカーらしいが、どうにも小物臭い感じがする人物だ。
確か白銀の雷鳴と言えば、性懲りも無くエマへ帝位争奪戦を挑んでいるヤツだと耳にした事がある。
エマ自身しつこく挑んでくると言う以外はなんともパッとしない印象だと語っていた事を覚えている。
『帯電』と言う異能力を持っているらしいが、またもや異能力が自然魔法で応用可能な代物が出て来たとケヴィンは思う。
氷帝の温度操作や、防壁の炎神の対物壁、真空の鎌鼬の鎌鼬に、この白銀の雷鳴の帯電。
その全てが自然魔法で行使出来る技術だ。
ケヴィンの中で感じていた、異能力が自然魔法で再現可能と言う理論が、少しずつ立証され始めている。
エリルの龍魂やシアンの絶対切断等が立証を隔てている存在だが、それらもこれからゆっくり観察していくべき対象だろう。
龍魂はもう見る事が出来ないのだが……。
しかし、今はこの目の前に居るロイへの対処だ。
あろう事か、こいつはメイファへ『風魔法』を行使した。
隠蔽魔法を使ってそれを隠してはいたが、あまりにもそれがお粗末過ぎてお世辞にも一級品とは言えない技術だった。
しかし、英雄がそうまでして一般人に向けて魔法を行使した意味が分からない。
どうやら、ドレスコードの厳しいカウ・ボーイへ来店する為に買い与えた髪飾りを破損させる為に使った様だが、何故その様な行動を取ったのか理解できない。
だがどちらにせよ、メイファへ魔法を使ったのは事実だ。
メイファに何も怪我が無かったから良い物の、あれだけお粗末な魔法を使う人物だ、いつ間違えて人を傷つける事になるか知れたものじゃない。
あの時はメイファに促され、彼女も無事だった事から何事も無かったかの様に振舞った。
だがロイは何故かしつこく食い下がり、決闘まで挑んできた。
突っぱねる事も出来たのだが、友人を傷つけかねない魔法を英雄が行使した事ともあり、やはり許せないと言う思いが募りその決闘を受け入れた。
メイファを連れ出したのは自分だ。
彼女に何か危害が加えられれば、自分の責任になる。
それを防ぐ為にも、突然現れたこのロイをここで止めなければならない。
彼が今後……一切魔法を行使出来ないようにする。
それがケヴィンが勝利となった暁に、ロイへ求める命令だ。
そんなケヴィンにロイが求めたのは、メイファとの金輪際の接触禁止と言う目的の分からない命令だった。
彼女とケヴィンは専属ギルド員と二つ名持ちギルドメンバーと言う関係が有るが、相当なイザコザが二人の中に無ければその関係性を解除する事は出来ない。
が、決闘で賭けの対象となった命令に関しての接触禁止令であれば、強い法的効力がある為従わなければならない。
万が一にもケヴィンが負ける事等有り得ないが、仮にもし負けてしまった場合には専属ギルド員は別の者になる事だろう。
有り得ないと分かっているからか、若干賭けの内容に巻き込まれてしまったメイファも、二つ返事でその内容を了承した。
「それではお二人方、準備は宜しいですか?」
Winchesterで暇していたギルド員に審判を頼み、彼のコールを掛けて貰う。
「さっさとやれ!」
ロイは何やらイライラしながら叫ぶが、ケヴィンはゆっくりと手を上げるだけで審判へ返事をする。
観客席にはメイファと、その近くにロイと居た二人の女性が声援を送ってきている。
何故かロイではなく二人とも此方を応援しているのだが、彼女らはロイと仲間じゃなかったのかと首を傾げるケヴィン。
やはり女性心は永遠に分からない気がするケヴィンだった。
「それでは行きます! レディ……」
決闘ルールとして、決闘開始前に魔力を練る事は禁止されている。
試合開始の合図が為されてから身体強化を施すなり、自然魔法の詠唱を始めるなりするのがルールだ。
しかしロイは、そのルールを無視して既に『異能力』を発動している。
『帯電』と言う名の通り、体の周りをバチバチと電気が迸っていた。
審判をしているこのギルド員は、恐らく戦闘経験は殆ど無いのだろう。
明らかなルール違反を行って居るロイの行動を咎めない所を見ると、先程と同じくお粗末な隠蔽魔法の効果で気づけていないと言う事だ。
まぁ、元々審判の公平なる判断等期待して居ない。
確実な勝利を見せつければ、勝敗の結果は揺るがないからだ。
「ファイト!!」
「ライトニングブラスター!!」
審判が試合開始の合図を下した瞬間、スリングショットから弾き飛ばされたパチンコ玉の様に放出されるロイの雷魔法。
あれだけ魔法を構築する時間があったにも関わらずこの程度とは。
次期雷帝が聞いて呆れる。
こんなレベルじゃ、せいぜい来世雷帝と言った所だろう。
エマが生きている限り、永遠に不可能だ。
良いだろう、雷魔法が得意と自称するのなら、こちらも雷魔法で対処してやる。
ケヴィンはそう決めると、ロイの放った雷が目と鼻の先に迫った瞬間、此方も同じ様にライトニングブラスターを放出したのだった。
彼のライトニングブラスターは、ロイと比べて全く構築する時間が無かったにも関わらず、圧倒的な威力でロイの雷を飲み込んだ。
そしてそのまま一瞬にしてロイへと直撃する。
彼は雷撃を受けた自覚が出来ていないのだろう、その得意気で生意気な表情のまま後方へ吹き飛ぶのだった。
「……けはっ」
地面へ激突した後、やっと自分吹き飛んだ事に気付いた様に身悶え始める。
勝負はもう着いたも同然。
ケヴィンはどうせ状況を理解出来ていないだろう審判を後目に、ロイへと近づいた。
「おま……何を……し……」
息も絶え絶えな状況で、肌の所々を焦がしたロイが質問を投げかけてくる。
「何をしたって、普通にお前と同じ様に雷魔法放っただけだろ」
「な……人間……だろ?」
「人間? あぁ」
ケヴィンは何を勘違いしてるんだと思ったが、基本的に普段の自分はパッと見人間に見える事を思い出す。
髪をたくし上げながら、混血種である事を証明する尖った耳を彼に見せる。
「生憎、俺はこう言う存在なんでな」
「ば……かな」
動揺している様だが、碌に呼吸も出来ていまい。
無意味に回復される前に、今の内目的を果たす事にしたケヴィン。