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月下無限天~最強の在り方~  作者:
蒼氷の朱雀編
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デートを邪魔する者

魔物の階級は凡そ三段階に分けられているのだが、その一つ一つの階級の中でも強弱の格差は存在している。


特に中級の魔物の中で上位に属する魔物と、上級の魔物の中で下位に属する魔物の力量はあまり差が存在しない場合もある。


中級上位の魔物と比べてもあまり力量に差が無い魔物であったとしても、硬い皮膚を持っていたり、猛毒を持っていたり、何かしら特徴的な攻撃方法を持っている様な魔物は中級では無く上級へ分類されると言う絡繰りがある。


『フレイムキャトル』もその一例に属する魔物である。


フレイムキャトルは正に特徴的な攻撃手段を持っており、尾の先が常に燃えている牛型の魔物だ。


この魔物はその燃え盛る尾の先から、炎魔法を連射し冒険者へ襲い掛かかると言う攻撃手段を持っている。


習性として群れで行動する事が多く、単体ではそれ程厄介な魔物では無いが、無数のフレイムキャトルから放たれる炎魔法の数々は、例えそれが中級魔法レベルの威力だとしても中々の脅威となるだろう。


単体撃破は比較的楽な魔物なのだが、その習性と炎魔法を連射する事が脅威とされ、上級へと分類されているモンスターだ。


実はこの魔物、『食用』としては非常に高い評価を得ており、家畜としての飼育にも成功している魔物の一種だった。


上級の魔物を飼い慣らすとはなんとも難しい様に捉えられるが、フレイムキャトルが脅威なのは群れで行動する習性と、その尾から放たれる炎魔法のみ。


となればその『尾』を切除してしまえば、実際の所殆ど脅威にならないのだ。


子牛の頃から尾を切断する事によって、戦闘能力を極力排除。


人に慣れさせる事で野生の性質が無くなり、全く被害の無い飼育が可能となった。


主にフォレスガイア地方を中心に高級牛肉として扱われている。


そのフォレスガイア地方に存在するエルフィリア国は特にフレイムキャトルの飼育に力を入れており、全世界から主に上流層の者達が挙って牛肉を食しにその国へ訪れていた。


そんなエルフィリア国の城下町に存在する名店、フレイムキャトルの肉を使ったステーキが絶品とされている店『カウ・ボーイ』は、その日も貴族達や位のある者達の来店で大繁盛していた。


その客の中で、一組の客人が周囲を気にせず何やら騒ぎ立てている。


エルフの三人組だが、幼さの残る風貌を持った男性のエルフの両脇には、彼より少し目上の女性がこれでもかと言う程彼に身を預けていた。


そのエルフの男性は『ロイ・トニトルス』。


彼はフォレスガイア大陸、『ガーマル国』出身の『英雄』である。


純血の長老家系から生まれた英雄であり、齢14にして既にSランクに上り詰めている天才児と周囲から評判な存在だ。


彼の異能力である『帯電』は、戦闘態勢に入る事によって体から常に電気を発する状況を作る事が出来る。


これにより、雷魔法の行使においては目上の英雄達と比べても右に出る者は居ない。


『次期雷帝』と称され、英雄街道を突き進む新生であった。


まだまだ成長期である為に身長は150程しかない小柄な男児だが、どちらかと言えばエルフではその年代としては平均的な身長だ。


染め上げた様なアッシュグレーの癖毛は、ショートカットに整えられている。


幼さの残る見た目ながらも中々に丹精な作りをしている顔は、何とも生意気そうな表情をしていた。


「もぉ、ロイ様話聞いてるのぉ? 今日は私と二人で居てくれるんですよねぇ?」


「キャサリンばっかりずるぅい。私もロイ様とご一緒したい~」


「はぁ? 昨日も一昨日も一晩中ずっと可愛がってやってただろぉ? 今日はキャサリンに譲ってやれよぉ、フローレンス~。あ、それとも二人纏めて愛でてやろうか!? なはははっ!!」


「もぉ~ロイ様のえっちぃ~」


何とも下品な会話をする三人だが、将来有望な英雄に対して早々に唾を付けて置こうとする者がいるのはいつの時代も同じだろう。


そこに真実の愛が有るかは定かでは無いが。


Xランカーの見直しが実施される事となり、我こそはと新たな位に就こうとする英雄は多々存在した。


勿論次期雷帝と期待されているロイも、その中の一人である。


順風満帆な人生を歩み、女性にも苦労しないそれなりのルックスを持った彼だが、そんな彼にも悩みは当然存在する。


その悩みの一つが、自分に与えられた『二つ名』である。


自分が最強と信じて疑わないロイ・トニトルスは、『白銀の雷鳴』と言う二つ名で呼ばれている事がどうしても気に喰わないのだ。


大した問題では無いのだが、現雷帝である『黄金の雷光』の名に完全に見劣りしている気がしてならないらしい。


白銀と黄金では価値が金の方が上だからと言う下らない理由なのだが、その黄金の雷光そのものが目障りで仕方が無い事も拍車がかっている様だ。


雷魔法に関しては目上の英雄の中でも右に出る者は居ないと称されるこの白銀の雷鳴。


しかしそれは語尾に、『黄金の雷光』以外はと言う言葉がいつもついて回っていた。


実際問題として、英雄としての力を遺憾なく発揮し始めた頃から、度々黄金の雷光へ雷帝の位を賭けて勝負を挑んでいるものの、全く歯が立たずに負けてしまっている。


特にここ最近は頭打ちに感じられていた刀聖一派の実力が、突然急上昇し始めている。


いつの間にか自分の十八番であるこの『帯電』の異能力を、黄金の雷光が補助魔法で行使する様にもなってきた。


こうなってしまえば、自分のアドバンテージはもはや異能力による帯電の行使で、少量の魔力で補助魔法を発動出来ると言う点しか無くなる。


だが彼女は応用魔法で僅かながら魔力を消費したとしても、彼女の異能力である『無限魔力』がいくらでも魔力を生み出している。


これははっきり言ってロイに勝ち目は無いと言っている様なものだ。


非常に腹立たしい状況だが、それが現実であるから認めざるを得ないのだ。


それが彼にとっての近頃の悩みだった。


自暴自棄になって金と権力に物を言わせ、ご自慢のルックスで誑かした綺麗処を侍らせ、美味い料理を食い散らかす日々を送っているが、なんとも満たされない日々にうんざりしかけている様だった。


目の前で自分を取り合っている美女達の行動にも正直飽き飽きしていた。


確かに美人なのだが、ロイの好みはもう少し幼い見た目をした年上の女性と言う、なんとも言い難い拘りがあるのも理由として存在する。


しかし年上で尚且つ童顔で、同じエルフで、更には護ってあげたくなる様な女性なんて、なかなかお目に掛かれないでいた。


大きくため息を吐くロイ。


彼の視界の端で、今ロイ達が居る高級ステーキ店への来客が視界に入ってくるのを目にした。


ちらりと目に入った小柄な女性を一瞥し、再び退屈そうな表情を目の前の女性に向けたロイだったが、二度見する様に再び視線を店の入り口へと戻した。


そこには手入れの行き届いた茶髪を頭部で編み込み、綺麗な髪飾りを付け黄色いシンプルなドレスに身を包んだエルフの女性が居た。


見た目的には成人しているエルフだろう。


つまり『年上』だ。


なんともこう言った店での振舞が分かって居ないのか、若干緊張した面持ちでソワソワと辺りを見回す彼女。


その行動目の当たりにし、彼女を『護ってあげたい』と言う衝動に駆られるロイ。


何より一番目を引いたのは彼女のその見た目だ。


なんとも可愛らしく、年上の筈なのに幼く見える風貌。


正に、ロイが理想とする女性のどストライクな存在が、そこに立って居たのだ。


そんな彼女から、ロイは目が離せなくなってしまった。


一体何処にあの様な完璧な女性が居たのか。


名前は何と言うのだろうか。


きっと素敵な名前だろう。


小綺麗に着飾っては居るが、恐らく本来は庶民に近い立場の者なのだろう。


それがまた良い。


英雄としての自分との関係に気負いしてしまう彼女の姿を想像すれば、ロイは居ても立ってもいられなくなってしまった。


しかし、次の瞬間彼の瞳にはとんでもない状況が飛び込んできた。


彼女の後ろから現れた人物である。


まさかの『男連れ』だ。


あろう事か、自分と言う素晴らしいエルフを前にして『人間』の男と一緒に来店する等とは……。


英雄として、数多くの女性からのアプローチを見て来た彼だからこそ分かる。


あの素敵な女性は、一緒に居る男性に『惚れている』のだと。


男を立てているのか、店員に案内される際にズイズイと先を行く男の後ろを、お淑やかに着いていく彼女。


全く、あの男は女性の扱いと言う物を知らないらしいと、ロイは憤りを感じていた。


確かに男の見た目は相当なものだろう。


自分と比較しても良い線は行くが、まぁ自分程で無い。


にも拘わらず、彼女はあの男と嬉しそうに会話をして居るでは無いか。


「そういやここの肉はグラムで選ぶんだったな。レオンやデュランなんて連れて来た日には1キロとか普通に頼みそうだな」


「私は折角なんで、300グラム程頼んでも良いですか?」


「300? 全然好きに食って良いが、そんなに入るのか?」


「最近の女性はこれくらい食べるもんなんです!!」


「そんなもんか? エマはいつも小食な筈だけどな」


「エマって誰ですか!? え? ちょっと! 浮気ですか『ケヴィン』さん!?」


小柄なのに良く食べる女性。


何故かそれも好みに入れようと決心するロイ。


しかし、会話を盗み聞きしていたが、あの『ケヴィン』とか言う男は、あれだけ美しい女性を前にしておきながら別の女性の話をする等とても許せん男だとロイは思った。


何としても彼女を自分のものにしたい、その想いで胸の中が一杯になってしまう。


「ねぇロイ様! 聞いてるのぉ!?」


「うるせぇ! ちょっと黙ってろ!!」


「……どうしたのよロイ様……」


一緒に居る女性は、ロイの突然の口調の変化に動揺し委縮してしまう。


今はこんな飽き飽きした相手よりあの美しい女性だ。


さて、どうやって彼女を落とそうか。


視線さえ合わせれば落ちない相手は居ない。


ロイはそう思っていた。

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